残念で無念な日々

グダグダと小説を書き綴る、そんなブログです。「小説家になろう」にも連載しています。

死は俺たちを見逃してはくれない 第44話

2017-03-30 00:06:48 | 死は俺たちを見逃してはくれない。
 ショッピングモールの天井はガラス張りとなっていたが、それでも屋内は薄暗かった。一歩歩くたびに床に積もった埃が舞い上がり、幸二は思わず口元を覆った。
 ショッピングモールの中は、多少荒らされていた。しかしこれはパンデミック時に略奪されたのではなく、後からやって来た総統率いる暴徒達によって行われたのだろう。電気が使えない今となっては役に立たないテレビやパソコンはほとんど手が付けられていなかったが、衣服や食料品は軒並み棚から消えてしまっている。

「……特別行動隊との連絡が途絶えた、至急別の隊を現場に派遣する準備を整えろ」

 遠くからそんな声が聞こえてきたので、慌てて幸二は近くにあった衣類売り場の試着室へと飛び込んだ。仕切り用のカーテンをわずかに捲って外の様子を伺うと、黒い戦闘服に身を包み、同じく黒の帽子を被り、手には89式小銃を持った男が二人店の奥からやってくるのが見えた。これまで見た暴徒たちとは違い、本格的な戦闘装備をしている。黒い戦闘服は自衛隊などには配備されていないだろうから、ミリタリーショップか何かから調達したのだろうか。
 今まで見てきたチンピラが武器を持っただけの連中とは違い、きちんと銃の使い方をわかっているようだ。幸二は黒い戦闘服の男たちが、銃を持つ時も指を引き金にかけていないのを見てそう感じた。あれが暴徒たちのリーダー、総統を守る親衛隊なのだろうか。

 つまりあの親衛隊を追っていけば、総統のいる場所に出るはずだ。幸二はそう思い、足音を立てないようにして距離を取りつつ、彼らの後を追った。親衛隊の一人がハンディタイプのアマチュア無線で何事か指示を出している。会話の内容は特別行動隊との通信が途絶えたので、至急付近にいる連中は調査に向かえとのことだった。
 特別行動隊は幸二たちが返り討ちにした、銃を持った連中のことだ。彼らはチンピラが銃を持った程度の連中だったのでさほど苦戦はしなかったものの、総統を護衛する親衛隊はどうだろうか。やはり大事なリーダーを守っているという連中だ、これまで戦ってきた暴徒たちよりもかなり手強いだろう。



 幸二が親衛隊の後をついていくと、やがてショッピングモールの中心部へとやって来た。ショッピングモールの中央には噴水があり、その周囲にはベンチやテーブルが並べられ、フードコートが噴水を取り囲むようにして形成されていた。今は噴水は枯れ、店の中には誰もいない。テーブルもいくつかひっくり返され、観葉植物は枯れていた。
 親衛隊の進む先にあるフードコートに、いくつかの人影があることに幸二は気づいた。フードコートのベンチに腰かけている男が一人、その周囲を警護するように銃を持って立っている男が数人いる。立っている男たちが来ているのは黒い戦闘服、それと対照的にベンチの男は白い軍服を着ていた。ごてごてと軍服の胸に徽章のようなものをいくつも取り付け、床に立てた日本刀に手を乗せている。時代錯誤なその姿はとても自衛隊員の姿とは思えず、また見た限り年齢もそう高くはないようだった。せいぜい20代後半にしか見えないその男が、どうやら親衛隊が護衛している総統という存在らしい。

 どう見ても軍事マニアのコスプレ野郎だが、幸二が追っていた二人組が「報告します!」と軍服の男の前で踵を合わせて敬礼したのを見て、ともかく軍服の男が指揮官だということを理解した。ならば、後は排除するだけだ。
 暴徒たちはあの総統のカリスマ的な指導力の下で結束している。ならばその頭である総統を倒してしまえば、暴徒たちは統制を失ってバラバラになり、戦うことが難しくなるだろう。仮に戦闘を継続できたとしても、それまでのようにまとまって戦うことは出来なくなる。

「特別行動隊との通信が途絶しました、閣下! いかがいたしましょうか」
「特別行動隊が追っていたのは、自衛隊の迷彩服を着て、自衛隊の小銃を持った男だったな?」
「はっ! 本人が自衛隊員だと名乗ったそうですが、遭遇した者の話によれば歳は高校生程だったとのことです」
「単なるコスプレ野郎かと思ったが、違ったみたいだな……。よし、もう一隊を偵察に向かわせろ。発見しても深追いはするな、しかしその場に留めて置け。奴を足止めしている間に、高校の攻略を急ぐ」

 総統とやらは、そのコスプレ野郎である幸二が目と鼻の先にいるとはこれっぽっちも思っていないらしい。幸二は隠れていた観葉植物の植木鉢の陰から身を乗り出し、89式小銃を構えた。総統の頭に照準を合わせ、引き金を引こうとした、その時だった。

「誰だ……?」

 突如脇からかけられたその言葉に、心臓が口から飛び出しそうになる。横を見るとちょうど脇にあった男子トイレから、親衛隊の隊員が一人出てきたところだった。ハンカチで手を拭く姿勢のまま固まっている隊員は、目の前の幸二の姿にぽかんと口を開けていた。

 水道は止まっているのに、なんで律儀にトイレで用を足すんだ。幸二が内心そう毒づく間もなく、親衛隊員の顔が歪む。「敵だ!」と叫ぶや否や腰のホルスターから拳銃を引き抜こうとした隊員に、幸二は銃口を向けた。

 引き金を引き、隊員の身体が数発の銃弾に貫かれて地面に崩れ落ちる。その銃声はショッピングモール中に轟き、当然総統や残りの親衛隊員の耳にも入った。
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1 コメント

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Unknown (Unknown)
2017-06-16 10:28:56
いやあ~めちゃ面白い
続きが気になる

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