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白い死神~創作物語~ 第四話

2017-07-18 11:25:08 | 日記

夜は、かなり深まっていた。
多くの家の明かりが消えている。
眠りについている街並み。
細い路地を一本入ると、急に街灯が少なくなった。
真っ暗な夜道は、意外と気持ちのいいものだ。
……ふと、同じ事をつい最近感じたような気がした。
でも、やっぱりそれ以上の事は思い出せない。
月子が何かを知っている事を祈った。
そうでなければ、天使のような子供が、
本物の天使になってしまう。
それだけは、何としても阻止したい。

月子の家の前に着いた。
背筋にビビッと電流が流れるような衝撃を感じる。
記憶がなくても心が反応している。
私は月子によっぽど大切な用事があったのだろう。
残念な事に、その記憶はまだ戻らない。
舞坂月子が何かを知っていたとして……
問題は、どうやって月子からそれを聞き出すかだ。
私は今、透明人間のようなものだ。
声すらも届かない。
そんな状況で、何が出来るのだろうか。

「どうしたらいいと思う? 」

そう言って振り返った時、
そこにいたはずの死神の姿が消えていた。
答えは自分で探せということか。
可愛い顔して、やっぱりあいつは、死神だ。

月子の家の玄関を通り抜け、中に入る。
寝静まった他人の家に入るなんて、泥棒になったみたいで嫌だった。
だが、そんな事は言っていられない。
すべては、あの子を救うためだ。
まずは、月子を探さなくちゃ。
どこから探そうか考えていると、
かすかだが苦しそうな呻き声が聞こえてきた。
呻き声のするほうに自然と足が向く。

そして、私は一つの部屋の前で立ち止まる。
どうやら、呻き声はここから聞こえてくる。
その部屋のドアを通り抜ける。
キチンと片付いているその部屋は、隅々まで掃除が行き届いていた。
ちりひとつ落ちていない。
きっと、かなりのきれい好きの部屋なんだろう。
ふいに、生きていた時の自分の部屋を思い出した。
この部屋とのあまりの違いに大きなため息が漏れる。
でも今は、そんな事で落ち込んでいる場合じゃない。
早く月子を探し出さなきゃならない。
それに、いまさら部屋を片付けられるはずもなかった。

月明かりが、蒼白く窓際のベッドを照らし出している。
呻き声は、そこから聞こえてくるようだ。
私は、そっとそのベッドを覗き込む。

……そこに、月子がいた。

呻き声は、月子のものだったのだ。
それにしても、やけに苦しそうだ。
ベッドに横になったまま、頭を抱え、顔を歪めている。

「大丈夫? 」

思わず声をかけてから気づく。
そうだった。私の声は、聞こえないんだった。

でも、月子はこちらを見た。
私は見えないはずだ。……そのはずだ。
とまどっている私に向かって、月子は言った。

「流音……流音なのね。」

滅茶苦茶びっくりした。
生きていたら、心臓が止まったに違いない。
そして、これではっきりとわかった。
月子には、私が見える。
死んでから初めて会う霊能者ってやつかもしれない。
冷静に考えれば、それが月子でラッキーだった。
これで、天使にかなり近くなったはず。
……そう思いたい。

月子と私は、暫くお互いの顔を見つめあいながら黙っていた。
相手の出方を待っている。そんな感じだ。
先に口を開いたのは、月子のほうだった。

「流音、何で死んじゃったのよ。私、ずっと待っていたのに……。」

月子は明らかに怒っていた。
死んだ私に対して、哀れみを感じている様子もなく、
幽霊を目の前にして怖がる様子でもなく、
私が会いに来なかった事だけをただただひたすら、怒っているようだ。
まぁ、何で死んだのかと言われても……。
たぶん、私は望んで死んだのではないと思う。
記憶が曖昧なので、絶対とは言わないが……。

それより今、「待っていた」と月子は言わなかっただろうか……。
ビンゴだ。
やはり、私がこの世でやり残した事が何だったのかを月子は知っている。
これで、あの子は助かったも同然。
よかった。本当によかった。
期待をこめて、月子に尋ねる。

「お願い、教えて。私、あなたになんで会いに来ようとしたの? 」

「……覚えてないの? 本当に? 」

怒りを通り越して、月子は呆れ返ったという表情で私を見ていた。
そして、大きなため息をひとつついた後、静かな声でこう告げた。

「流音、あなたは私を殺すためにここに来るはずだったのよ。」

殺す……ため? 
頭の中でいくつかの扉が開く音がした。
私の記憶が少しずつ、点から線へと繋がっていく。


月子は、転校生だった。
五月の連休明け。
まだ休み気分が抜け切らない月曜日に、彼女はやってきた。
病気で、一年休学していたので、年は一つ上だという。
そう言われると、なんだか少し大人びた感じがした。
元気のいいよく通る声は、病気であった事を感じさせない。
でも、自己紹介をする彼女になぜか、自分と同じ匂いを感じた。
めいっぱい笑っているその瞳の奥に、かすかに苦しみを宿している。
そんな気がした。彼女もまた、愛情を知らないのかもしれない……。

月子と仲良くなるのに、それほど時間はかからなかった。
お互いに、悩みを抱えているのは何となく気付いていたが、
あえてそれに触れる事はしなかった。
話した所で、解決しないとわかっている悩みは、
言わないでいるほうが傷は小さくて済む。
それに、苦しいなんて誰かに打ち明けた瞬間から、
その苦しみに耐えられなくなりそうで怖かった。

私が、抱えている苦しみ。
それは、愛された記憶がない……という事だった。
最初は、そんな事、生きていくには支障はないと思っていた。
でも、違った。
このクラスの中で、私だけが、家族の愛情を知らない。
みんなが話す暖かな家庭というものが、想像できない。
仲が良すぎて反発するとか、仲直り前提で喧嘩が出来るとか……
理解不能だ。
そんな話を聞き続けているうちに、
ある日、私の中に小さな嫉妬心が生まれた。
そしてその嫉妬心は、日々成長を続けた。
最後の最後には、必ず味方をしてくれる人が、
当たり前のようにそばにいる。
羨ましいと思った。
羨ましいと一度でも思ってしまったら、
もうあとは羨ましくて、羨ましくて……。
だからと言って、決して手に入らない事もわかっていた。
いつしか、その想いは、苦しみとなって私を悩ますようになっていった。
 
月子も、似たようなもんだろう……と勝手に思い込んだ。
それは本当に、勝手な私の思い込みだった。
同じ悩みを抱えているんだと初めてあった時から、
決めつけてしまったんだ。
 
六月。じめじめとした嫌な季節。
この時期には毎年恒例の授業参観日がある。
洋子さんは必ず、学校にやって来るだろう。
授業参観に来なかった事なんて、今まで一度もない。
でも洋子さんは、授業参観という行事にきているだけだ。
私の様子を見にきているわけではない。
だって、授業中、私の方を一度も見ないのだ。
ただ、時間きっかりにやってきて、時間きっかりに帰っていく。
私は、この授業参観日が嫌いだった。
 
その日、沢山の親達が教室になだれ込んでくるのを私はボーっと眺めていた。
どの親も、我が子を必死に目で探している。
もちろん洋子さんを除いて……。
あの視線は、私には手に入らないものの一つだった。
 
ふと、ひときわ強い視線を感じた。
誰の母親だろう。見覚えはなかった。
でも、その視線の中には、尋常とは思えない程、強い愛情を感じた。
私の嫉妬心はマックス状態になる。
一体誰なんだろう。
あんなに強い愛情に包まれている幸せな奴って……。
その人の視線が止まった。
どうやら、我が子を探し当てたらしい。
視線の先を辿ってみる。
……そこに、月子がいた。
 
月子は、とびきりの笑顔で、その人に手を振った。
月子は、愛されていたのだ。
だれよりも大きな愛情に包まれながら、今、にこやかに手を振っている。
信じられなかった。裏切られた気分になった。
私が見た月子の苦しみは、錯覚だったのかもしれない。
 
「流音、一緒に帰ろう。」
 
放課後、月子がいつものように笑顔で近づいてくる。
私は、月子の顔がまともに見られなくなっていた。
 
「今日は、一人で帰る……。」
 
それだけ言うと、視線も合わせず走って教室を出た。
私達の友情は終わった。
 
次の日から、私は月子を避けるようになっていた。
出来るものなら、顔だって見たくない。
月子を見るとどうしようもなく怒りがこみ上げてくる。
月子のほうは、急に私の態度が変わったのが理解できない様子だ。
こりもせず、何度も話しかけてくる。
私は、徹底的にシカトを続けた。
頭では、わかっている。
月子は悪くない。
ただ、この怒りだけは、どうにも止めようがなかった。

しばらくして、月子もあきらめたのか、
もう話しかけて来なくなった。私は、ほっとしていた。
このまま、月子がそばにいたら、私は月子に何をするかわからない。
それほど、私の妬みは大きなものになっている。
醜くて、自分でも嫌になった。
本当に、本当に、……嫌だった。

月子と話さなくなってから、二週間程が過ぎた。
教室でも、彼女と視線を合わせる事はしなかった。
私の苦しみは、以前よりもっと深いものになっていた。
私なんて、生まれてこなければよかったのかもしれない。
そしたら、私を産んでくれた母親だって死ななくて済んだし、
洋子さんだって楽に生きてこられただろう。
何より、こんなに醜い自分に出会わずに済んだ。
私なんて……。

学校からの帰り道。
家の近くにある公園で時間を潰す。
それが、私の日課になっている。早く家に帰っても、喜ばれはしない。
その上、私のおやつの用意をするため洋子さんの仕事が増える。
洋子さんは、おやつ作りにも手を抜かない。
大きくなったのだから、もうおやつはいらないと何度か言ってみた。
でも、おやつもどうやら洋子さんの常識らしい。
早く家に帰ると必ず用意をしてくれる。
あの、笑顔一つ見せずにお茶を入れてくれる洋子さんの姿が、
私には重荷だった。
この公園は、唯一、私が安らげる場所でもあった。
小さい頃からずっと……。

公園のベンチに腰掛けてしばらく夕焼けを眺めていた。
そろそろ帰ろうかと思っていたその時、
私の目の前に立ちふさがる人影。

「月子……。」

月子が、そこに立っていた。
月子の顔をみた瞬間、また怒りが込み上げてくる。
こんな自分、もう嫌だ。

「なんかよう? 」

わざとつっけんどんな言い方をした。

「流音、何を怒っているの? 話してくれなきゃわかんないよ。
 いったい何が気に入らないの? 私、何をしたの? 」

その真剣な眼差しが胸に刺さる。
月子の言う事は、もっともだ。
月子は何もしていない。でも、でも、でも。
わかっていてもなお、私はもっと強い言葉で反応していた。
自分でも信じられないような言葉を口走ってしまった。

「月子を見ているといらいらするのよ。
 本当に、殺したくなる……
 だから、消えてよ。私の視界に入らないで! 」

しばらく、沈黙が続いた。
さすがに、言い過ぎたと心では反省していた。
しかし、これは本心なのかもしれない。
私は月子を殺してやりたいほど妬んでいる。
あの月子の母親の強い愛情が、眩しくて、眩しくて。
そんな愛情に包まれながら、生きている月子が許せなかった。
ついこの間まで、
同じ苦しみを背負っていると思い込んでいたから、なおさら……。
でもこれで、月子も私と距離を置くようになるに決まっている。
いや、……そうなるはずだった。

「いいよ。殺して……。」

一瞬、月子が何を言ったのかわからなかった。

「えっ、今なんて? 」

「だから、殺していいよって言ってるの。」

馬鹿にされているんだと思った。
どうせ、そんな事、出来もしないのに……。
月子はきっとそう思って高をくくっているのだ。
その言葉は、私の嫉妬心に付けてはならない火を付けた。
その火はみるみる大きくなって、私の理性を焼き尽くす炎となる。

「本当に殺しに行くよ、今夜。私、本気だからね。」

私の心の中はもう、月子を殺す事で、いっぱいになっていた。
月子は、怯えることもなく静かに言う。

「今夜ね。約束よ、必ず殺してよね。」

そして、私は月子を殺す事になった。
帰宅して、夕食を済ませ、お風呂に入った。
平静を装うのに苦労した。
少し、テレビを眺めた後、わざと欠伸をひとつする。

「洋子さん、私もう寝るね。おやすみなさい。」

私がそう言うと洋子さんは、ちらっとこちらを見ながら
小さい声で「おやすみなさい。」と言った。
いつもと同じ光景だ。
洋子さんは、きっかり十一時に布団に入る。
それから、朝五時までは滅多な事では起きないはずだ。
私は部屋へ戻ると早速、殺人の準備に取り掛かった。
途中、何度もやめようと思った。
そのたびに、月子の言葉が蘇る。

「必ず、殺してよね。」

           つづく。。。

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