父が余命宣告を受けたとき、もしものときに――
ということで生命維持装置を使うかどうか尋ねられたことがある。
その際に説明を受け、私なりに納得したつもりだった。
「父は無理な延命は望まないと思う」
そう答えた私に婦長(今は師長と呼ぶらしいのだが、
私はつい婦長さん、と呼んでしまう)は小さく頷いた。
「立場上、こんなことを言ってはいけないのかもしれませんけど、
私が志穂さんだったら同じことを言うと思います。
装置つけて、お気の毒だと思う例も随分見てきましたから……」
私はその答えを聞いて、
自分の出した判断になんとなく安堵したものであった。
そしてその後、その装置について調べることはしなかった。
父にとってこの装置は不要にしよう。
充分に戦ってくれている父に、
これ以上苦しい思いはさせたくなかった。
いつかその日が来たら、お疲れ様でした、と見送ってあげよう。
父は許してくれると思う。
施設からの電話は、母の容態の急変についてだった。
「病院へ電話したら救急車で搬送しろ、
ということなのですが……」
という報告に私は、もちろんそうして欲しい、と答えた。
当たり前だ。私に相談するまでもない。むしろそのことを確認する電話自体、私は不思議に思った。
タクシーの中、私は母へのプレゼントの包みを握りしめ、
信号が赤に変わるたびに目を閉じて信号待ちの時間の鈍さに苛ついた。
つづく
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第一話 誕生日
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その際に説明を受け、私なりに納得したつもりだった。
「父は無理な延命は望まないと思う」
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「立場上、こんなことを言ってはいけないのかもしれませんけど、
私が志穂さんだったら同じことを言うと思います。
装置つけて、お気の毒だと思う例も随分見てきましたから……」
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自分の出した判断になんとなく安堵したものであった。
そしてその後、その装置について調べることはしなかった。
父にとってこの装置は不要にしよう。
充分に戦ってくれている父に、
これ以上苦しい思いはさせたくなかった。
いつかその日が来たら、お疲れ様でした、と見送ってあげよう。
父は許してくれると思う。
施設からの電話は、母の容態の急変についてだった。
「病院へ電話したら救急車で搬送しろ、
ということなのですが……」
という報告に私は、もちろんそうして欲しい、と答えた。
当たり前だ。私に相談するまでもない。むしろそのことを確認する電話自体、私は不思議に思った。
タクシーの中、私は母へのプレゼントの包みを握りしめ、
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