税理士法人 税の西田 税金Q&A

日々の暮らしに役立つ税金の知識をQ&A形式で紹介します。

相続後の農地の管理と土地活用の税務について

2019-06-20 08:57:18 | 相続税
Q.質問
 夫婦で米と野菜を3.6ha耕してきましたが、1月に夫が急逝したので私が全財産を相続しました。とくに土地建物は先祖から引き継がれてきたものだけに、家産として守っていきたいと思っていますが、私一人では農作業を続けることはできません。そこで、調整区域内の農地は将来子どもが就農するまでの間、専業農家に借りていただき生産緑地は市長に買い取りを申し出て宅地として貸すことにしました。これからの土地活用で留意すべきこと、土地を他人に賃貸する場合に想定される権利義務や地代の決め方、耕作権、賃借権、借地権の税務において留意すべき点はどんなことでしょうか。

A.回答
・土地を財産として活用するには
 土地神話が崩れて30年経ち、地代や家賃は公共料金つまり「原価」であり「生活費」であること、土地に収益性と換金性、安定性が無ければ財産ではないことも分ってきました。この間、土地税制は取得・保有・譲渡の各段階で一貫して強化されてきたことから投資や投機の魅力を削がれ、土地は財産ではなく仕事や生活の手段にかわってきました。ちなみに、今の相続の世代間隔はおよそ27年(父が94才で、子が67才とする)、相続税の実効税率が20%であれば、現行の固定資産税・都市計画税のもとでは何も利用しないと、次の相続までにその土地は35%まで目減りする勘定になります。不動産は他人の物を借りる方が経済的だと云われる由縁です。

・土地を活用するということ
 同じ路線価でも形状や環境、用途が違うように全く同じ土地はありません。それぞれ土地には地の利があり、個性があるから機能性や使い勝手などの利用価値は千差万別。土地を貸すときは、住環境づくりをしつつ最も相応しい用途を見つけ、土地で貸すのか土地と建物で貸すのかを判断して最適な借り手をさがすことが大切です。

・真に借りたい人に借りていただく
 地主は、投資家に所有地を一定の賃料(保有コスト+利益)で貸す。投資家は、採算と利回りを試算して他人の土地上に建物を取得して運用する。テナントはその土地建物の機能を必要な期間だけ借りて商売をするといった取柄交換型が必要かもしれません。地主は建物への投資は不要で、管理費、解体費用などの支出が無いので安定収入が見込めるというものです。これからは、「この土地で商売をしたい」、「この土地に住みたい」という真の借り手に出会うことを心がけ、建ててから借り手を探す成り行き経営は避けたいものです。有利な運用が望めない場合は土地を譲渡するか優良物件へ買換えするのも選択肢のひとつです。

・土地の貸借と権利義務
 土地を他人に貸すということは、利用目的が何であるかを問わず、その土地の所有権の一部が使用収益権として借り手に移るのです。契約は使用貸借か賃貸借か、建物の所有を目的とした普通借地権か定期借地権か、資材置き場か駐車場としての賃借権かによって借り手に移る使用収益権の度合いが決まります。我が家の土地の保有コストを計算してから受け取るべき権利金等の額、地代の料率、これらを補う敷金や保証金の額を算定して交渉に臨みます。なお、無償で土地を貸借する使用貸借の場合は、借り手は地代を支払わない代わりに、固定資産税等その土地の維持費用を負担しますが、この権利を相続することはできません。

・農地を貸す場合の留意点
 農地に耕作権を設定したり農地を譲渡・贈与する場合は農地法にもとづく農業委員会の許可が必要です。農地を小作に出したい場合は、まず自ら借り手をさがして農地法3条による賃借権を設定するか、農地の集積事業としての利用権を設定します。借り手を特定できない農振農用地は、農地中間管理機構へ貸付希望の申出書を提出して、借り手をさがしてもらうことになります。農地法3条による賃借権を設定した場合、その農地の相続税の評価額は、通常の価額の70%(調整区域内の農地は50%)になります。つまり法定更新など借り手にも相応の権利が移ることから合意解約が義務付けられているわけです。なお、利用権を設定した農地の相続税評価額は、法定更新の適用が無いことからその農地の価額の95%相当額になりますが、借り手はこの賃借権の5%を相続財産に算入する必要はありません。

・農地中間管理機構による貸付
 農地中間管理機構による貸付は、借り手の希望が無ければ契約が成立しないだけに、借り手が現れるまでは自ら管理しなければなりません。この制度のもとでは、農地の固定資産税は所有者の負担、農業共済掛金や水利組合等の負担金は借り手の負担になります。貸し手に相続が発生した場合の農地の価額は、農地集積事業の利用権と同様です。なお、固定資産税の減免措置として、農地中間管理機構に15年以上の期間貸し付けた場合には5年間、10年以上15年未満の期間貸し付けた場合は3年間、それぞれ固定資産税が1/2に軽減されます。

・土地の貸付と権利金等の授受
 生産緑地を宅地に転用すると固定資産税は一気に宅地並み課税になりますが、宅地にするまで畑として利用しているうちは、負担軽減措置により5年目(1年目0.2、2年目0.4、3年目0.6、4年目0.8、5年目1.0)に宅地としての課税価格になりますから留意して下さい。
 建物若しくは構築物の所有を目的とする土地の賃貸借契約を結ぶときは、借地権相当の権利金か相当の地代(土地の価額の6%)を授受しなければなりません。ただし、法人との土地の賃貸借契約において、「契約が終了したときは土地を無償で返還する旨」の届出を税務署長へ提出しておくと、税務署長は授受された権利金等や地代の額に不足があっても認定課税をしないことになっています。これは、税務上の取扱であって法人にとってみると借地権ですから、これが一人歩きすることがありますので留意する必要があります。なお、定期借地権を設定した場合は法定更新がないので、安心して運用することができます。さて、土地の賃貸借契約において、土地の価額の10分の5を超える権利金等の授受があったときは、貸し手は土地を譲渡したものとみなされて譲渡税が課税されますから留意して下さい。
 3年以上の期間他人に土地を使用させることによって一時に受け取る権利金等の額(土地の価額の10分の5以下の場合)が、土地の使用料の年額の2倍以上であるときは、臨時所得として平均課税(五分五乗方式)による税額計算の特例を受けることができます。

相続が始まったら何をどうすべきか

2019-04-22 08:51:19 | 相続税
Q.質問
 先月末に父が高齢にて他界しました。相続のことは話として聞いていましたが、我が家で相続が発生すると何をどうしたらよいか全く見当がつきません。死亡届をはじめ、国民健康保険と国民年金の異動手続きを終えたところです。相続人(配偶者、長男、二男、長女の4人)としてこれから何をどうすべきでしょうか。なお、父は10年前に公正証書にて遺言書を作成していました。 それは、「全財産を長男に相続させる」としたものです。

A.回答
・相続は法律そのしくみと税
 相続法では、相続は人の死亡によって開始するとして失踪宣告や認定死亡とともに相続の原因を明かにしています。さらに、被相続人の財産に属した一切の権利義務は相続人がこれを承継するとして、相続人全員が一旦は財産と債務を承継することを義務付けているのです。つまり、無主物にならないためです。したがって、相続人になりたくない場合は相続が始まってから3ケ月以内に、家庭裁判所へ行って相続を放棄することができます。また、相続人が2人以上の場合は相続財産は共有になり、各相続人の持分は法定相続分ということになります。この共有を解くことを共有物分割ならぬ遺産分割というわけです。税法では遺産分割において、各相続人が法定相続分によらず余分に貰っても、何も取得しなくても各相続人に対して贈与税や譲渡税がかかることはなく、取得した財産に応じて相続税を課税することにしているのです。

・相続人の特定と財産目録の作成
 相続が始まったら、先ず戸籍を取って相続人を特定する必要があります。次に相続財産に関する資料を集めて財産目録を作成します。財産目録は相続開始時の財産と債務を記載したもので、各相続人の権利と義務を確定し、相続を放棄するか否かを判断するほか、相続税の総額を試算するための大切な資料です。被相続人は公正証書遺言を残していたようですから、遺言執行者は財産目録を作成して各相続人へ交付しなければなりません。

・遺言の執行か分割協議か
 遺言執行者が遺言を執行(遺言執行者が不動産や預貯金の名義書換えなどの手続を行うこと)すると、他の相続人から遺留分を請求される場合があります。受遺者は遺留分を何で返還するかの準備します。遺言が執行されるまでは、相続人の合意によって遺産分割の協議を進めることができます。遺言が執行されると相続人は遺贈によって相続財産を取得したことになりますから、相続税の特例を受けることができます。なお、自筆による遺言書は裁判所の検認を受けてから執行することになります。

・相続税は分割協議次第
 遺言書がない場合や遺産分割協議を優先する場合は、事業を承継すべき者と祭祀を主宰すべき者を決めて、各相続人にとって最もふさわしい財産を取得させるための原案を協議します。円満な話し合いが出来れば、相続税の負担が最も小さくなる節税への工夫も可能になります。ややもすると、相続は土地建物の登記や預貯金の名義書換が済めば終るものとして、いきなり遺言を執行したり、そのための協議書を作成して不動産の登記を優先しがちですが、名義を書き換えたり登記をしてからでは遺産分割の見直しも、有利不利を選択する余地もありません。不動産の相続登記は相続税の申告納税の見通しがついてから実行するようにして下さい。

・相続人を特定する
 90年余の被相続人の歴史を精算する相続ですから、必要な相続情報を集めることが大切です。まず、被相続人の出生から死亡するまでの戸籍を市町村役場へ請求して、相続人が誰と誰なのかを特定します。家族が認識していなかった相続人の存在が明かになることもありますが、法務局や金融機関などの第三者へ示すお墨付きでもあるのです。

・財産と債務を調べる
 つぎは、相続財産や債務を評価計算するための資料の収集です。被相続人が所有していた土地建物に係る固定資産税課税台帳の写しと評価証明書、土地建物の登記簿謄本、預貯金や有価証券の残高証明書、取引明細書、預貯金通帳、死亡共済金の支払明細書と共済契約に係る積立金の残高証明書。被相続人が財産を造成した経緯や借入金、貸付金の存在を知ることができる所得税の確定申告書、故人の手帳や日記帳、金銭出納帳、契約書類、減価償却費の計算明細書など。お葬式にかかった費用の請求明細書と領収書、支出メモ、香典帳などを用意して、財産と債務の残高を確定します。

・被相続人の所得税、相続税の申告納税
 各相続人は相続の開始を知った日の翌日から4ケ月以内に、被相続人の所得税(今年の1月1日から死亡した日までの分)の準確定申告をしなければなりません。相続人全員が連署した申告書の付表を添付して提出することができます。また、相続開始後から年末までの遺産に係る所得は受遺者や分割取得者のものですが、遺産が未分割の場合は各相続人が法定相続分で所得したものとして、その所得を申告することになりますから留意して下さい。相続税の申告が必要な場合(小規模宅地の評価の特例を適用する前の総財産から債務を控除した正味財産が相続税の基礎控除額を超える場合)は、相続の開始を知った日の翌日から10ケ月以内に相続税を申告して納税することになっていますから、早目の対応が必要です。

・専門家をさがす
 そうすると、相続人の調査、財産目録の作成、遺言か協議かの選択基準、準確定申告書の作成と申告納税、相続税の申告書の作成と納税計画等々、いずれの手続きも専門的な知識や技法が必要です。前述のように相続も税金も法律ですから、納税者が気付かないところに目が届く仕事を期待して専門家に依頼するのも得策かもしれません。相続の手順を心得て経営移譲や事業承継に詳しく、財産評価に長けた経験豊富な専門家の力を借りる必要があります。相続はパートナー次第と言われる由縁です。

遺産分割の調停で相続税はどう変わるか

2019-02-20 18:29:59 | 相続税
Q.質問
 去年の8月に父が亡くなったので、相続人(配偶者と3人の子)が分割協議を進めていたところ、突然、裁判所から遺産分割の調停を開く旨の通知を受けました。相続税の申告期限までに遺産分割の話合いがまとまらなかった場合は、相続税の申告納税はどうなるのでしょうか。母親の相続のときはもっと争うのではないかと心配しています。これに向けてこれからどんな準備が必要ですか。

A.回答
・なぜ、相続人全員の合意が必要なのか
 相続は人の死亡によって開始し、相続が開始すると相続人は被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継することになっています。相続人が二人以上の場合はこれを法定相続分で共有することになります。まさに、遺産分割協議はこの共有物を分割することに他ならず相続人全員の協議による合意が必要なのです。

・遺産の分割を調停や裁判に委ねる
 亡くなった人の財産について、遺言書がなく死因贈与契約もない場合は、改めて遺産分割協議によって誰が承継するかを決めなければなりません。相続人間で話合いがつかず相続財産が相続人の共有のままですと不安定で不便ですから、遺産の分割を裁判所の調停や裁判に委ねる必要があります。つまり、第三者に分けてもらうということです。

・合意が得られないときの相続税の申告
 相続(遺産分割によって財産を取得すること)又は遺贈(遺言や死因贈与契約によって財産を取得すること)によって財産を取得した者は、相続の開始を知った日の翌日から10ケ月以内に相続税を申告納税しなければなりません。期限内に何を相続するかが決まらない場合でも申告納税は猶予されません。つまり、申告期限までに分割協議や調停によっても遺産を分割することができないときは、各相続人は法定相続分で財産を取得したものとして相続税を申告し納税しなければならないのです。

・未分割の場合は不利な申告納税に
 相続財産が期限内に分割されない場合は、各相続人が特定の財産を取得したことにならない訳ですから、相続又は遺贈によって財産を取得した者に認められている特例を適用する余地がなく、10ケ月以内に提出する相続税の申告書は分割した場合にくらべて不利な内容になってしまうのです。

・相続預貯金が使えない
 遺産は未分割でも、全員の合意によって預貯金だけ払いもどしを受けて納税に当てることは可能です。自己資金で納税できる相続人はこれに賛同しないことも考えられ、余裕で調停に望むことが出来ますが、相続預貯金を当てにしていた相続人は納税資金に窮することになります。

・相続税の延納を申請すると
 金銭で一括して納付することが困難な場合は、相続税を延納することができますが、延納税額が100万円を超える場合は担保が必要になります。未分割の相続財産は共有財産ですから、納税者は持分があるも、換金性がないとして延納を許可してくれません。固有の担保物件を持っていない相続人にとって厳しい納税環境を強いられることになります。調停が長引くと担保を用意できない相続人は延納申請を却下されるおそれがありますから留意して下さい。

・未分割財産は物納申請できない
 相続又は遺贈によって財産を取得した者が納付すべき相続税は、金銭で納税することが原則ですが、金銭で納税できない部分は延納することができます。延納によってもなお納税できない部分は相続によって取得した財産を物納することができます。まだ分割されていない財産はたとえ相続人の持分があっても単独で処分できないので物納することができません。なお、相続税を物納する場合は申告期限内に物納申請書を提出しなければなりません。したがって申告期限内に調停が整わない場合は物納することができないことになります。

・相続税の納税猶予は受けられない
 相続又は遺贈によって農地を取得した場合の農地の相続税の納税猶予制度は、申告期限内に取得した農地とともに農業相続人としての適格証明書が発行される見込みがなければ適用を受けることができません。この特例は申告期限後において農地を分割取得されても適用を受けることはできません。

・分割できるまで小規模宅地の評価の特例はない
 被相続人が住んでいた居宅の敷地、被相続人の事業用の建物の敷地などについては最高730㎡までの部分を80%減額できる有利な制度(小規模宅地の評価の特例)は、相続人がこれらの財産を相続又は遺贈によって取得した場合に適用されます。したがって適用対象者がこれらの土地を調停などによって取得できるまではこの特例の適用がありません。そこで、申告期限内に提出する未分割の申告書には、近い将来に分割の見込みである旨の「分割見込書」を添付して、調停成立後にこの特例の適用を受けることにします。なお、申告期限から3年以内に調停が不成立であり、さらに訴訟が提起される場合には、その時から2ケ月以内に「やむを得ない事情の申出書」を提出しておかなければ後日この特例を受けることができません。

・分割できるまで配偶者の税額軽減はない
 相続又は遺贈によって被相続人の財産を取得した配偶者が納付すべき相続税については、相続税の総額のうち、相続財産の1/2または1億6000万円のいずれか大きい金額に対応する部分は軽減されます。したがって、相続又は遺贈によって取得した財産がこれらの金額の範囲内であれば、相続税を納税する必要はありません。ただし、遺産が分割(調停が成立する)されるまではこの特例の適用を受けることが出来ません。

・これからどうする
 遺産分割の調停では、相続の本質に立ち返り共同相続人としての権利と義務を明確にして、相応の遺産を承継することが大切です。次の相続で同じ轍を踏まないためにも、生前協議を重ねて承継すべき財産と債務を特定し話合いの結果を遺言書にまとめること。申告期限までに想定される納税額に相当する共済金が支払われるよう共済に加入し受取人を指定しておくこと。各相続人ごとに特定した財産はできるだけ生前に贈与していく工夫が必要です。相続が円満であれば相続税を余計に納めないで済むわけですから、くれぐれも節税対策を優先することなく、結果としての効果を求めることが得策です。

生前贈与があった場合は相続税にどんな影響がありますか

2018-12-20 18:25:28 | 贈与税
Q.質問
 父はかねてから家族へ計画的な生前贈与を進めていました。今年9月30日には、①自らの居宅とその敷地の一部を母に贈与したので、来年3月15日までに贈与税の申告書を提出して配偶者への居住用財産の贈与の特例(2000万円まで非課税)を受けることにしていました。ところが父は10月10日に急逝したのです。父はこのほかにも子や孫たちに贈与をしていました。②私は昨年の秋に農地の生前一括贈与(贈与税の納税猶予を選択)を受け営農に勤しんでいます。③弟は3年前に賃貸用の倉庫を相続時精算課税によって贈与を受けています。④姉は平成27年の11月に居宅を新築するにあたり、住宅取得資金の贈与を受け適法に申告しています。⑤2年前には孫達全員(4人)に各500万円の教育資金の一括贈与をしています。さらに、⑥父は母と子ども3人の相続人に各110万円の現金を昨年と今年の2回贈与しています。これらの生前贈与は父の相続においてどんな影響が考えられますか。この相続で各相続人は何んらかの財産を取得することにしています。

A.回答
・贈与税と相続税の関係
 生前贈与は相続税の軽減や相続人の自立を目指して一家団内で行われるものだけに、相続が始まる間際の贈与は相続財産減らしを意図したものが多く、相続開始前3年以内に集中する傾向にあります。そこで、贈与税は基礎控除を相続税より小さく、税率は相続税より高く、相続や遺贈によって財産を取得した相続人が相続開始前3年内に贈与を受けた財産は相続財産に加算することにしています。つまり、相続税の課税を容易に回避できないしくみなのです。

・生前贈与の効果
 ところが、誰もが長生きできる時代を迎え、相続財産が高齢者に偏っているとして、親の財産を子や孫たちへもっと移転して消費を拡大する政策が講じられたのです。一定額まで非課税で贈与できる住宅取得資金の贈与、婚姻期間が20年以上の夫婦間における居住用財産の贈与における二千万円の配偶者控除、二千五百万円の特別控除と20%の定率課税で贈与できる相続時精算課税制度、農地の生前一括贈与における贈与税の納税猶予制度、非上場株式等の贈与税の特例納税猶予制度、子や孫への教育資金の一括贈与、結婚・子育て資金の一括贈与など、高齢社会を反映した目的のある贈与を奨励しています。非課税・配偶者控除・特別控除・定率課税・納税猶予・納税免除など節税効果も大きく相続対策として欠かせない手段といえます。

・生前贈与が相続税に及ぼす影響
 ①配偶者へ贈与された居住用財産は特定贈与財産として相続開始年のものであっても相続開始前3年以内の贈与であっても、相続税の課税価格には加算されません。配偶者は贈与税の配偶者控除の適用を受けるために来年の3月15日までに一定の書類を添付して贈与税の申告書を提出しなければなりません。この贈与によって生前贈与した分だけ相続財産を減らしたことになります。
 ②農地の贈与税の納税猶予の特例を受けた農地については、贈与された農地を相続開始時の価額で相続財産に加算して相続税額を計算します。この場合、改めて農地の相続税の納税猶予の適用を受けることができますから、営農を続ける限り農地に対する相続税は納税を猶予されることになります。
 ③の相続時精算課税制度によって贈与を受けた倉庫については、贈与を受けた時の価額を相続財産に加算して算出した相続税額から、贈与時に納付した贈与税額を控除し、控除しきれない部分は還付を受けることができます。この場合のメリットは贈与時から相続開始時までの家賃収入が相続人へ帰属することで、相続財産をふやさない効果があることです。
 ④の住宅取得資金として姉が贈与を受けた金銭は、相続開始前3年以内のものであっても非課税財産ですから、相続財産に加算する必要はありません。この贈与によって、子どもの独立と相続財産を減らす効果がありました。
 ⑤贈与によって教育資金口座へ預けられた貯金は、受贈者が30歳になるまでは相続開始時に使い残しがあっても、相続税が課税されることはありません。
3年以内の贈与加算の必要がなく、子や孫達の教育の保障と相続財産を減らす効果がありました。
 ⑥父の財産を相続した各相続人は、昨年贈与された現金110万円と今年受けた110万円を相続財産として相続税の課税価格に加算する必要があります。つまり相続開始前3年以内の贈与は、相続財産を取得した相続人にとって節税効果は無かったと云えます。

家業の青色事業専従者はどのように承継すべきか

2018-10-17 14:09:48 | 所得税
Q.質問
 施設野菜の栽培と不動産貸付事業を営んでいた父が今年の8月に亡くなりました。 相続人全員による遺産分割協議が整い、長男の私が家業の承継者として必要な財産を引き継いで事業を開始しました。引き続き母と妹が私の事業に従事してくれることになりました。そこで、農業と不動産貸付の事業を初めて開始したとき、今年から青色申告者になろうとするとき、母や妹を青色事業専従者として給与を支払う場合に何か手続きが必要ですか。誰でも青色事業専従者になれますか。将来、私の所得が基礎控除額以下になったときは専従者の扶養親族になることができますか。仕事が暇なときに母や長女はパ-トとして他で働いても差しつかえありませんか。

A.回答
・事業を承継した場合の税務
 相続が始まると相続人は相続財産を調べたり遺産分割の協議に時間をとられ、事業承継に伴う税の手続きを失念しがちです。所得税では被相続人の廃業届、後継者の開業届は1ケ月以内に、開業に伴う青色申告承認申請は相続が始まった日の翌日から4ケ月以内に、青色事業専従者に関する届出は事業専従者がいることとなった時から2ケ月以内に、源泉徴収税額の納期の特例の申請、必要に応じて消費税の課税事業者届出書等を提出します。

・事業を承継するには
 父が営んでいた事業は相続が開始した時に相続人全員が法定相続分にしたがって承継していることから、遺言がなければ遺産分割協議を経て承継すべき者と必要な財産を特定しなけれはなりません。相続開始の日の翌日から4ケ月以内に承継者が決まらないと相続開始年の後継者の所得税は白色申告ということになり、青色事業専従者給与などの特例を受けられません。そこで、家業を承継する予定者は期限内に青色申告承認申請書を提出しておき、事業開始の日から2ケ月以内に青色事業専従者給与に関する届出書を提出することをおすすめします。

・親族間の所得計算のしくみ
 所得税では、事業者と生計を一にする配偶者その他の親族が、その事業者の営む事業に従事したことその他の事由により対価の授受があっても、受け取った金額を配偶者等の所得にしない代りに、事業者の必要経費にもしないとしています。これは親族間とくに生計を一にする家族内でのやりとりによって過度に税負担を軽減しようとする動きを封じるためのものです。

・青色事業専従者給与の特例
 その反面、青色申告の普及を奨励するために青色事業専従者給与の必要経費算入を特例として認めています。青色申告者と生計を一にする配偶者その他の親族が専らその事業に従事していることなどを条件に、専従者給与等の額が仕事の内容などから相当と認められる場合は、農業所得や不動産所得の金額の計算上必要経費にするというものです。

・青色事業専従者になるには
 青色事業専従者になれる生計を一にする親族の年齢は、その年12月31日の現況で15才以上であること、その年を通じて6ケ月を超えて従事すること、その事業が年の途中における開業・廃業・休業、事業者の死亡、従事者の死亡、病気、婚姻その他の理由により事業に従事できなかった場合には、従事することが出来ると認められる期間を通じてその二分の一の期間を超えてその事業にもっぱら従事すれば足りることになっています。なお、学校の生徒・学生、他に職業を有する者(その事業にもっぱら従事することが妨げられないと認められる者を除きます)は青色事業専従者には該当しません。

・事業専従者は扶養親族になれない
 事業者の必要経費に算入される青色事業専従者給与の支払を受けている親族は、たとえ支給額が103万円以下であっても、生計を一にするいずれの親族の扶養親族や控除対象配偶者にも該当しないことになりますから留意して下さい。ところで、事業者の所得が基礎控除額以下になったときは、事業者は専従者の扶養親族になることができます。なお、青色事業専従者である長女が年の途中で結婚した場合、事業主と長女の夫とが生計を一にしていないことを条件に控除対象配偶者に該当することになります。

・パ-トとして他で働くこと
 事業専従者は、その事業に専ら従事すること、その対価が適正な額であることなどが要件になっています。専ら従事することとは、従事すべき時間内において、そのほとんどの時間を従事することであって、他に職業を持っていても従事する時間が短いなど事業に専従することを妨げられないと認められる場合は専従者に該当することにしています。文字通り農閑期等の限られた期間である場合でも作業日誌をつけるなど農閑期を明かにしておく必要があります。