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白い死神~創作物語~ 第二話

2017-07-15 21:26:41 | 日記

一時間位前に話は遡る。
我が家の狭いキッチンで、
洋子さんが忙しそうにお茶を出す準備をしている。
誰か来るらしい。
しかも、かなりの大人数……。
 
洋子さんというのは、私の伯母で、母の兄のつれあいだ。
母は、私が生まれた日に亡くなった。
母の死と引き換えに、私の人生は始まった事になる。
父の事は名前すら知らない。
母は、生涯独身だった。
そして、父の名前を誰にも明かさずに私を産んだらしい。
きっとシングルマザーとして、私を育てるつもりだったのだろう。
かなりの覚悟が入ったはずだ。
けれど、難産の末、母の命は燃え尽きた。
母の覚悟も、その命と共にあっけなく打ち砕かれた。
運命とは残酷なものだ。
その瞬間、私は孤児になった。
私にとって不幸な事ではあったのかもしれない。
でも、悲しいと思った事は無い。
だって両親は、まるで知らない人達なのだから。

そんな私を引き取り、育ててくれたのが伯父夫婦だった。
昭夫おじさんは真面目な人で、よく働いた。
残業ばかりで、滅多に顔を合わせる事がなかったほどだ。
だから、洋子さんはほとんど一人で、
血のつながりもない私を育ててくれた事になる。

昭夫おじさんが亡くなったのは、五年前。

その朝、いつもと同じように会社に出掛けた昭夫おじさんが、
生きてこの家に帰ってくる事は無かった。
働きすぎが原因の過労死だと言う人もいたが、
はっきりした事は私にはわからない。
わかっていたのは、血のつながりのない洋子さんが、
たった一人の身内になったという事だけ。

もちろん、施設に預けるという方法もあったはずだ。
でも、洋子さんは私を家に置いてくれた。

「流音ちゃんは、優しいおばさんがいてくれて幸せね。
 感謝しないとばちがあたるよ。」

おせっかいな近所のおばさんによく言われたものだ。
だけど、あのおばさんは洋子さんを知らない。
洋子さんは、優しいから私を家に置いてくれている訳ではない。
それは、洋子さんにとって義務のようなものだった。
洋子さんの常識と言ってもいい。
だから、感謝しなくたって、ばちなんか当たらないと思った。
……そう思ったから、ばちが当たったのかもしれない。

……そうかもしれない。


私が、死んでいることに気付くのに、そんなに時間は掛からなかった。
家の中は、線香の煙でむせかえるほど。
こんなことは、五年前、昭夫おじさんが死んだ時以来だ。
決め手はなんといっても、洋子さんの態度。
お茶の準備をしている洋子さんに、私は声を掛けた。

「手伝おうか? 」

洋子さんは、答えなかった。
つまり、シカトしたのだ。

ありえない。

洋子さんが私の事をシカトするなんて、あるはずがない。
私をこの家に置いてくれたのと同じ理由で、
私の言葉に洋子さんは、キチンと返事をかえさなければならないはずだった。
洋子さんは、自分の常識に反する事は、決してしない。
たとえ、天地がひっくり返ったとしても……。

線香の煙と洋子さんの態度が指し示した結論はひとつ。
私は死んでいて、洋子さんには見えていない……。
洋子さんがシカトをする事より、そのほうがずっと真実に近い気がした。

そして、私は広間へ向かう。
私の推理が正しければ、そこに答えが……あるはずだ。
案の定、広間には私の死体が横たわっていた。
どうやら、これからお通夜が行われるらしい。
さっきのお茶はその為の準備という事だ。
私の人生は、たった十四年で終わってしまった。
びっくりしたが、不思議と悲しくは無かった。

私は、この家で何不自由なく育った。
幼稚園の時には、手作りバックを作ってもらった。
お弁当には、たこさんウインナーが入っていたし、
時には、三角おむすびに海苔で顔が描かれていたりもした。
全部、洋子さんがしてくれた事だ。
洋子さんは何でも完璧にこなす。
言わば、スーパーウーマンだ。
私がこの家で、手に入らなかったものはたったひとつだけ。

それは、……家族の愛情。

洋子さんは、私の事が好きではなかった。
かといって、嫌っている訳でもない。
親戚に孤児がいたら、その子は引き取らなければならない。
そういう常識が、洋子さんの中に存在する。
でもそこには、愛情なんてものは見当たらなかった。
洋子さんに抱きしめてもらった記憶はない。
優しい言葉をかけてもらった事もない。
でも、何か問題が起これば必ず解決してくれた。

それが洋子さんだ。

それでも、私は洋子さんに感謝していた。
少なくとも、今まで生きてこられたのは、この人のおかげだ。

私は自分の死体を広間に残し、ふらっと外へ出た。
すれ違う人にも、何度か声をかけてみたが、誰も私に気付かない。
見えないし、聞こえないのだ。

これからどうしたらいいんだろう。

死んだ時にどうするかなんて、誰からも教わったことがない。
とりあえず、近所の公園へ向かった。
あそこは生きている時から、私のお気に入りの場所だった。
そこに、何がある訳でもない。とりあえず、考えたかった。
この状況を冷静に理解し、これからの対策をたてたいと思った。
公園には、誰もいない。もう、みんな家へ帰ったのだろう。
小さな子供達であふれかえっているにぎやかないつもの公園とは、
別の場所みたいだ。
こんな事になっていなければ、
公園を独り占めしたような優越感にひたれるのだろうが、
今はその余裕はない。
自然とぶらんこへ足が向く。
小さい頃は、何か困った事があるたび、
このぶらんこに乗って考え事をした。
大きくなって、ぶらんこに乗っているところを
人に見られるのがだんだん恥ずかしくなってきたので、
最近はすっかり乗らなくなっていた。
でも、今は誰にも見られずに済む。

まず、私はなぜ死んだのかを思い出そうとした。
……覚えていない。死んだ時の記憶だけじゃない。
まるで、前に映画で見たような、虫の喰ったぼろぼろの宝地図状態だ。
肝心な所は、穴だらけ。何も思い出せない。
記憶が飛んでいる事で、私はますますパニックになった。
そんな状況で、あの仔犬……じゃない、死神である。
まともでいられるほうがおかしい。


「そろそろ放してくれないかな。
 もう一人迎えに行かなきゃいけないんだ。」

死神が口を開いた。
そこで、やっと私は我に返る。
死神をそっと地面に戻すと、ようやく思考回路が機能し始めた。

私は死んでいるのだ。
死神が迎えに来たって何の不思議もない。
それどころか、迎えに来てくれてありがとう、とお礼を言いたいくらいだ。
ただ、死神というのが、
こんなにも愛らしい姿形をしているなんて思ってもみなかった。
おかげで、自分が死んだという事よりもショックを受けてしまったらしい。

「あの……いろいろ聞きたい事があるんだけど。」

おそるおそる死神に話しかけてみた。
実際、私は聞きたいことだらけだった。
そして今、この状況を一番把握しているのは、
他ならぬこの死神のはずである。
死神は、ちょっと考えてからこう言った。

「とりあえず、歩きながらにしてくれる? 
 こう見えて、結構忙しいんだな。
 次の人、迎えに行かなきゃいけないし……。」

次の人? 私の他にも死んだ人がいるんだろうか。
自分の事は棚に上げて、
あえて言わせてもらうと……少し、怖い。

            つづく。。。

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