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#18

2017-04-19 20:20:28 | 暁と共に
(305室 青垣諒太様)
...なぜ、彼女とこんなところで再び会うことになったのだろう。
運命が俺たちを引き合わせた、と考えるのかさすがにおこがましいが、
三年前にそれぞれの道を進み始めてから、吹っ切るつもりだったのにー。

俺が生まれたとき、実母はすでに死亡していた。
親父は酒浸りになり、俺と兄貴は酔っ払った親父から逃げ回っていた記憶しかない。
そのあと親父が自害し、当時5歳の俺は、親戚の経営するポケモン育て屋に引き取られ、兄貴とは生き別れになった。
育て屋は五人の子供がいて、俺は一日中、お客さんのポケモンの世話と家事の手伝いでこき使われることとなった。
そうしてポケモンという存在を知り、俺の特殊能力も判明した。
俺にとって、ポケモンと話せるのは初めから当たり前のことであった。
育て屋の一家は、俺の言ってることはおかしい、ポケモンが喋るなんてありえない、と否定した。
元々俺がこの家の本当の子供ではないことも相まって、より一層風当たりは強くなった。
子供たちは率先して手伝いの邪魔をするようになり、おばさんは俺を怒鳴り散らし、穀潰しと罵倒した。
いつしか俺の話し相手は、ポケモンだけになっていたー
いや、正確には、心を開いて話せる人間はいたー当時17歳であった長女の綾子だ。
誰よりも愛情深くポケモンと接し、家計の足しにするべく、家の手伝いの他にハナダ喫茶店でアルバイトをしていた。
そして俺に対しても、母親のような無償の愛情を注いでくれた。
当時の俺にとって、彼女は唯一、俺が絶対的な信頼を寄せて胸の中に飛び込んでいける相手であった。
しかし、綾子と別れる時がきた。
ハナダ喫茶店に立ち入った大財閥の御曹司が、彼女に一目惚れし、プロポーズしたという。
綾子は何よりも大切にしていた、♀のイーブイ「ダイアナ」を俺に残して、シンオウ地方へ嫁いでしまった。
独りぼっちになった俺が9歳のとき、育て屋は経営難を迎え、家計はより一層火の車へと化した。
俺以外のメンバーの間でも諍いが絶えなくなり、おじさんは俺の親父のように酒浸りとなった。
極限状況がしばらく続いたあと、その状況は、おじさんの自害により幕を閉じた。
育て屋はたたまれ、おばさんは俺を残して、子供達と別地方へ行ってしまった。

今度は引き取り手がいなかったようで、俺はタマムシ孤児院へ送られることとなった。
ダイアナを抱いて、孤児院の先生に手を握られて、俺はそこへ訪問した。
新しいお友達ですよ、という声に反応した孤児たちが、一斉にこちらを向いた。
その中に、彼女はいた。
明らかに他の子供たちより年齢が上の彼女を見た瞬間に、俺は綾子を思い浮かべた。
陽だまりのような温かさを含んだ優しげな眼差しー
顔の造形そのものは似ていなくとも、その雰囲気は綾子そのものであった。
彼女はそのときすでに、ポケモンコーディネーターとしてホウエン地方に旅立つ直前であった。
出発までの数日間、彼女と色々な話をした。
彼女は当時、17歳だった。
俺の特殊能力のことを話しても、彼女は驚かなかった。
いや、驚きこそしても、否定はしなかった。
これは綾子と彼女、そして舞乃だけだ。
彼女の手持ちポケモンは、ブラッキーに進化した俺のダイアナと対をなすかのように、エーフィであった。
数日後、彼女はホウエン地方へと旅立った。
孤児院のみんなと一緒に、俺はテレビに映る彼女を応援した。
徐々にみんなの彼女に対する関心が薄れ、最初はみんなで集まって視聴していたコンテストの中継も、
いつのまにか俺一人でポツンと座って見ることになっていた。
それでも俺は、彼女を応援し続けた。
ーそう、その年のグランドフェスティバルの決勝戦で、彼女が敗退するまで。

一年でコーディネーターを引退した彼女は、カントー地方へと戻ってきたが、息を吐く間もなく就職活動を始めた。
そして18歳で大手のヤマブキ出版社の内定を勝ち取った彼女を、みんなが祝福した。
彼女は新社会人としてタマムシマンションで一人暮らしすることになり、孤児院を去ることとなった。
それから間もなく俺は、特殊能力を活かせる職業ーポケモン生態調査員として働き始めた。
戸籍はタマムシ孤児院のままだが、現地周辺で秘密基地を構えて生活するため、実質的には孤児院を去っていた。
こうして、俺の彼女に対する想いは何一つ表面化しないまま、そっと俺の中に消えていった...はずだった。
しかし今日、彼女とここで再会した。
それが良いのか悪いのか、今の俺には分からない。
ただ一つ言えるのは、俺の想いは無理やり抑圧していたに過ぎず、何も完結していなかった、ということだ。

ー綾子によく似た彼女と、もっと話したかった。
あのとき、彼女のことを応援したい想いと、遠くに行って欲しくないという想いが交差していた。

この想いを、彼女に伝えるべきなのだろうか。
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