ささやんの天邪鬼 座右の迷言

世にはばかる名言をまな板にのせて、迷言を吐くエッセイ風のブログです。

軍事技術の研究資金は

2017-01-15 18:37:32 | 日記
科学技術の研究は、それを利用する側の意図とは別に行われる。研究者
が人類の福祉の向上をめざして始めた取り組みでも、その成果は彼/彼
女のもくろみとは裏腹に、福祉の破壊のために、軍事技術の革新のため
に利用されることがある。

ロボットスーツHALのことを考えてみればよい。身体の機能を補助する
目的で開発されたこのハイテク機器は、医療現場での動作支援や、工場
での作業支援、災害現場での活動支援になど用いられるが、それだけで
なく、戦場で戦闘に参加する兵士たちの、その身体能力の増強のために
も利用されようとしている。

こうした例を持ち出すまでもない。殺傷能力が高いダイナマイトは、も
とは化学者のノーベルが土木工事の安全性を向上させる目的で発明した
ものであった。いまではダイナマイトと聞けば、危険な「武器」という
イメージが強い。ダイナマイトの発明は、ノーベルに巨万の富をもたら
し、ノーベル賞の設立の資金になった。

いま私が考えたいと思っているのは、防衛省の「安全保障技術研究推進
制度」のことである。この制度は、兵器など、装備品の開発につながり
そうな基礎研究に、相当の研究資金を提供する制度である。大学の研究
室では、研究資金の不足に悩まされ、外部資金の導入が欠かせないもの
になっている。では、防衛省が設立したこの制度に志願して多額の研究
費を獲得しようと望むのは、どうしたものだろうか。

「どうしたものだろうか」とことさら素朴な問いを掲げなければならな
いのは、この外部資金を用いた研究の成果が、人類に災禍をもたらす、
殺戮と破壊の技術の向上につながるからである。そのため日本学術会議
も、この問題を時間をかけて議論している最中だという。

ロボットスーツHALにしろダイナマイトにしろ、そういう技術の開発に
携わる側の当事者たちは、どう考えるだろうか。ロボットスーツHALを
開発したS教授に、こう質問したら、彼はどう答えるだろう。
「あなたは、防衛省のあの制度を使うお気持ちはおありですか?」

S教授は、今ではベンチャー企業を立ち上げて、HALの販売を事業化し
ており、開発資金も潤沢に蓄えているだろうから、おそらく「いいえ、
そんな必要はありません。はい」と答えるだろう。だが、HALの研究が
緒についたばかりで、その成果が日の目を見るようになる前の彼だった
ら、「う〜ん、どうしようかなあ」と迷うだろう。

HALの技術が実用化されれば、それが人類の福祉の向上に大きく役立つ
ことは間違いない。しかし、実用化のためには、多額の資金が必要にな
る。資金がなければ、何も生まれない。しかし、防衛省の制度によって得
た資金を使うとなれば、その技術は戦場での戦闘技術の向上のために利用
され、その計画への助言と協力を拒むことはできない。しかし・・・。しか
し、しかし、しかし・・・。

人類の福祉の向上への貢献度が高い技術ほど、人類に破壊と惨禍をもた
らす度合いも高くなる。禍福は糾(あざな)える縄。一枚のコインの裏
表。これをどう使うかは、コインを手にした側の思惑に委ねられる。そ
れをどう考えたらいいのか。

う〜ん、難しい問題である。防衛省は、この制度による研究の成果を俎
上にのせ、その利用のあり方と、これの是非について検討する倫理委員
会を設けたらどうだろうか。
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