弁護士山本行雄 情報提供 札幌弁護士会所属

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よくある質問(法令解説6):事例で考える=原研被ばく事故

2017-06-19 21:52:07 | 放射能汚染防止法制定運動

 

<記事の複写配付自由です。「制定しよう放射能汚染防止法」と合わせてご活用ください。>

よくある質問:(法令解説6)

<事例で考える:原子力機構事故>

Q 茨城県大洗町のプルトニウム飛散事故は、どの法律に、どのように関係しているのか。放射性物質に対する公害規制法整備運動と、どのように関係するのか。

 

A 事実関係に即して、労働安全衛生法と原子炉等規制法を考え、さらに一般公衆に汚染や被曝が及ぶ場合を想定し、必要な公害法整備まで検討します。

労働安全衛生法(と電離則)の説明は、読むのがやっかいかも知れませんが、放射能汚染防止法の必要性を理解していただくための前提です。がんばってみてください。

 

1 事実関係

201766日日本原子力研究開発機構(以下「原研」)大洗研究センターで、作業員が、ウラン、プルトニウムが入った保管容器のボルトを緩めて、蓋を開けたところ、中のビニールバックが破裂、放射性物質が飛散し、作業員5名が被曝した。という事故です。

 当初、機構から、作業員の方の肺から2万2千ベクレルのプルトニウム239が測定されたと発表されましたが、その後の検査の結果、肺からプルトニウムは検出されなかった。と報道されています。

破裂した保管容器は26年前に封印され、その後容器の中身は確かめられていなかったとのことです。(以上各全国紙の報道を要約)

 

2 作業員の被曝と労働安全衛生法

(1)労働安全衛生法と電離則

「作業員」は労働者ですから、労働安全衛生法違反が問題となります。放射線を扱う作業について労働安全衛生法は、事業者に対して「電離則」と呼ばれている規則に従って作業させなさい、と定めています。違反には罰則があります。(注1)

(2)封印容器について

 「保管容器」という表現が出てきました。電離則は、放射性物質を保管や貯蔵するときは容器に封入しなさいと定めています。容器は、腐食しにくい材料で作られ、かつ、気体が漏れないものであること、となっています。(37条)これに違反していたとなれば労働安全衛生法違反になります。(労働安全衛生法22条違反)(注2

 この封入容器は、26年前に封印され、その後安全状況を確かめていなかったようです。そうすると、「気体が漏れないもの」になっているかどうかを長期に亘って安全確認を怠ったことが22条違反になる可能性があります。

 少し理屈っぽく言うと、気体が漏れる違反状態がすでに存在し、事故を契機に違反が発覚した、という言い方もできます。

 労働基準監督署が調査に入ったという報道がありますが、この22条の遵守状況を中心に調べたものと思われます。

(3)従業員の休業や保障

労働基準法や労災保険(労働者災害補償保険法)によって、休業補償、医療費などの保障を受けられます。

(4)従業員が障害を負った場合

 使用者、監督義務者は、労働安全法違反の他、刑法上の業務上過失傷害罪の責任を負う可能性があります。

(5)こぼれたプルトニウムなどの汚染はどうする?

 こぼれた場所によりますが、放射性物質取扱作業室以外の場所にこぼれたときは、キログラム当たり100ベクレル以下になるまで除染する義務があります。(電離則28条)。これはクリアランスレベル(原子炉等規制法61条の2)と同じですね。

 

3 原子炉等規制法と保安規定

 原子炉等規制法違反の問題にもなります。報道によると、原子力規制委員会が保安規定違反について調査に入ったとありますが、同法では、核原料や核燃料物質を扱う事業者に「保安規定」を作成させ、原子力規制委員会の認可を受けさせるように義務付けています。事業の種類は精錬、加工、再処理など多数ありますが基本構造は同じです。事故を起こした事業がどれに該当する事業として認可を受けているのか定かでありませんが、保安規定で定めた安全基準に違反していないか否か、保安規定の改善命令の必要性があるか否かなどを調査したのでしょう。

 保安規定違反があったらどうなるかですが、保安規定違反自体に罰則はありません。罰則があるのは、保安規定の認可を受けないで操業した場合、是正命令に違反した場合だけです。事実上こんなことをすることはまれでしょうから、罰則は無いも同然です。

原子炉等規制委員会が、保安規定にどんな是正命令をするか、原子力施設全般の安全規制にどう反映させるか注視しましょう。

 

4 一般公衆に被害が及んだ場合はどうなる?

① 今回の事故による放射性物質が施設外に飛散し、大気を汚染し、近隣河川や地下水を汚濁し、土壌を汚染したらどうなるでしょうか。

 せいぜい保安規定の濃度規制違反程度が問題になる程度です。

これは規模が違うだけで、福島第一原発事故とまったく同じ構造です。原子炉等規制法の排出規制は総量規制のない濃度規制だけであり、しかも濃度規制違反に罰則はありません。汚染しても被曝させても責任を負わない制度が今も続いているのです。

 このような法の欠陥に対処するために放射能汚染防止法の整備運動を行っているのです。環境基本法が改正されたのに合わせて、放射性物質を公害原因物質として規制する規制基準を整備し、罰則は伴わないものの環境基準も整備しなければなりません。

 大洗センターでは、26年間も安全確認もないままにプルトニウムを封入した缶が放置状態にあったということです。今回の事故は原研の放射性物質管理施設で起きましたが、放射性物質を扱う施設は、原発、再処理、精錬、加工、廃棄物管理、汚染水管理など多数あり、膨大な量の放射性物質が公害規制の無いままの状態になっています。

労働安全衛生法や原子炉等規制法の安全管理で汚染から人や環境を守ることなどできるものではありません。(注3)

「放射能汚染から人と環境を守る」という課題意識を持って現実を見れば、放射能汚染防止法の整備は避けて通ることができないことがわかっていただけると思います。

 

注1 労働安全衛生法22条、27条、119条 違反は6月以下の懲役又は5万円以下の罰

金。

 電離則 事業者が守るべき基準などを定めた省令。正式名称「電離放射線障害の防止に関する規則」。違反は労働安全衛生法22条違反となって罰則適用がある。

注2 電離則では、キログラム当たり1000ベクレル以上の放射性物質はこのような密閉容器に封入することが事業者に義務付けられています。このような放射性物質を扱ったピンセットなどの管理も義務付けられています。

注3 事故を起こさせないための安全規制や、労働者を守るための安全衛生規制は、一般の人々の健康や環境を守る公害規制とは別です。原子炉等規制法の安全基準、労働安全衛生法の労働者健康障害の防止基準等があるから、それでよいという考えは、公害法制度を全面否定するにも等しい誤りです。

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