残念で無念な日々

グダグダと小説を書き綴る、そんなブログです。「小説家になろう」にも連載しています。

俺と少女と救われなかったこの世界 第七二話

2017-07-23 23:36:06 | 俺と少女と救われなかったこの世界
 原子力発電所の敷地の周辺には、原発の労働者目当ての飲食店や商店が立ち並び、さらにその店員や労働者たちが暮らす住宅も並び、とても地方の田舎とは思えないほど建物が立ち並んでいる。しかしその建物は20年も放置されていたせいで文字通り潰れて瓦礫の山と化しているものも多かったし、たとえ無事だったとしても戦闘の煽りを食らってあちこちで火災が発生し、あるいは砲弾の直撃を食らって破壊されていた。今もまた一機、翼を半分失いエンジンから黒煙を噴出しつつ高度を落としていた戦闘機が民家に突っ込み、爆炎と共に空高く黒煙の柱が立ち昇る。

 東西政府軍が激戦を繰り広げている最前線を突破し、とうにか原発に近づきつつある今、油断は禁物だった。周囲の様子に目を配るだけでなく、この分では空の様子にも気を遣わなければならない。墜落してきた戦闘機に巻き込まれて死亡、なんて展開は嫌だ。
 最前線に比べると、展開している西日本軍の兵士の数は少ない。正規軍の戦力を担う大手PMCのオペレーターたちは軒並み東日本軍との戦いに駆り出されているせいか、最前線の後方に展開している兵士たちはどうやら寄せ集められてきた傭兵たちのようだった。装備や衣服はバラバラで、銃も大半がAK系統だが統一はされていない。それでも敵味方を識別するためか、何か腕にウェアラブル端末のようなものを嵌めて任務に当たっている。
 
 西日本軍が原発の制圧を行うちょうど前に、大規模な傭兵の募集があったために多くの傭兵たちが西日本へ向かい新谷市を出て行ってしまった。あの時西日本軍が傭兵たちをリクルートしていたのは、この戦闘に備えていたからなのかもしれない。
 一瞬、端末を奪って傭兵に成りすまそうかとも考えたが、おそらくあの端末は個人認証が必要な物に違いない。違う人間が嵌めると途端に警報が鳴るか、あるいは一定時間ごとに決められたパスワードの入力を要求されるかもしれない。それならば奪ったところですぐに身元がばれてしまうだろう。ならばこれまで通り、見つからないようにして潜入する方が良さそうだ。

 廃墟の街には二百メートルおきに歩哨が立っていて敵軍の浸透に備えているし、機関銃を搭載し数名の傭兵を荷台に乗せたピックアップトラックも道路を走って巡回している。前線の部隊が押されてここまで東日本軍が迫ってきた場合には、ここの傭兵部隊が迎撃に向かうのだろうか。
 とはいえ西日本軍も後方地帯の警備を全て傭兵に任せているわけではないらしく、ところどころには迷彩服を着た西日本軍のPMCオペレーターも配置されていた。機関砲を積んだ装甲車もちらほらと見えるし、単身ランボーのように乗り込んでいったところであっという間に穴あきチーズにされてしまうだろう。


 廃墟の街は広大だが、どこに人感センサー等が配置されているかはわからない。おおよその場所なら見当がつくが、それでもあちこちに仕掛けてあるであろうセンサーの場所を全て把握し、それらを回避しながら進んでいくのは不可能に近い。警備の目がないところには地雷などのトラップが仕掛けてあるはずだ。
 アサルトライフルを構えながら廃墟の街を進んでいく。あちこちに転がっている白骨は、20年前の終わりの日に生み出されたものなのだろうか。
 もしも終わりの日がなかったら、ここに転がっている死体の数々も普通の生活を送り、平和な世界が続いていたのだろうか。それとも結局似たような事態が発生し、死と破壊と絶望に包まれた世界が生まれていたのか。

 もしも俺の友人たちが救えるのであれば。そう考えると、工藤がやろうとしていることを非難できなくなるような気がした。歴史を変えてすべてをなかったことに出来る機会があるのならば、そうしてしまうかもしれない。
 その選択肢が目の前に現れたのならば、俺はどうするのだろうか。しかし今はサキを救い出し、工藤たちの目論見を阻止することが最優先事項だ。その後どうするかは、その時に考えればいい。


「止まれ、そこを動くな!」

 突然そんな怒声が飛んできて、俺はとっさに身を伏せた。今いる場所は廃墟の一室で、周囲に監視カメラも何もない。窓からも離れているから、外から見られたわけもない。人感センサーか? と思ったが、それらしき機器も周囲には見えなかった。
 他の人間に向けて言ったのか? と思う間もなく、車のエンジン音が聞こえてきて廃墟の民家の前で止まった。どたどたと騒がしい足音が聞こえてきて、包囲されたと気づく。

「その家の中にいることはわかっている、こっちには鼻が利く奴がいるんだからな! おとなしく投降すれば命は保証する! 抵抗すれば命の保証はないぞ!」


 その声には聞き覚えがあった。床に落ちていた鏡の破片を拾い、窓から外の様子を伺う。表には一台軽機関銃を荷台に搭載したピックアップトラックが止まっていて、傭兵たちが俺のいる廃屋を取り囲むように展開していた。機関銃の銃口は廃屋に向けられ、銃を構えた傭兵たちが徐々に廃屋との距離を詰めつつある。

「嘘だろ……」

 鏡の破片に映っている人物に、俺は見覚えがある。これまで何度も戦いを共にしてきた、元イギリス軍特殊部隊のジャックが傭兵部隊を指揮していた。 ジャックだけでなく、その隣でミニミ機関銃を構えている狼男は赤峰だろう。しばらく前に新谷市を出て行った俺の仲間たちは、今や敵である西日本軍の傭兵となってしまっていた。
 赤峰が何かに気づいたかのように顔をしかめ、ジャックに何事か耳打ちする。それを聞いたジャックは一瞬だけ悲しそうな顔をしたが、すぐにまた軍人の顔に戻って叫んだ。

「お前がそこにいることはわかっているぞ、タケシ! 今まで一緒に戦ってきた仲間としての好だ、お前を殺したくはない。今すぐ投降すれば、命は取らない!」

 俺も数々の死線を共に潜り抜けてきたジャックや赤峰とは、出来れば戦いたくはなかった。彼らは戦友だし、それ以上に俺の友人だ。
 だがもしも俺が戦うことを放棄してジャックたちに投降すれば、サキを救い出す機会は失われてしまう。歴史は書き換えられ、俺たちが今まで築き上げてきた全ては消え失せる。今まで味わってきた多くの悲しみも、その中で見出したいくつかの幸せも、全てがなかったことにされてしまうだろう。
 それだけは許せない。そしてサキは俺にとって守らなければならない存在であり、そのためなら何を代償にしても構わない。その代償が、かつての戦友たちとの敵対というものであっても。



 ジャックの呼びかけに、俺は答えなかった。ジャックは溜息を吐き、「恨むなよ」と零す。

「敵だ、殺せ」

 その言葉と共に、一斉に銃声が轟く。窓ガラスが粉々に砕け、壁に無数の弾痕が穿たれる中、俺も応射の引き金を引いた。
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