湘南発、六畳一間の自転車生活

自転車とともにある小さな日常

「死闘とよんでもいいですか?」の箱根越え、そして江ノ島まで編

2006年10月13日 | 自転車生活
さて箱根越えをすると決めましたが、あらためて考えるとこれは間違いなくこれまで以上に限界ギリギリの走りになることが予想できました。(多分)総アップ数2000m以上をこなし、260km近く走ってからの箱根越え。一概に比較できないですけれど、直江津ランのときのフラットを230km走ったあとの渋峠越え、そして道志ランのときのヤビツと山伏峠を越えてからのスバルラインよりも厳しいのではないかと思いました。

ただ、もしこれが反時計周りの逆コースであったならばそれはそれでかなり厳しかったのだと思います。箱根は最初に越えてしまっているものの、最後に嫌らしい小刻みなアップダウン。そして道路沿いには伊豆急や東海道線の誘惑が。そう考えると僕は峠越えに関してはそれなりにこだわりがあるので、やはりこれで良かったのだと感じました。そして最後がこだわりのある峠越えなのだからここはなんとしても頑張ってみようと思いました。

沼津の市街地を出る前に量販系の薬局でアミノバイタルを3個購入。スバルラインのときはおにぎりばかりの補給だったのでその後なかなか疲れが抜けなかったのかもと思ったりしていたので、ここはその後の日常生活のためにしっかりしておきましょう。



そしてなんとか自分を励ましながら最後の上りへ。



箱根は上りはじめこそ快調だったけれども、最初の登坂車線ですぐに減速。そしてそこからはタタカイの走りに。ここできつかったのが勾配もさることながら、悪魔的に吹き荒れる風。標高を稼ぐにつれてどんどん風が強くなって、しまいには風が咆哮というかうなり声をあげはじめた。普段はあまりハンドルに力を込めずに上る僕も、しっかりとハンドルやブラケットを抑えないと自転車が風に持っていかれそうになってしまった。そしてその風はまったくありがたいことに芦ノ湖方面から吹いてくるのです。

また途中まではところどころあった街灯がなくなったのも精神的にこたえた。暗闇に吹きすさぶ強風というのはいろいろな想像をかきたてるのです。闇の中でざわめく木々、カラカラと音をたてて転がる空き缶などのゴミ、そういったものがすごく恐ろしく感じる。そしてそういうときに限って、心霊写真のこととか幼少の頃に読んだポプラ社のミステリーに描かれていた妙に恐ろしい挿絵なんかを思い出してしまったりするんです。でもって、繰り返すけれども前方からは自転車を押し戻すような向かい風。これは本当に泣きそうになりました。

かなりへとへとになって何かの建物があらわれたと思ったら山中城跡。地図で見るとまだここから峠まではもう少しあるようです。あぁ~、もういつ果ててもおかしくないぞ!足だって痛みこそないけれど、力はもうない!

でもここからまた勾配のきつい登坂車線が長く続くんです(少なくともそのときの僕にはそう感じた)。とにかく我慢するしかありません。とにかく少しでも前進して峠までの距離を短くしていくしかありません。

そしてメーター上で峠に近づきはじめた頃にあらわれた「箱根峠2km」の標識。げっ、まだここから2kmもあるの?そう思わざる得ませんでした。だからそこから1kmくらいで峠に着いたのはラッキーだったと言っていいのでしょう。とにかく、なんとか箱根も上ったぞ!もうこんな時間だけれども・・・



箱根峠着22時45分 距離281.61km 平均19.2km

箱根峠では峠のドライブインに隠れて眠気覚ましの意味もあって暖かいコーヒーを。それからレッグウォーマー、ウィンドブレーカーなどの防寒も。そして、ここであらためて風が芦ノ湖方面から吹いてきていたことを実感。芦ノ湖の反対側にあたる建物の陰ではほとんど風を感じなかったので。

箱根を越えたことでだいぶ精神的に楽にはなったのですが、ただまだ不安は消えませんでした。芦ノ湖からの上り返しと下りをどうするか悩んでいたからです。

箱根の旧道は上り返しは少なそうですが、街灯がほとんどあてにできないのが気になります。そして金曜の夜ということもあって走り屋たちの存在も心配です。ただ国道1号は国道1号で上り返しがきつそうなのが嫌なのです。そして旧道に比べて勾配がなだらかな分下りに時間がかかりそうなのも気になりました。結局どっちを進むかは国道1号と旧道の分岐まで結論を出すことはできませんでした。

さて峠からはかなり快適に下れました。そしてやはり不気味に感じた芦ノ湖沿いの杉林を抜けて、いよいよ最後の上り返し&下り。でもって、ここは分岐まで来て一度国道1号に入り込んだにもかかわらずすぐに引き返して結局旧道を下ることにしました。旧道ちょっと怖いけど、もう必要以上の上りはほとほと嫌だったのです。

旧道の下りはペダルを漕ぐ必要は皆無なので自転車のコントロールだけに集中しました。そして暗闇のダウンヒルをこなしながら、以前買ったキャットアイの高輝度LEDが本当にありがたく感じました。これがなければここまで来ることは不可能だったと思います。



そして夜中の七曲を慎重に下り、



夜中の三枚橋!ここに到着したときの安堵感はもう言いようがありません。

そして、そして、



朝ここを通り過ぎてから約17時間半後にようやく、ようやく、早川口に戻ってきた。ということは、つまりここで伊豆半島を斬ることができたのだ。伊豆一周のことを考えはじめた頃からここで伊豆を斬れるかが一番の関心事だったのでこれは本当に嬉しかった。

早川口着23時51分 距離301.76km 平均19.4km

ただ走りはじめる前、もしこの場所に戻ってこれたならここで挑発的に首を掻き切るポーズでもするか、なんて僕は冗談まじりで少し考えたりしていたのだけれども、実際伊豆を一周して箱根を越えてこの場所に戻ってきてみれば、そんな気はまったく起きなかった。ここで感じたのはなんというか敵と思っていた人間と何かにたいして一緒に共闘したような妙な気持ちだった。うまく言えないのだけれども、ここに戻ってきて僕が感じたのはそんな気持ちだった。

上の部分、あとから読み直したらちょっと問題があるというか誤解を受けかねない一文のような気がしてきました。僕が挑発的に首を掻き切ってみせようと思った相手は、伊豆半島に他なりません。そして敵とたとえた相手はこれでもかとアップダウンを繰り返す伊豆の難コースです。でも苦しめられながらここまで戻ってくると、そっと“彼”の肩を叩きたいようなそんな気持ちになりました。お互い頑張ったよなぁ、みたいなそんな気持ちだったのです。

ここから江ノ島までは最後の踏ん張り。とにかくあとは生きて部屋に帰り着くことのみ。ただもうあと少しで日付が変わっちゃいますね。部屋にたどり着いたとしても、これで1day伊豆一周と言えるのだろうか?とそんなことが少し頭をよぎったりも。でもそんな考えはすぐに振り払った。そんなことはもうどうでもいいんです。ほんとに。とにかく伊豆一周は本当に厳しいコースなので、そんなことにチャレンジするだけで価値のあることなんだって思った。これは西伊豆のあたりを走っている最中にも何度も思ったことだけれども、本当に心からそう思った。

小田原から134号に入る手前の大磯あたりで警察に一度職務質問を受けた。どうやら最近この付近で多発している痴漢捜査のよう。「この時間よくここらを通りますか?」って訊かれたけれども、まぁ通るわけありませんね。それにもしこんな疲弊した状態で痴漢なんてできたとしたら、それは正真正銘モノホンの変態だと思う。



そして国道1号から134号に入るすぐ手前のところで、あまりの眠さと気持ち悪さで一度休憩を入れないとどうにもならない状態になってしまった。ここの歩道でザックを枕に10分くらいだけどうとうとした。

この休憩で少しだけ復活してあとは江ノ島まで15kmほどを最後の走り。そして朝部屋を出て19時間半後にようやく部屋に戻ってきた(江ノ島の写真はなし。いまとなると残念だけれども、そんな余裕はもうありませんでした)。

江ノ島着 10月14日1時32分 距離335.19km 平均19.6km

前日寝る前にLEMONDとブリヂストン号のポジションを比較して、ロングライドではダメージの少なかったブリヂストン号のポジションにサドル位置などを近づけていたせいもあって体のダメージはスバルラインよりは少ないのだけれども、やはり疲れ果てた。走る前から予想していたことではあるけれども、自分のなかではこのロングライドが一番走り応えがあった気がする。

というわけで、ちょっとおおげさだけれども、この伊豆一周は本当に死闘だったと思ってしまった。なんかこういう言いようもどうかと思うけれども、今の僕には本当に死闘だったなと、そう思いました。

ところで僕はこのブログをはじめて少しした頃にこういうエントリーをしています。もう学生の頃にやった耐久的な走りなんてする自信はないけれども、今年はせっかくこんな自転車中心のブログをはじめたわけだから一度くらい限界ギリギリの走りをやってみたいなとこの頃漠然と思っていました。で、今回の伊豆一周はそれに近い走りだったような気がします。まぁでもそのかわり、もう2度とこんなことはできないかも?なんて思ってしまったりもしているわけですが(苦笑)

ま、とにかく、僕の伊豆一周はこんな感じで終わりました。

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7 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
無事御帰還、おめでとうございます。 (ちゃり猫)
2006-10-16 00:31:12
 いや、実に死闘でしたね。こんなに辛い思いをしてまでなぜ走るのか―ということは読んでいて何となく分かったような気がします。

 でも、これを読んで学んだ別の事。ロングライドには膝やお尻の痛み、疲労などの他に別の脅威がある。・・・夜が怖い。

 1人で夜の野山でも走ろうかと、大枚はたいて予備バッテリー付きトピークのホワイトライト3Wを買ったのですが、夜1人で田舎を走るのは絶対にやめようと、堅く堅く決心しました。

 お疲れ様。
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ホッとしてます (yuzito70)
2006-10-16 00:55:59
□ちゃり猫さん



ほんとに無事帰って来れて良かったです。江ノ島に着いたときはもう嬉しくて嬉しくて涙が・・・とまではいきませんでしたけど。

ロングライドはほんとに夜が怖いです。3Wには到底かないませんけど、今回は明るめのライトが大活躍でした。

でもちゃり猫さんもせっかくすごいライトを買ったのだから、一度くらいは田舎のナイトラン試してみても良いのでは、と。そのときは恐怖体験の報告をよろしくお願いしますね!
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これが真の強さです! (DEE)
2006-10-16 02:37:35
僕達は頑張れなかったけど、お見事、拍手喝采って感じで実に感動的です。それにyuzito70さんのお陰で、来年リベンジしなくちゃって新たな目標も出来ました。

とりあえず明るいうちに箱根を越えてみたいので、来月ショートカット版で練習してきます(^^)
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素晴らしい (sudoban)
2006-10-16 06:45:44
素晴らしい。というか、もう他に言葉が思い浮かびません。感動です。有難うございました。
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ありがとうございます (yuzito70)
2006-10-16 08:51:49
□DEEさん



でも真の強さというより、もしかしたら真の弱さの裏返しなのかもしれないです。それがあるから頑張れたような気がします。

ただいずれにせよ、このコースは沼津まででも十分ですよ。ほんとにそう思います。逆に僕はすぐに来年のリベンジを決意してるDEEさんのほうが強いと思っちゃいます。でもってまた来月練習に行っちゃうんですよね。すごすぎます。



□sudobanさん



これまで何人かの人からいくつもの感動を頂いてきたおかげで、こんな走りができました。そうした感動はsudobanさんからも当然頂いているわけで・・・。あらためて、ありがとうございます。

ところで、いまなんとなくsudobanさんが来年ロードで伊豆に向かって走り出す光景が頭にあったりします。
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ありがとうございます (masa)
2006-10-16 23:14:40
もう、ただただ感動です。

夜…、たまらないくらい怖いッスよね。

お化けは絶対いると思っちゃいます。



西伊豆の葛藤、箱根の自分との戦い、

なんだかめちゃくちゃ感情移入しちゃいました。

DEEさん、TETさん、yuzito70さんが感じた何かを

僕も感じてみたいと思います。

この三つのエントリーは三部作ですね。

教科書にします。



自転車で走るって自転車で走る以上の意味があるような気がした。
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来年、楽しみにしてます! (yuzito70)
2006-10-17 19:53:51
□masaさん



伊豆ではたくさん価値ある苦しみを味わえたような気がします。多分それが少しずつ喜びや感動や自信に変わっていくのだと思います。



以前masaさんがご自分のところのコメントに書いていたような気がするんですけど、ロングライドって個人的なところが本当に素晴らしいと思います。タイムやスピードをあまり求めすぎちゃうと自分の頑張りだけじゃどうにもならない部分が出てきちゃいますけど、ロングライドであれば自分と相談しながらそれぞれがそれぞれの限界に挑戦できるじゃないですか。それは本当に素晴らしいことだと思いました。でもって、それはあくまで個人的なものに過ぎないですけれども、間違いなく自転車で走る以上の意味をプレゼントしてくれますものね。



西伊豆ではTETさんやDEEさんと共闘している気分でした。なので三部作と言ってもらえるととても嬉しいです。来年はmasaさんも是非!って僕が言わなくても絶対にmasaさんなら走り出しますよね(笑)同じ思いを共有できるお仲間が増えるのがとっても嬉しいし、楽しみです!
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