冒険的演奏

2017年05月07日 | 日記
N響第一コンマスの篠崎史紀氏が率いるスーパーオーケストラ、通称「マロオケ」による指揮者無しのコンサートシリーズ「最高の男たちの冒険」の第5回目が今日、熊本県立劇場コンサートホーで開催されました。このシリーズ、毎回聴きに行っていますが、今回も期待にたがわぬ素晴らしい演奏会でした。プログラムはオール・ブラームスで、前半はハンガリー舞曲、後半は交響曲1番、そしてアンコールはチャルダッシュ。このプログラムを指揮者無しで演奏するなんて信じられない話ですが、見事という他ないものすごい凝集力で、それはそれは気魄のこもったエキサイティングな演奏でした。
それにしても、最近の日本のオーケストラの音色は、驚くほど本場の音になっていますね。このメンバーがこのホールで演奏するからこそかもしれませんが、私がクラシック音楽を聴き始めた昭和50年代に比べれば別世界のようです。今は外国が遠い国ではなくなっていますし、生活スタイルも音感やリズム感もヨーロッパとの違和感がほとんどなくなっているからかもしれませんが、とにかく音色が美しい。つややかで滑らかで、柔らかく且つ張りのある、いつまでも聴いていたい心地よい質感です。
コンサートに足を運ぶ聴衆も、一握りの教養層だけではなくなっています。クラシックファンの底辺も随分拡がっていますし、クラシック愛好家ではなくても楽しめるように、演奏家たちも創意工夫を凝らすようになってきたからでもあるのでしょう。今日もオケのメンバーによる解説を挟み込みながらの演奏会でしたが、プレイヤーという人種は基本的にそんなに能弁ではないので、立て板に水という解説ではありません。でもそれが却って親しみが持てて良いのですね。言葉での説明には限界があるので、実際にちょっと演奏してみせながら説明してくれるのですが、これがまたわかりやすい。本番の演奏への期待がいやがうえにも盛り上がるというものです。
ブラームスの交響曲、私は4つとも大好きですが、21年の歳月をかけて作曲された第1番は特に、その産みの苦しみがしのばれるほど様々な楽想がてんこ盛りで、それだけに終楽章の世にも美しい主題とフィナーレに向かう盛り上がりは絶品です。しかし、ブラームス特有の風通しの悪さというか景気の悪さは、スカッとした音楽が好きな方には耐えがたい隠々滅々さに感じられるかもしれません。実際、昔の演奏はテンポがひきずるように遅いものが多かったし、和声も分厚いので、その重厚長大さに辟易する、と仰る方も結構いました。でもハンガリー舞曲などはアゴーギクが効いていて、エキゾチックでとても魅力的です。交響曲も以前と比べて随分スマートな印象を受ける演奏が多くなりました。ブラームスはメロディメーカーではないけれど、構成力がすごくて、交響曲は特に、壮大な建築物が建ち上がっていくのを目の前で見ているような迫力があります。
実は昨日も、教会で素敵なチェロのリサイタルを聴きました。前半は聴いたことのない珍しいプログラム、後半はチェロのコンサートの定番、シューベルトのアルペジオーネ・ソナタでした。弦楽器の音は人間の肉声に似ていてとても落ち着きます。2日続けてクオリティの高い演奏を聴いたからか、満ち足りた気分です。音楽が毛穴から沁み込んできて、細胞が喜んでいる、という感覚。今日のコンサートの終演後、両隣の方から「素晴らしかったですねー」と声をかけられました。お2人とも涙を流していらっしゃいました。私も涙を抑えきれませんでした。そして、何だかスッキリした気持ちになりました。

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