蟋蟀庵便り

山野草、旅、昆虫、日常のつれづれなどに関するミニエッセイ。

群星(むりぶし)

2017年04月04日 | 季節の便り・花篇

 あまり読む記事がないし、翌朝再掲されることが多いから、夕刊をやめようと思った。その矢先、面白いコラムを見付けた。
 ……753年、中国から鑑真和尚が薩摩半島に上陸した時、誰よりも喜んだ聖武天皇が期待したのは、鑑真の医薬の技だった。正倉院に残されている聖武天皇が処方された鑑真の薬物が残っているが、そのうちの「五石散」という鉱物の調合薬は「虚弱体質を改善し、身体を強壮にする(男のメンツが立つ)」作用があるという。この「五石散」を服むと、体がポカポカ温まって来る。身体にこもった薬毒を消す「散発」という作用で、その散発を促す為に、そこらじゅうを歩き回らねばならず、これを「散歩」と称した。つまり、歩く健康法の起源は奈良時代の治療にあるわけだ……
 目からうろこだった。ネットにはこう書かれている……「五石散(ごせきさん)」は、古代中国で後漢から唐の時代にかけて流通していた向精神薬で、寒食散とも呼ばれる。
 鍾乳石、硫黄、白石英、紫石英、赤石脂という五種類の鉱物を磨り潰して作られたもので、不老不死の効果や虚弱体質の改善に効果があるとして中国で広く流通した。」

 一種の麻薬であり、副作用や依存症も多かったらしい。中国史上最大の書道家である王羲之も、五石散の副作用に苦しんだ被害者だったとか。
 軽々しく「散歩してくる」というのが躊躇われるような……(笑)もう暫く、夕刊の停止を申し出ないでおこう。

 同じ夕刊に「オーストラリアの珊瑚礁グレート・バリア・リーフの白化現象が進み、昨年91%に達して多くの珊瑚が死滅、回復は困難」という記事があった。
 南緯10度から24度にかけて広がり、2,600kmを超える長さに、2,900以上の珊瑚礁群と約900の島を持ち、総面積は344,400km2以上という、途方もない世界最大の珊瑚礁である。
 スキューバ・ダイバーの資格を持つ者として、一度は潜りたいという憧れの海のひとつだった。人の営みによる水温と水質変化が加速し、褐虫藻が居なくなると、もう珊瑚は生きていくことが出来ない。
 昨夏、沖縄・座間味島にダイビングを楽しんでいるとき、石垣島沖の珊瑚に白化が進んでいるという心配な話を聞いた。座間味の海も一部復活しつつあったが、かつての百花乱れ咲くように絢爛豪華な面影には遥かに及ばず、海底に散らばる死屍累々の珊瑚の残骸に心が痛んだ。回復には十年から数十年かかるといわれるが、今後も温暖化による海水温の上昇を繰り返し、決して元に戻ることはないだろう。珊瑚と海亀の保護に、ささやかな寄付をして帰ったが、「焼け石に水」の空しさが付きまとった。
 地球環境にとって、人類こそ絶滅すべき種ではないか?……しだいに確信が深まる哀しい実感である。

 庭の片隅に、ハナニラが星空のように群れ咲き始めた。座間味の夜空を飾る無数の星々、水平線から水平線まで天球となった夜空から、厚みと深みを持って雪崩落ちるように降る星屑を浴びながら、ご近所さんが集って泡盛を酌み交わす「ゆんたく」にお邪魔することが、座間味ダイビングの後の最高の醍醐味だった。
 そんな星空を思い出させるハナニラの群生……群れ為す星「群生」、これを「ぐんせい」と呼ぶより、ウチナー口(沖縄弁)で「むりぶし」と呼ぶと、17年仕事で通い詰め、一時期家族で住んだこともある沖縄への懐旧の情が、一気に高まってくる。
 嘲笑うような寒暖の渦に翻弄されて、少し風邪気味の気怠い午後である。
                   (2017年4月:写真:群れ咲くハナニラ)
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