YU@Kの不定期村

不定期に気ままに、映画&特撮レビューブログ。

茶化された復讐劇の先に『ファイアパンチ』。映画監督トガタは何を目的としたキャラクターだったのか

2016-10-18 17:37:37 | 漫画/小説



こんにちは、YU@K(@slinky_dog_s11)です。

何かと忙しくて久々のブログ更新となってしまいましたが…。第1話公開時点でネットを中心に大反響を呼び、話題性のあるイロモノ漫画として連載継続中の『ファイアパンチ』。主人公は「再生能力の祝福」を持ち(この作品における“能力者”を指す)、斬っても生えてくる腕を飢えに苦しむ村の食料として提供していた …というハードな導入から始まるこの作品は、妹との近親相姦を仄めかしつつもその兄妹は「炎の祝福者」によって村ごと焼かれてしまい、焼死目前と再生を繰り返しながらその身に炎をまとった主人公が、「炎の祝福者」に強い復讐心を抱く、というあらすじである。

連載開始時に「なんかジャンプにしてはネット公開とはいえ攻めてきたな…」と思いつつグイグイ惹きこまれ、単行本も買いながら毎週月曜の更新を楽しみにしているのだけど(現時点で単行本2巻、連載は25話まで公開中)、非常に面白い構成の作品だと感じていて、ついついこうやって感想を書きたくなってしまったという…。





本作は、まず主人公・アグニが人肉と血と性欲が躍る混沌とした世界でひたすらに復讐に突き進むのが単行本1巻の内容だが、その後の2巻でトガタという女性のキャラクターが登場する。彼女は非常に我が強く変わった人間で、主人公と同じ「再生の祝福者」でありながらすでに300年を生きており、そして映画が大好きなために見惚れたアグニを“主人公”に「ファイアマン」という映画を撮ろうとする。そのため、アグニを誘導し、衣装を着させ、戦い方を教え、演技をさせ、果てには復讐相手である敵にまで“自身の監督作を盛り上げるため”に塩を送る。非常にトリッキーなキャラクターである。

よくネットでは、このトガタが出てきてから「ジャンルが変わった」「復讐劇の成分が弱まった」「失速した」という声が上がっていたが、確かにそう思うところはありつつも(先に下記のインタビューを読んでいたこともあり)絶対にこれは“前振り”だと確信しながら連載を追っていて、そして遂に、ここ数週の展開がまさに映画のごとく帰結しつつあるのが爽快でたまらないのだ。それは、作者のこの言葉にある。




僕は物語が展開される中で、ジャンルが変わるというか、読者が事前に予想していた展開からまったく別の方向へ進んでいくマンガを作りたいと思っているんです。映画なら「ゴーン・ガール」、アニメでいうと「魔法少女まどか☆マギカ」「がっこうぐらし!」「ハイスクール・フリート」なんかがそうですかね。それが成功しているのかはわからないですけど、どれも話題になっているじゃないですか。話題を作るうえで、そういう試みは必要だなと思って。「ファイアパンチ」は今後3回か4回、ジャンルが変わります。

「ファイアパンチ」藤本タツキインタビュー - コミックナタリー Power Push



だから、トガタが出てきて物語の核心だったアグニの復讐劇が彼女の娯楽のために利用されたとしても、それはそれで「作者の思うツボ」なのだろうから、であるならば、それを“受け止める”展開として一体どういう受け皿が用意されるのだろう、というのが私の中で牽引力になっていた。もちろん、トガタのキャラクターは同じ映画好きとして好きにならざるを得ないくらいに面白く、「つまんないけど先の展開があるから堪えよう」ではなく、「ちょっと雰囲気変わってきたけどこれ絶対“前振り”だよヤベーヨ」という感じであった。





余談だが、作者・藤本タツキ氏は本当に映画が好きなのだろうな、と感じる。トガタ自身は別に妙にマニアックな映画を語るタイプではなく、むしろビッグバジェット系の作品が好きなのだろうと思わせる言動が多いが、この作品のコマ割りや演出が所々やけに映画チックというか、その手の演出を意図したものに思えて仕方がないのだ。2巻中盤の訓練のくだりでの「真面目に訓練するシーン」と「ギャグシーン」の軽快なカットバックや(最近でいうと『X-MEN ファースト・ジェネレーション』や『アントマン』の訓練シーンを思わせる)、廊下を右から左に移動するシーンで“カメラ”は横移動のまま主人公が立ち止まって右に流れていく演出など、映像的な動き・演出を思わせる部分が多く、そこがまた読んでいて非常に楽しいのだ。


※このあと、単行本3巻以降収録部分のネタバレがあります。


ということで話を本題に戻すと、「ちょっと雰囲気変わってきたけどこれ絶対“前振り”だよヤベーヨ」がついに“結実”する展開が、現在連載中の19話以降で展開されている。自称映画監督・トガタの策略によって、それぞれパワーアップしたファイアマン(アグニ)とベヘムドルグ軍&収容祝福者の全面対決が開始。映画「ファイアマン」はその壮絶な復讐劇にふさわしい大乱戦が行われる …はずだったが、その寸前、アグニは牢に囚われた人間たちを救い出してしまう。トガタのシナリオに無い動きをさせたのは、在りし日の炎をまとう前の自分の幻影を見たから。彼は、そもそも自分がこの世界に対して“なに”を抱いていたのか、思い出そうとしていた。





トガタはトガタなりに真剣であるとはいえ、彼女がアグニにした所業は、要は「茶化し」である。妹を塵にされ、自身に消えることのない痛みを植え付けた宿敵・ドマに対する復讐心。そのアグニの強大でドス黒い復讐心を、トガタは自身の映画のために“フィクション”として利用する。アグニにとっては、自分の復讐は誰のための物語でも、ましてや他人の創作意欲を刺激するためのものではないのだが、トガタはそんなことはおかまいなしに、ましてや敵対するベヘムドルグ側にさえ協力してみせる。

「他人の、人生をめちゃくちゃに破壊されたことによる復讐心」を「自身の、映画作成のため」に利用してしまう。傍観者としてドキュメンタリーとして撮るならまだしも(?)、完全に自分がその舞台を操作している。そうやって「茶化された」アグニの復讐心には、それが遂に叶う目前になって、あろうことか自分自身により「?」が突き付けられてしまうのである。そうして薪として四肢を燃やされていた囚人を助け、敵と戦いボロボロになりながら、痛みを覚えつつ、アグニは自身の復讐心のその更に深層にあった“感情”に気付くことになる。




(なんで俺は生きているんだ…?)
(生きていても痛いだけだ)
(死んだらドマへの憎しみだって炎の痛みだって消える…)
(死んだら…ルナと会えるのに)
(なんで俺は死なないんだ…?)

(あれ…何かを忘れている気がする…)
(大事な何かを…)
(今…)
(俺は……なんで今生きているんだ…?)

「あいつらは…悪気もなく…」
「人を物みたいに扱う…」
「俺達が生きている事を忘れて…薪のように燃やす…」
「それがまるで当たり前みたいに…!」
「全部氷の魔女のせいにして…!」
「俺達を薪と呼ぶ世界を作った…!」

「負けてたまるか…!」
「ただで死んでやるか…!」
「そうだ…俺は嫌いだったんだ…!」
「雪も」
「飢餓も」
「狂気も」

「ずっと!」
「許せなかったんだ!!」

・本編「24話」より



アグニが、妹を殺し自身をも苦しめたドマに抱いていた復讐心の“正体”は、実は「この世界そのものに抱いていた憎悪」だった。それが、ひとつの契機を受けて復讐という形でドマに向いていた“だけ”だったのだ。そうして、アグニがそれに気付いたその直後、彼はトガタが撮影のために用意した「音声認証によるパワードアームの炎上(=必殺技)」を放つ。その認識用音声こそが、「ファイアパンチ」なのだ。





ここでタイトルそのものに帰結するからして、トガタの存在が昇華されたのだと感じる。彼女はつまり、物語を牽引しながらも、幸か不幸か「アグニが自身の復讐劇を“客観視”するきっかけ」を彼自身に与えてしまった。アグニはトガタに言われるがままに演技をし、「復讐を願う自分が復讐を願う自分を演じる」という体験を経ていくなかで、そこに疑問を抱き、やがてトガタの敷いたレールを根元的憎悪を指針に外れていく。トガタによる「茶化し」がアグニの真の感情を露わにし、それが彼女のシナリオを壊すというのだから、トガタにとってはこの上なく皮肉の効いた展開であるし、彼女自身が皮肉屋であったのもこの展開のための“前振り”だったのではと深読みしたくなる。

更には、アグニはトガタが用意した必殺技を彼女のシナリオとは違う意図(タイミング)で発動するが、それがまたこの上なく「ビッグバジェット系アクション映画のクライマックスでやりそうなド派手でケレン味たっぷりの必殺技」なのだ。アグニは、“演出的に”監督であるトガタをねじ伏せ、そうして、助けた囚人たちから「神」と崇められる。もうまさに、ここで映画が一本終わりそうな三幕構成としてドンピシャなのだ。「妹を殺された男の走る復讐心が」「それを第三者によって茶化され利用され」「しかしそれによって彼は抱いていた本当の思いに気付き、クライマックスで必殺技を放つ」。<一作目、完>。「世界そのものを憎み戦う男の“オリジン”はこれにて完成したのである…」。うーん、素晴らしい。





トガタのシナリオを、作者のシナリオが上回る。彼女も作者が生んだキャラクターなので当たり前の話ではあるが、つまりは彼女はアグニのオリジン完成のための当て馬だったのではないだろうか。あれだけアクの強かったトガタを、しっかり主人公が食い返したのだ。そして、ああも暴走して見えた彼女の言動も、しっかりと作者の掌の上だったというのだから。




──キャラクターにご自身を投影することはあるんですか?

ないですね。計算して描いているので、キャラが勝手に動いちゃうのが怖くて。今のところは僕が考えたとおり、それぞれのキャラが動いてくれています。

「ファイアパンチ」藤本タツキインタビュー - コミックナタリー Power Push



「<1>救いのない異国ファンタジーでの血肉飛び散る復讐劇」が「<2>異常映画愛好家によるフィクション物語」に変化し「<3>主人公の成長と必殺技が飛び出る正統派燃え展開」に繋がっていく。現状2回変化したこの『ファイアパンチ』が、本当にあと数回もジャンルが変わっていくとしたら…。そして、実はまだこの変化は「1回」ですらなかったのだとしたら…。それでも、見た目は変わりつつも根っこは脈々と引き継がれ続いていく、そういう構成なのではないかと、期待してしまうのだ。作者・藤本タツキ氏の巧妙なストーリーテリングに、今後もまんまと踊らされていきたい。


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