イスラム歴史・文明館 7 (イスラム古典文明の細かい特徴)

2017-08-14 05:57:35 | 論文

その他に、細かい特徴として次のことが挙げられるでしょう。

 

1 中国は日本と違い理論的哲学的であるが、イスラム文明圏はインド未満、中国以上であり、実用性を尊重するが、信仰文明でもあり、精神性もある程度尊重する。イスラム文明圏においては歴史の研究もありましたが、自然科学の研究の要素も強かった。このことは中国文明において人文科学の要素がより強かったことと対照的であります。

 イスラム文明の場合、精神的とはいえ、インドと比べ、その関心の範囲は広く、浅いような傾向があるように思われます。しかしイスラム文明においても長く分裂は続きました。けれどもインド文明の分裂とイスラム文明の分裂とは性質が異なるように思われます。

 

2 精神的ではありますが、現実主義的でもありました。イスラム文明圏はその理想をウマイア朝からアッバース朝へと実現させてきたのですが、権力の掌握と維持については敏感でした。精神的指導者でもあるカリフは大商人の勢威については対抗処置をとり、弱体化したホラーサーン軍に対しては子飼いのマムルーク軍隊をあてたのですが、これに結局やられてしまいました。アッバース朝には優れた官僚組織もありました。しかし結局軍隊を掌握できず、混乱に陥ったのですが、こうしたことは後のオスマントルコでもくりかえされました(イェニチェリの反乱)。イスラム文明にある奥深い特徴としまして「力への信仰」があるように思われます。神は力であり、奴隷軍隊も上下関係による力、ジハードも力であり、それはまた力によって裏切られる歴史でもありました。そしてその力とは民衆の政治意志とは必ずしも同じものではないもののようです。それは解釈された信仰なのかもしれませんが、ヨーロッパの教会のように組織化されていたわけではありませんし、世俗が教会に征服されたわけでもありません。イスラム文明圏では当初から世俗も宗教も同じであり、法のあり方を決めるのはウラマー(専門家)であるという考え方が自然であったかと思われます。

 

3 コスモポリタンであること。イスラム文明はエジプト文明やペルシャ文明からの流れを融合した文明でもあり、包容力のある思想を持っていた。そしておそらくは情報とネットワークを基盤とした文明であり、その意味でローカルにして農業を主体とした中国文明やインド文明とは異なるものでした。簡潔で分かりやすく、相互に利益をもたらす、社会構造力:第3原理(共同体発展の原理)の力によるイノベーションだったのではないかと思われます。そうした社会構造力のイノベーションはムハンマドによって発見されたもの(アッラーによって与えられたもの)であり、その文明に属する限り、安全保障なりネットワークなりの恩恵をうけることができるという、当時としては便利な文明であったかのように思われる。

 

4 ネットワーク文明であること。離れた場所の情報を活用することができ、それを最大限に利用できる人間が潜在的な力を持つことができるが、こうした大商人は中央に強大な政治権力や軍事勢力が登場するのを忌避したかもしれない。そのように見てくると、セルジューク・トルコやオスマン・トルコといった大国家あるいはモンゴル帝国の成立は大商人たちにとってみればどういう意味を持ったのだろうか。イスラム文明におけるアッバース朝以降の分裂状況に対し、その後、トルコ、モンゴルといった中央アジア系の民族がイスラム文明の担い手となっていったが、かなりの部分、イスラム文明における精神面(カリフ)、世俗面(スルタン)の圧力を緩和したのではないか。

 

 5 女性の地位が低いことが挙げられます。イスラム文明の歴史には女性の権力者はほとんど出てこなかったようです。それは宗教的な特性によるのかもしれませんが、インド文明も女性の地位は低かったのですが、イスラム文明の場合、インド文明と異なり、性的表現にあたるようなものは厳しく抑えられていました。そうかと思えば経済力のある優れた男性がより多くの女性の面倒をみるという現実主義的なアプローチも持っていました。イスラム文明の地域は交易上有利な場所にありましたが、厳しい気候にあったので、男女間の規律も厳しい反面、合理的な家族構成を形成していたのかと思われます。隣接したヨーロッパ文明、インド文明はイスラム文明に比べて、幾分男女間の関係が緩く思われ、あるいは一夫一婦制であるのは、それらの地域がイスラム文明の地よりまだ豊かであり、インド文明とヨーロッパ文明で個人主義に差があるのは、その宗教や文化の発展の仕方に違いがあったからかと思われます。男女間のあり方もさることながら、イスラム文明と個人主義の問題も今後どうなるのか注目していかなければならないかと思われます。

 

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