真理の探求 ― 究極の真理を目指すあなたへ by ぜんぜんおきなわ

9月2日 講演会&交流会やります。
詳しくは第八十回ブログをご覧ください。

第九十一回 言葉の二面性(その四)

2017-08-13 12:18:59 | 思索
絵描きの道は虚無の色に辿り着くための道ではない。虚無から身を起こす道だ。
ベルクソンや小林秀雄なら、画家の苦しみについて、そう表現するかもしれません。

前回、怪物の目を持った少年が、海を見て愕然とした経験から雄々しく身を起こし、青の絵具を取る場面を見て来ました。

大人になり、美を前にして御辞儀の仕方を心得た彼は、なぜ青の絵具を取るのでしょう。海も、空も、青い花も、それらは皆、青ではないと深く感得したにもかかわらずです。

彼は大人になり、世間にへつらうことを覚えたのでしょうか。それとも、世間のアホどもは「海は青い」と洗脳されているから、そいつらのお気に入りの画家になるために、あえて海を青い絵具で描くのでしょうか。

答えはまったく違います。

海は青でも、赤でも、黒でもない。その虚無の深淵を覗いた彼は、この世に戻ってきて、やはり海は青いことに愕然とするのです。

深淵の絶句より雄々しく戻ってきた画家は、海という虚無を描くに当たって、青の絵具を取る。しかし、それは世間で言うところの「海は青いな、大きいな」ではない。それゆえ、そうでない青を表現するために、彼は青という色をひたすら探究する。

これが、一流の画家が生涯を賭けて探究する「色」という深淵なのです。

それを真似して、二流の画家は、深い色になるように青を研究する。自分の絵が深みのあるものに見えるようにするために、色を研究するのです。

一流はそんなことはしない。深い色? 笑わせるな。俺が出したい色は、深くも浅くもない。虚無の色だ。

絶句より戻った彼は、きっとそう言いながら、嘆息を漏らすでしょう。

「深い色」を出そうとする努力と、「あの深さ」を色で出そうとする努力は、同じ努力とは言っても、まったく違います。

ゴッホの描く「ひまわり」や「麦畑」で使われている黄色も同様です。あの黄色を、深いとか、感動的だとか、ゴッホの真骨頂だとか、そうやって評する様々な外野の賞賛は、ギャラリーのお客さんや評論家にでも任せておけばいい。

そういう外なる感想は横に置いておいて、我々は少なくとも次のように心に刻みこんでおけばいい。

あれは、あの黄色は、ゴッホの叫びなのです。精神病院の鉄格子を掴み、手から血を流しながら外に向かって叫ぶ、彼の声です。だから、あれを花や畑といった外なる風景を描いたものだと勘違いすれば、ゴッホの絵は単なる美術品で終わる。

あれは、自分の叫びを描いたもの、つまり叫ぶ自分を描いた自画像なのです。だから、ああいう黄色でなくては困る。黄色は黄色でなく、叫びの色でなくてはならないのです。

こう言うと、ゴッホはひまわりや麦畑といった自然物に、自分の苦しみや叫びを仮託したのではないかと言う人も出るでしょう。そういう見方は、ひまわりや麦畑は人間じゃないから叫ばないと洗脳された人の見方です。

そのように社会に洗脳された人の方が、社会的には確かに真っ当です。そこには自己と麦畑との間に、厳然たる分断がある。人間社会はその分断で成り立っています。この世で真理の目から見つめられた狂人として生きたくなければ、その分断は大事にした方がいい。

しかし、人間の目からすればそういう社会の方がリアルでしょうが、麦畑の観点から見たらどうでしょうか。もし、ゴッホのような狂人の方が、麦畑から見てリアルだったらどうでしょう。

自分の叫びと麦畑の叫びとの間に、区別をつけることができない狂人の方が、虚無の目から見たらリアルな人間なのだとしたらどうでしょう。

今日は池田晶子(1960-2007)の言葉を引用して終わりにしましょう。

以下引用

われわれ人類、言語を所有する人類が、その言語によって語っているところのものは、それが言語によって語られているというまさにその理由によって、そこに語られてはいない。

それは語り得ない。

だからこそ語るために、われわれは言語を所有したのだ。

したがって、そこで言語によって語られているものは、それが言語によっては決して語り得ないということについての、悶えか叫びか嘆息に他ならない。

したがって、裏返し、読むとは絶句の息遣いに耳を澄ますことである。

引用おわり
(リマーク1997-2007 トランスビュー 3頁)
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