残念で無念な日々

グダグダと小説を書き綴る、そんなブログです。「小説家になろう」にも連載しています。

俺と少女と救われなかったこの世界 第七一話

2017-05-20 01:09:15 | 俺と少女と救われなかったこの世界
 空と大地は、見渡す限り黒煙に覆われていた。見渡す限りの荒れ地となったかつての田畑のあちこちでは、砲塔が吹き飛び、あるいは爆発炎上した戦車や装甲車両、トラックの群れが黒煙を空高く噴き上げている。視界を上に転じれば、戦闘機が音速の翼で空気を切り裂きながら、まるで何かのショーのように激しい航空戦を繰り広げていた。途中その機体からレーザーのような曳光弾やミサイルの白煙が伸び、空中に爆発の華が咲く。雲の上からバラバラになった戦闘機の破片が降ってきて、地上に激突し大きな土埃の柱を打ち立てた。

 西日本軍が占拠した原子力発電所の周辺では、東西政府軍による激しい戦闘が繰り広げられていた。東日本の戦闘機部隊が制空権を確保しようと上空を飛び回り、西日本軍の航空部隊がそれを阻止せんと激しいドッグファイトを繰り広げる。時折地上から空に向かって伸びる白煙は、制圧しきれなかった敵対喰う陣地から放たれる地対空ミサイルだろう。
 陸上では既に砲兵陣地を構築した西日本軍により、激しい砲撃が繰り広げられている。野砲やロケット砲による遠距離攻撃により足止めを食らった東日本政府の自衛隊が、対砲レーダーにより敵砲弾の弾道を計算し、その発射元に向かって反撃の砲撃を加える。アパッチ攻撃ヘリコプターがレーダーに引っかからないよう地上スレスレを飛行しながら、敵の砲兵部隊を空から叩いていた。さらに敵の観測所を制圧すべく、各地に歩兵部隊が展開し、敵と激しい銃撃戦を展開している。

 黒煙に阻まれて海の様子は確認できないが、日本海の海上では艦隊による対艦ミサイルの応酬が繰り広げられているに違いない。洋上からの新潟突入を計る海上自衛隊の護衛艦隊と、それを阻もうとする西日本軍のミサイル艇や駆逐艦。それらの放つ妨害電波により、通信状態は最悪だった。

 ひっきりなしに巡航ミサイルが海上から撃ち込まれ、それらを西日本軍の防空システムが迎撃する。対空砲の曳光弾が花火のように、黒煙に覆われる空に向かって放たれる。長射程の地対空ミサイル(SAM)は既に特殊部隊や対レーダーミサイルによってあらかた無力化されていたが、それでも部隊防空用の近距離SAMや対空砲はまだまだ無事な部隊が多いと聞く。今も上空で轟いた爆音で顔を上げると、コブラ対戦車ヘリが一機、エンジン部分から黒煙を上げて地面に向かって高度を落としていくところだった。

 銃声と爆発音、そしてそれらにかき消される悲鳴と怒号。俺はそれらの全てを無視して走り続けていた。

 大八木准将からの提案に乗った俺は、すぐさま新潟へと向かう部隊へ同行することになった。既に先端は開かれており、戦場に到着するなり俺の乗っていた装甲車は砲撃を食らい、横転した。
 幸いにも俺は無事だったが、同行していた他の自衛隊員らは打ち所が悪く死亡していた。砲撃を浴びた車列では混乱が起きていて、現場を掌握できる人間はほとんどいなかった。長年にわたる戦いのため戦力不足に陥り、年齢の低い人間までも採用し、短期間の訓練を施しただけで戦場送りにしなければならない切羽詰まった東日本の事情もあるのだろう。訓練不足の隊員たちは、その場で動けなくなるか、あるいは逃亡しようとするのが大半だった。
 
 もっとも、西日本軍もそれは同じらしい。西日本軍も戦力不足のため、これまで主力を構成していた民間軍事会社(PMC)のオペレーターだけでは作戦が遂行できず、各地で傭兵を急募しては前線に投入しているようだ。傭兵と言っても実力はピンからキリまであり、そしてどちらかと言えば実力の低い人間が多い。当然それまで訓練されていたPMCのオペレーターたちとも満足な連携も取れていないのだとか。

 お目付け役の隊員たちが死んだことで、俺は自由に動けるようになった。装甲車からありったけの武器と弾薬を持ち出し、右往左往する若い隊員たちを横目に、俺は一人原子力発電施設へと向かっている。
 制服は来ていないし、武器もどちらかの勢力が使っているものでもない。敵味方を識別するものは何も身に着けていないため、双方から攻撃を受けてもおかしくない状況だ。しかし、そのリスクを冒してでも単独で行動する必要があった。俺をここまで連れてきたのはかつての上司である大八木准将だが、彼もまた信用できる人間とは言い難かった。

 サキに過去を変える能力があると大八木准将は語っていた。サキにそのような能力があるのならば、敵に渡さず自分たちの手元に置いておきたいと思うのが人間だろう。俺をわざわざ連れていくのはサキに対して人質として利用し、彼女を言うとおりにさせたいからだ。
 隙を見て逃げ出し、単身サキのもとへと向かう予定だったのだが、好都合だった。この混戦模様では、自衛隊もいちいち逃げ出した俺のことなんぞ構っていられないだろう。

 荒れ果てた田畑は草が伸び放題になっており、大人の背丈ほども生えた雑草に隠れながら進む。突然変異でも起きているのか、見慣れない草木が生い茂っている。「ゾンビだ、気を付けろ!」という叫び声が銃声の中で聞こえてきて、そちらを見ると自衛隊員らが森の方へ向かって小銃を撃ちまくっていた。

 生い茂る森の中から、ふらふらといくつかの人影が幽鬼のように現れた。衣服がボロボロに擦り切れ、皮膚は茶色く変色したそれらの人影の中には、腕がなかったり頬が裂けて黄色い歯が笑顔を浮かべているように覗いているものもいる。それらはどう見ても人間ではなく、この世界を混沌に陥れる原因となったゾンビたちだった。
 ゾンビは頭部を破壊されない限り、決して倒れない。食料を摂取することがなくとも動き続け、ゾンビとなった時から変わらず動き回る死体であり続ける。

 それらのゾンビはこの辺りにもかなりの数が存在していたのだろう。それらのゾンビが久々の餌食になりそうな人間たちの存在をかぎつけて、姿を見せたのだ。
 しかし強力な銃火器だけでなく、戦闘車両まで備えた自衛隊や西日本軍の前に、馬鹿力と頑強な身体を持つ程度でしかないゾンビたちは無力でしかなかった。20年前ならば人類を絶滅一歩手前にまで追い詰めたゾンビたちも、それよりもっと強力なミュータントが現れた今ではさほど脅威とはならない。


 しかしゾンビたちの出現は、人間同士の戦いには影響をもたらした。自衛隊がゾンビに気を取られている隙に、西日本軍が戦車を中心にした部隊を一気に進撃させる。戦車同士が砲撃を始める中、俺は黒煙の彼方に見える原子力発電所へと急いだ。
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