弁護士山本行雄 情報提供 札幌弁護士会所属

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よくある質問(法令解説8):放射能汚染を法律上公害として扱う意味

2017-07-11 10:46:52 | 公害犯罪処罰法と原発公害

  <記事の複写配付自由です。「制定しよう放射能汚染防止法」と合わせてご活用ください。同内容の記事が別にありますが,「よくある質問」に入れ整理しました。従来の記事も当面残しておきます。>

よくある質問(法令解説8)

<放射能汚染を法律上公害として扱うことの意味>

  

Q 放射性物質を公害として扱うことは、現実に起きている福島原発事故による被害や原発の再稼動などと関係があるのか.

 

A 重大な関係があります。直面する三つの具体的な問題を取り上げて説明します。

<以下の記事は、市民の方からコンパクトでイメージが持ちやすいと言っていただいた短文をベースにしたものです。従来の記事を「よくある質問」に入れました。>>

 

環境基本法が改正され、放射性物質の適用除外規定は削除されましたが、国は法整備を怠っています。

 放射能汚染を公害として扱うことの意味を、現在具体的に直面している次のテーマに即して説明させていただきます。これは、放射能汚染防止法制定運動の過程で報告してきた内容のポイントです。

 <直面する三つの課題>

*被災者の救済問題 

*事故由来廃棄物の問題 

*原発再稼働問題

 

1 最初に、法制度の大きな「枠組み」をつかんでおきましょう。

具体的問題がわかりやすくなります。

 原発問題の負の側面である災害や被害は、大きく分けて①安全 ②災害 ③公害という三つの法律分野に係わっています。それぞれの分野に「基本法」と下位法が連なっています。
① 安全=原子力基本法、下位法には原子炉等規制法、原子力規制委員会設置  法などがあります。
② 災害=災害対策基本法、原子力災害対策特措法、福島復興再生特措法など  があります。
③ 公害=環境基本法、大気汚染防止法、水質汚濁防止法、土壌汚染対策法な  どがあります。

 従来、放射性物質は③の公害関係の法律の適用を除外され、①の「原子力基本法その他の関係法律の定めるところによる」(削除前の13条)とされてきました。しかし、①の原子力関係の法律は、公害規制の法律ではありませんし、公害規制も行っていません。こうして放射能汚染に対する公害規制という課題は法律の世界から消えてしまったのです。原子力産業がもたらす負の課題は、安全、防災というテーマにほぼ限定される「法的枠組み」になってしまいました。

 以上の「枠組み」を意識しておくと原発産業がもたらす様々な問題の理解に役立ちます。

 

2 直面している具体的問題について考えてみましょう。

 

具体的問題 その1 原子力公害被害者の権利と被災者

 現在の「法的枠組み」によって、ひどい目にあっている典型が原発事故被災者です。国は、被災者を②の災害対策の枠内で扱っています。公害被害者としての権利は全面的に無視しています。住宅支援も、災害対策上の「現物支給」として行われています。

 この法律関係の中で被災者が不安を口にすると「わがまま」のように聞こえてします。「不安をあおるな」「復興の妨げだ」「カネをもらったのに」などの社会的仕打ちを助長することになります。

 政府が恐れているのは「それは違う! 被災者には公害被害者としての権利がある!」という声があがることです。環境基本法改正の意味を見ていくことにしましょう。

 環境基本法が適用になりましたが。何をすべきかが書かれていないのであれば、国が被災者に何をすべきは、ゼロからの出発ということになります。しかし、そうではありません。国が公害被害者に対して何をしなければならないかの基本的事項は環境基本法に書いてあるのです。

 ① 環境保全に関する(公害が含まれます)総合的施策策定責任(6条)

 ② 人の健康と生活環境が保全されるように実施する責任(14条)

 ③ 被害者救済責任(31条2項)

 ④ 法制上財政上の措置責任(11条)

 ⑤ 上のような施策を生存権の確保に基礎をおいて実施する責任(1条)

 福島第一原発事故の被災者に対して、国は、公害被害者の救済責任があり、被災者は、救済を要求する権利があります。しかし、国は故意に法整備を中断状態で放置し、被災者を権利者ではなく、あくまで災害対策の対象として「扱う」政策を実施しているのです。被災者は、放射能汚染」という公害の被害者です。「子ども被災者支援法」も、公害被害者の権利という視点で見直し組み替える必要があります。

 公害法令の不十分さを意識するあまり、差別と偏見に抗して公害被害者が残してくれた上のような法律まで無視するようなことがないようにしましょう。

 

・・・・・以下引用

 ちょっと理屈っぽいけど知っておきたい基礎知識

 行政法上、行政が人に対して「こうせよ」(作為命令)「こうするな」(不作為命令)と命令することがあります。災害対策基本法、原子力災害特措法の警戒区域指定に伴う立ち退き命令や、立ち入り禁止は罰則を伴う命令です。避難指示には罰則はありませんが「指示」とあるように、行政が一方的にある行為を求めるものです。この避難指示を解除したのだから、国はもう責任がない、というのが政府の立場です。政府が恐れているのは「違う! 被災者には公害被害者としての権利がある」という声が上がることです。 <「制定しよう 放射能汚染防止法」>より

 ・・・以上引用終わり

 

 *20ミリシーベルトは公衆被ばく線量限度とは別

 被災者をひどい目に合わせている大きな問題に、避難指示解除と20ミリシーベルトの問題があります。国は③の公害法の適用を怠るだけでなく、②の災害関係の法律を濫用して、①の原子力法の公衆被曝線量規制まで無視する政策を行っています。

 

・・・・・以下引用  

 原子力災害特措法による避難基準は、公衆被曝線量基準とは別です。原子力災害の際「緊急事態なので避難せよ」という防災上の措置として設定される数値です。緊急事態宣言があろうがなかろうが、それに伴う避難基準がどのように決められようが、法律上の公衆被曝線量限度は同じです。本来公衆被曝線量の基準は公衆を被爆から守るための基準ですから、防災上の避難基準としても1ミリシーベルトに設定すべきです。しかし、これを超えて設定したからと言って、公衆被曝線量の1ミリシーベルトが変更されるものではないのです。また、東電の賠償責任が左右されるわけでもないのです。したがって、避難指示が解除され、そこに住むことになった人には、当然公衆被曝線量限度1ミリシーベルトが適用されるべきものです。ところが政府は、原子力防災の避難の基準に決めた20ミリシーベルトを基準に、原子力防災法による避難指示が解除されたのだから、そこに住めますよ、いやなら勝手にしろ、国も電力会社も責任を負わないぞという態度に出たのです。政府は原子力公害を規制する法律がないことをよいことに、原子力災害特措法を悪用して、堂々と法的根拠のない被ばく線量を押し付けています。いったん1ミリシーベルトという基準を無視してしまったので、汚染に合わせて基準を作れば、その基準が通ってしまうという体制です。<「制定しよう放射能汚染防止法」より>

・・・以上引用終わり

 

被曝線量基準などは、放射線障害防止技術基準法で異なる法律の間でも「斉一(せいいつ)」に、すなわち一斉に同じ値で決めることになっています。この点からも、公衆被ばく線量基準が防災上の避難基準で変更されることなどありえないのです。

1ミリシーベルトという公衆被曝線量限度を原子力災害によって無視したことの意味は重大です。もはや、どんな重大事故を起こしても、その汚染に合わせて避難基準を設定すれば通用してしまうということです。歯止めのない無責任体制です。したがって、この問題は福島原発事故の被災者だけの問題ではないのです。事故後、われわれすべてが、このような無責任体制のもとで生活しているということなのです。

 

具体的問題 その2 公害規制なき汚染廃棄物のゴミ扱い

 最初に示した法制度の③の公害規制の法律が未整備のため、ひどいことになっているのが事故由来廃棄物の問題です。

 放射性物質は人の健康を害し環境を汚染する公害原因物質です。通常公害原因物質は、大気を汚染し、水質を汚濁し、土壌を汚染します。そこで、公害規制は、大気を汚染するな、水質を汚濁するな、土壌を汚染するな、という三つの「汚染するな」という法律制度になります。環境基本法13条も、この三つについて放射性物質を適用除外にしてきました。

 この三つの「汚染するな」という公害規制の法律なしに公害原因物質を廃棄物処理法や循環型社会基本法を適用したらどうなるでしょうか。公害規制なきばらまき政策、汚染拡大政策になってしまいます。汚染対所特措法がまさにこれです。行政が任意の基準で汚染ゴミを通常のゴミ扱いできることにしました。行政はゴミ扱いできる基準をキログラムあたり8000ベクレルとしました。廃棄物埋設施設から漏洩してもおとがめなし、住宅、学校、保育所の近くで焼却を禁ずる立地規制もありません。ゴミ扱いに加えて循環型社会基本法を適用しました。ひどいばらまき政策につながります。現に汚染廃棄物の公共土木事業利用政策が進められています。このように公害規制なき放射能汚染ゴミの拡散政策となっているのです。

 汚染対処特措法は、国がいわば廃棄物事業の元請け事業者として、捨てる基準、方法、場所、利用などをお手盛りで決められる「廃棄物処理事業法」とも言えるものです。「捨てる者」が国であろうと民間であろうと大気汚染、水質汚濁、土壌汚染を規制する「公害規制法」が必要なのです。旧公害対策基本法をそっくり引き継いだ環境基本法はそのような法律なのです。

 具体的に法整備を考えてみましょう。

 汚染ゴミについて公害規制は、希釈・拡散政策を集約・封じ込めのに改め、すべての汚染ゴミ施設(処理施設、処分施設)を対象とする規制基準、環境基準を整備し、総量規制・濃度規制を行うこと。通常のゴミと汚染ゴミの区別は従来のクリアランスレベルであるキログラムあたり100ベクレル以下とすること。処理・処分施設の監視は文字通り時間的断続のない常時監視とすること。施設の管理義務違反などの罰則を整備すること。自治体の横出し上乗せ条例制定権を明記すること。住宅、学校、保育所などからの距離制限など立地規制を行うこと。どこに処分するかなどは以上のような公害規制法の整備を前提に行うこと。

 以上のような、公害規制として当然行うべき法整備なしに進められているのが現在の事故由来廃棄物政策です。公害規制なしの政策論は自治体間の汚染の「押し付け合い」になってしまう恐れがあります。自治体は住民を守るために国に対して「公害規制の法整備するのが先決だ」というべきです。

 

具体的問題 その3 原発再稼働問題

 1の冒頭で、原発問題の負の側面について①安全 ②災害 ③公害という三つの法律分野をあげました。原発再稼働は、原子力規制委員会による①の安全審査、総理大臣が原子力防災会議の議長として指揮を執る②の防災訓練、知事の同意などを経て再稼働へという流れになっています。③の公害の問題は全く「課題」から外されています。

 原子力問題は何か、と言えば、放射能汚染によって人と環境に害を及ぼすからです。事故が起きた後の広大な地域の汚染、住宅や田畑の放棄、家畜の遺棄、漁場の放棄、甲状腺癌の心配や、家族の分断、地域の崩壊等です。

 原発再稼働の是非は、このような被害と照合して、なお、再稼働をするのかという問題なのです。過酷事故を想定して総理大臣が指揮して防災訓練を行っているのです。事故を想定する以上被害を想定するのは当然です。環境基本法が改正され放射性物質が公害原因物質に位置づけられた以上当然のことです。

 「放射能汚染防止法を制定する札幌市民の会」は。北海道知事に農産物、海産物の被害などについて、詳細な質問をしています。被害の面から取り上げる運動は全国に広がる兆しを見せています。

 原発問題を公害問題として取り上げるということは「放射能汚染」という被害を正面から見据えて課題にすると言うことです。5年以上にわたる法整備運動をともにする中で多くの人に納得してもらえるとらえ方であると確信しています。インドの反核平和活動家のイマーム・スンダラムさんが、札幌に来られた際、インドの原発建設計画はマンゴの産地とのことで、我々のとらえ方に強い関心を持たれていました。汚染という被害から地域の生活に根ざした運動が起こり、各地の運動が広く響き合うことを願っています。

 

3 50年後、100年後の人々を想像してみましょう。

 3基の原子炉のデブリ、50基の原発の残骸、大量の使用済み燃料・・・・・今に生きる我々よりも、ずっとひどい状況になっています。我々は未来の人々に対する「加害者」なのです。人を犠牲にし、汚染を拡散する場当たり法制度から、時々の政治や経済に左右されない放射能汚染防止法に転換させる責任があります。

                                                   以上

 

 

 

 

 

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