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映画評: 「パッセンジャー」 :近年まれにみるSF映画の傑作! 星4.5 ネタバレ満載

2017-04-13 19:02:23 | 映画テレビ批評

映画評: 「パッセンジャー」 :近年まれにみるSF映画の傑作! 星4.5   ネタバレ満載

わたしは、この映画は観ないつもりであった。“美男美女もの” の映画にろくなものはないからだ。しかし、この映画を観た友人にたまたま感想を聞き、先入観にとらわれずに観てみようと思って観たのだが、観て正解であった。

 

まずは、「映画.com」 の解説を見てみよう。

“ 「ハンガー・ゲーム」「世界にひとつのプレイブック」のジェニファー・ローレンスと「ジュラシック・ワールド」のクリス・プラットが主演をつとめ、宇宙船内で極限状態に置かれた男女の愛と運命を描いたSF大作。20XX年、乗客5000人を乗せた豪華宇宙船アヴァロン号が、新たなる居住地を目指して地球を旅立ち、目的地の惑星に到着するまでの120年の間、乗客たちは冬眠装置で眠り続けていた。しかし、エンジニアのジムと作家のオーロラだけが予定よりも90年近く早く目覚めてしまう。絶望的で孤独な状況下で生き残る方法を模索するうちに、2人は惹かれ合っていくのだが……。「イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密」のモルテン・ティルドゥム監督がメガホンをとり、「プロメテウス」のジョン・スパイツが脚本を手がけた。”

 

 

SF映画としては、わたしは先月、「映画評 「クリミナル 2人の記憶を持つ男」 を書いたばかりであるが、同じ “SF映画” というジャンルであるにしても、今回の 「パッセンジャー」 のほうに高く軍配を挙げざるを得ない。さらに、これと比べると、昨年公開されたマットデイモン主演の 「オデッセイ」 がどれだけつまらない作品だったかと、あらためて思う。あれはけっきょく、NASA のプロパガンダ映画だった。

 

● 本作は、ストーリーのリアリティー、科学的整合性、説得力、ファンタジー、奥の深さ、 の点で完成度が高い。

●  腹黒い悪玉も、おどろおどろしいエイリアンも登場しないが、近未来の外宇宙移住の現実性がバックグラウンドとして非常に効いている。

● 登場人物の心理描写が非常に優れている。

 

● あまり前例のない大きな倫理的問題を提起している。

 

● 宇宙船の構造、外観、内部のディテールのリアリティに脱帽。俳優陣と並ぶほどのウェイトがあると言える。

  

 

 

 

Part 1

クリス・プラット扮する主人公ジムは、5000人の乗客と一緒に移住先の惑星に着くまでのあいだの120年間を宇宙船の中で冬眠するはずが、コンピューターエラー(?)のために、ひとりだけ予定よりも90年早く目覚めてしまう。

  

そして、宇宙船内でたったひとりの残りの人生を過ごす羽目になる。この宇宙船の中の巨大な空間が言い知れぬ寂寥感をかもしだしている。CGにしてはすごいし、セットだとしたら、もっとすごい。

 

相手はロボットのバーテンダーだけである。

 

Part 2

孤独感にさいなまれた彼は、居並ぶ冬眠ポッドに眠っている約5000人の乗客の中に、美しくて知的な オーロラを見つける。

良心の呵責を感じながらも彼女の冬眠装置に介入的な操作をして、彼女を目覚めさせてしまう。何も知らない彼女はジムと同様に装置の故障のせいだと思い、自然にジムに惹かれていく。

 

ちなみに映画中では彼女の職業が字幕では 「作家」 となっているが、英語では writer であって、これは単に 「著述業」 にすぎない。 「ライター」 という訳のほうが自然ではないか。日本語で 「作家」 は ほとんど 「小説家」 と同義であるが、 writer は、いわゆる 「物書き」 一般なのである。

 

 

 

彼女は自分が目覚めたのはジムと同じように冬眠装置の故障だと思っている。ロボットのバーテンダーは、ジムに口止めされている。しかし、オーロラがすでにジムから秘密を打ち明けられていると勘違いしたバーテンダーは、悪気もなく彼女に真実をを語ってしまう。

 

 

 オーロラ は(ロボットの)バーテンダーのうっかりした言葉から真実を知り、逆上する。真実を知ったオーロラ は激昂してジムに詰め寄る。そしてジムを拒絶したまま同じ宇宙船内に暮らすようになる。しかし、約5000人を救うために必死に奔走するジムに協力する過程で、ジムを許しはじめる。

 

 彼女が一人で宇宙船内のプールで泳いでいるときに、宇宙船の重力発生遠心輪の回転が急に減速し、無重力状態が発生してしまう。そのプールの水が彼女を中に入れたまま空中に浮き上がって、巨大な水球になる。 このシーンは素晴らしい。圧巻である。スペースシャトルの中での水玉のお遊びを、プールの水で、しかも人間を中に入れた状態で映像化することを思いついた人間が製作スタッフの中にいたのだろう。その思いつきを実現したスタッフに拍手を送りたい。実に見事に成功している。

 

 

 

 

 Part 3

宇宙船の機関室長も目覚めて起き出して来る。

 

 

機関室長のIDブレスレットによって、それまでアクセスできなかった区域にも入れるようになり、隕石群を浴びた宇宙船が深刻なダメージを受け、危険な状態にあることがわかる。

 

 

ジムは、「眠っている約5000人の乗客を救うために」、必死にその故障を直す。ちょっと待ってくれ。そのとらえ方には若干問題はないか?黙って聞いていると “お為(ため)ごかし” に響かないか?何しろ同じ宇宙船で一蓮托生の運命共同体である。ジムは第三者としてこの宇宙船の救出に向かうのではないのだ。“第三者”の有志による任意の行為であるならば、「5000人を救うため」 と言えるかもしれないが、ここでは“当事者” なのであるから、任意の行為ではなく、むしろ、“義務” である。自分の命を救うことと眠っている5000人の乗客たちの命を救うことは不可分で一体なのである。

 

 

 

 

Ending

 ジム と オーロラが目覚めてから約88年後に、宇宙船はオートパイロットで目的地の惑星に無事に着く。それに合わせて冬眠装置が解除されて、まずは乗務員たちが目覚めて起きてくる。

 

 

 

 「何じゃ、こりゃ?」 と呆気にとられる宇宙船の船長(アンディ・ガルシア)。

 

宇宙船内は、まるで地球の “大草原の小さな家” のような状態になっていた。 映画では“大草原の小さな家” が映し出されるだけで、そこにはジムとオーロラの姿どころか、人間の姿は一切ない。しかし、二人が幸せな生涯を送ったことがつつましく暗示されている。

 

ジムは、エンジニアとして、人間の幸せのために “作ったり、直したり” するのが仕事である。映画の最後のシーンでは、ジムがオーロラに新天地での自分の夢として語っていた木造の家がある。

 

ジムとオーロラは、結ばれて子供をつくり、それも大家族を作ったのではなかろうか。そして宇宙船内に   「大草原の小さな家」 を築いたにちがいない。当人たちは宇宙船内ですでに他界し、彼らの子供たち、孫たちが宇宙船内に暮らしていたにちがいない。

 

 

 

“冬眠装置の無断の解除” は許されるか?

さて、最初に冬眠が解除されて目覚めてしまったジムが、1年後にオーロラを “起こして” しまうのだが、この行為がはたして、正当化できるものか、許されるものか、は大きな倫理的問題であろう。

自分の満足のために、ひとの人生を大きく左右することがはたして許されるものか?いったん起こしてしまったら、生きている間に目的地に到着することはできない。しかも、宇宙船という “無人島” で一生を終えなければならなくなる。実際、主人公ジムは、その計画を思いついた自分を責め、いったんはその計画を放棄しようとする。しかし、誘惑に抗しきれず、ついに実行してしまう。

さて、“冬眠装置の無断の解除” は言ってみれば、 “誘拐・監禁” のようなものである。当人の意志に反して、相手の自由を奪い、道連れにする行為である。

たしかに、理屈の上では、この行為は相手の人権を無視した行為であり、道義的に許されるものではないが、主人公の置かれた極端な状況下では、理解できるものではある。

そして、“誘拐・監禁” の被害者は、次第に “加害者” と心を通わすようになる。これはまさに “ストックホルム症候群” である。

 

真実を知ったオーロラは、激昂し、半狂乱になって主人公を責めまくる。しかし、もし最初に “故障で” 目覚めたのが彼女の方だったら、どうであろうか? 絶対にだれも道連れにしないまま、宇宙船の中で一生 “無人島生活” を送ると言いきれるであろうか?

もし誰かを道連れにできるとしたら、“若い男性” を、それもできれば “イケメン” の男を5000台もの冬眠ポッドを覗き込みながらじっくりと選び出すのではなかろうか?彼女に対するこの “反論” は映画の中では決して出てこないが、冷静に考えれば十分に成立するものだ。

 

 

“利害の相殺” 

さて、宇宙船が隕石の雨を浴びて深刻なダメージをこうむり、今にも爆発しそうな状態であることがわかり、ジムはオーロラの助けを借りながら、必死になって故障を直す。二人はたまたま目が覚めていたので故障を知り、力を合わせて、約5000人の生命を救うことができたと同時に、自分たちも死なずに済んだことになる。 つまり、もし二人が目覚めていなかったら、宇宙船の故障は修理されることが無く、遅かれ早かれ爆破して、宇宙船も、二人を含む冬眠中の乗客の5000人も、宇宙の “藻くず” となっていたのである。

ということは、不本意に起こされてしまっとことを知って逆上したはずのオーロラは、もし起こされていなかったら、何も知らずに死んでいたことになる。たまたまジムに起こされたので、生き永らえることができたのである。 “結果的には” ジムに “命を救われた” ようなものではなかろうか?

たしかにこれはあくまでも “結果論” であって、このことをもって他人を勝手に “誘拐・監禁” したことを正当化することはできない。しかし、“利害の相殺” という心理がはたらくことは否定できないだろう。「ま、いいか」 ということである。

 

 

ジムの “目覚め” は偶然ではなく、仕込まれていた?

ジムの冬眠装置の解除は、宇宙船の隕石群との衝突が原因のエラーであることが、次第にわかってくるのであるが、同じく機関室長の冬眠装置も約1年後に解除されて起き出して来るのだ。この2つのケースは単なる偶然であろうか?

まず、映画の始めの方で、プロフィールが明らかにされるが、ジムはエンジニアである。5000人の乗客全員の個人情報、プロフィールがコンピューターに入力されているのだ。

わたしはこう考える。宇宙船には高度なオートパイロット装置がコンピュータ制御で機能している。しかし、同時に120年間文字通り無事に宇宙空間を飛び続けるためには、さまざまな故障や不測の事態に対処するための危機管理対策がプログラム化されているはずである。しかし、すべてが無人で自動的に解決できる問題やトラブルばかりとは限らないだろう。

やはり、生身の人間が実地に問題を確認して、解決するしかないことも起きるであろう。そういった場合のことを想定して、非常時にはあえて一部の乗員の冬眠装置を解除して、問題解決に赴かせることも最高度の機密事項としてプログラム化されているのではなかろうか。

さて、主人公のジムはエンジニアとして登録されている。わたしは、宇宙船の人工知能コンピューターが自らの故障を直させるために、あらかじめ万が一の場合のために入力されていたエンジニアのジムを遠隔的に起こしたのではないかと思うのだ。乗客はエコノミークラスとゴールドグラスがあるが、ジムはエコノミーなので、応急処置のための ファーストレスポンダーとして “使い捨て” にされた可能性がある。しかし、1年間、彼は乗務員室にも入れず、宇宙船自体の深刻な故障に気づかない。

 

そこで、宇宙船の人工知能コンピューターは業を煮やして、約1年後に “本命打者” の 「機関室長」 を起こしたのではないか?宇宙船の構造、推進原理、故障について適切な判断のできる立場の人間であり、そのIDによって故障現場にアクセスが可能である。オーロラは別として、2番目に起きだしてきたのが、宇宙船が今まさに抱えている問題解決のために最も役に立つ役職の 「機関室長」 であるのは単なる偶然か?

ストーリーの中では、隕石群を浴びたことが原因で宇宙船のコンピューターが誤作動して、一部の冬眠ポッドの解除を引き起こしたことになっている。

しかし、わたしは、ダメージを受けた宇宙船の人工知能が、自らの存続と乗客の生存のために一部の人間を段階的に起こして問題解決に赴かせていると勝手に考える。このシナリオに矛盾があるだろうか?

 

実際、「機関室長」 が登場してから、彼のIDブレスレットを使ってそれまで入れなかった宇宙船内の区画にも入れるようになり、故障の全貌が明るみになる。映画はそれまでの “無人島”の愛憎ドラマから、映画「ハルマゲドン」 のような破局回避のディザスタードラマに急転回するのである。

このように、宇宙船の人工知能コンピューターは宇宙船を不測の危機から守るために、プログラム化された通りに宇宙船内の人間を操作していると考えられる。

 

 

機関室長の死

機関室長は冬眠装置の不具合が原因で、起き出してから体調を崩し、数日のうちに死んでしまう。

これの意味は以下のように理解できる。物語の展開上、彼の登場と彼のIDブレスレットの入手によって、宇宙船の故障現場へのアクセスが可能になることが不可欠であったのだ。

しかし、せっかくの美男美女の “無人島ドラマ” に無骨な男が加わったのでは不必要に複雑になって具合がわるいので、故障現場へのアクセスを可能にしたあとは、“病死” ということで、“退場” してもらったというふうに理解できる。“作劇術上の必然” である。

 

最後の “無人シーン” の意味

なぜか最後のシーンでは、「大草原の小さな家」 のような状態になっている宇宙船の広いコンコースにはまったく人の気配が無い。

ジムとオーロラは “当然のことながら” 日夜、子作りに励んだであろう。88年後に乗員たちが冬眠室から起き出してきたときには、二人はもはや世を去っていても、二人の何十人という子供や孫がそこにはいなくてはならないはずだ。おそらく子供が成長してからは、また冬眠室を物色して、何人か好みの異性を “起こした” に違いない。近親交配を避けるためにはやむを得ないだろう。

それらの “結果” を出さずに、二人が築いた木の家や自然環境だけを提示し、宇宙船の中の88年間の時の流れを観客の想像にまかせて、物語の余韻に繋げているのである。二人の子孫たちがぞろぞろ出てきたら、あまりにも “生々しく”、それはそれで次のドラマが始まってしまい、「パッセンジャー」 という一つの作品としては完結しなくなってしまうので、誰も登場させられないのである。

ちなみに 「パッセンジャー」 は原語では PASSENGERS  と複数形であり、冬眠状態の5000人の“惑星移民団” の全員が意味されている。

 

 

 

 

  

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5 コメント

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ストーリーは違いますが (caz)
2017-04-15 19:41:50
「大草原の小さな家」という表現に、
子どもの頃に観た「サイレント・ランニング」を思い出しました。

劇場公開されずにテレビのロードショーの枠で放映されたものです。
淀川長治さんが「怖いですねー」とか言っていたように記憶しております。

後にビデオショップで借りましたが、
私が数多く見たSF映画の中で、唯一号泣したのがその映画です。
Unknown (たまき)
2017-04-16 16:49:31
人間が一番怖いのは「孤独」っていうことだと思います。
宇宙にただ一人とか…
発狂するレベル
先月末に観ました (湘南童子)
2017-04-26 21:29:49
初めまして
本年2/3に貴ブログのタイトルを
勝手ながら拙ブログで紹介させて頂いております

中々ヨカッタと思います
映画そして映画評

来月は‘ メッセージ ’観てみます



私達の天命が完うされますように

非常時の冬眠解除 (ころん)
2017-06-01 02:07:40
この内容は、3回来て、10回以上読みました。
映画の設定も面白いですが、
ザウルスさんの感想が、それよりもっと面白かったです。

私は、コンピュータにも関心があり、
人工知能が将来どんな活躍をするか、
とても興味を持っています。
あれやこれやと、想像したり、妄想するのが楽しいです。

そんな折、非常時の冬眠解除を、
人工知能が起こした、と。

この発想に、凄いなと思い、
ワクワクしました。
心が踊りました。

映画は見ていませんが、
きっと、映画を観ても、ザウルスさんの感想の方が面白かったと思うでしょう。

生きた文章を書かれますね。
躍動感をもって、心に入ってきます。
なので、何回も読みたくなってくるのです。

たくさん、ザウルスさんの記事を読みましたが、
私には難し過ぎて、意味がほとんどわからないものもあります。
半分くらいわかるものもあります。

国語力は、まあまあ悪くはないと思うのですが、
政治とか、歴史、地理の勉強して来なかったからな、と、今、学生時代の不勉強を悔いてます。
自分自身に、知識の下積みが全くないので。

映画の感想がこれだけ面白いのなら、
ほかの記事も私に理解できたら、
宇宙規模的に面白いのではないかと、
想像、妄想しています。
ころん さま (ザウルス)
2017-06-01 08:44:41
ご愛読ありがとうございます。この映画評を書くのに数日かけて何度も推敲しました。
この映画のあとに観た 「グレートウォール」 はひどいものでした。その後、あるひとのブログで 「メッセージ」 に失望して途中退場したという話がありました。どうやら原因は「グレートウォール」 と同様、 “中国資本” にありそうです。
ハリウッドは中国資本の軍門に下って、中国という巨大市場向けに低レベルな作品を増産し始めたようです。中国人俳優を起用し、中国の観客のレベルと好みに合わせた薄っぺらな駄作が増えてくると思います。ご注意ください。

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