I LOVE VIVIANNE

  『世界は私のために回っているのよ♪』
    ★箱入り娘のうちのワンコ★

アカシア

2017-03-04 17:26:07 | 読書
職場の上司とは犬談義をよくする。
上司はラブを二頭飼っている。
アポロンとアルキメデス。

上司は子犬の頃から同胞家族たちと定期的に会って
それぞれの成長を楽しんできた。
何家族かに引き取られた同胞たちの一頭は事情があって
成犬になってから違う同胞の家へと住まいが変わった。

久しぶりに皆んなで会うことになった時の帰りの話。
もらわれたその仔は誰よりも早く
今の飼い主の車ではなく
元の飼い主の車に乗り込んだそうだ。

それを見ていて皆
『その犬は脱走して飼い主が変わっちゃったのかもしれないと感じたから
もう置き去りにされないように素早く車に乗り込んだのではないか』
と推測したらしい。

その犬が脱走の常習犯だったかどうかはわからない。
上司の犬は何度か脱走し保護されたことがあるらしいけど。

そのことについて君はどう思うかと質問を投げかけられた。
『犬が置いてけぼりにされたとか
捨てられたとか思うかどうかはわからない。
ただ犬という動物は今のおかれた環境で
よりよく生きられるように
自分で方策を見つけるのではないか』
と私は答えた。

これはヴィをドックホテルに預けた時
その家の一番偉そうな人
すなわちその家のご主人である旦那様を味方につけようと
隙があればそのご主人の膝に乗っていたというエピソードがあったからだ。

すると上司はそれは深い答えだ、君は犬のことがわかっているねと褒められた。
(実際わかっているとは思ってないけど)
そしてそういうことについて書いてある本があるから
今度貸そうといって渡されたのがこの本。

前置きが長くなったが
初めて辻仁成の本を読むことになった。



5つの短編小説+1。
その中の『明日の約束』という小説。
だがそこに犬は登場しない。

上司の記憶違いかと思いながら全部を通して見たが
犬の登場する話はあるがどれも違う。

もう一度明日の約束を読み返して見た。
人道支援団体から医師として派遣された男は
難民キャンプへの移動中、車列が攻撃され必死で逃げた。
行き着いた先は密林を切り開いてできた集落。
裸同然、言葉を持たない部族。
『明日』や『昨日』という文明社会では当然の概念がない部族で生活することになる。

集落には月日という感覚がないため
記憶があっても思い出に浸ることもない。
死んだ人間は今も死んでいる、
つまり死に続けてあるのであって
思い出でも何でもなく死者はすぐそこにいるのだ。

正確に時を刻む男の腕時計の秒針を刻む音が
男の記憶をノックし苦しめることがあったが
部族にその時計を取られ
文明の名残を捨て去ることができて清々する。

長い月日が経ちこの部族にも文明の波が押し寄せようとする。
動物の生態を研究調査する学者の一行と出くわしてしまう。
男は散々悩んだ挙句
元いた文明に帰ることなく
この集落に残ることを決断する。
男には家族ができていたのだ。

この男が上司の言う犬と同じと言うことなのだろうか。
この男は文明に帰ろうと思えば帰れなくもない。
しかし犬には自分ではどうしようもないこともある。

ただ共通しているのは流れに贖うことなく受容し
どうすれば自分にとっていいのかを考えている点だ。
犬は特にそう言う点に優れていると思う。

上司のラブ、アポロンは先月16歳で旅立ってしまった。
老々介護の末の最期だった。
褥瘡防止のためどんな時でも4時間を超えることなく
夫婦連携して介護してきたそうだ。
愛されたアポロンは幸せだったろう。

文明社会に暮らす人間も『明日』や『昨日』がないと言う原始的な生活に戻ったら
光のないせいで逆に水がよく見えるように
神経が研ぎ澄まされるのだろうか。
そして死とは肉体を脱ぎ捨てること。
それが早いか遅いかだけだと言う境地に達するのだろうか。

『起きればお腹がすく、お腹がいっぱいになれば眠くなる、ただそれだけですから』


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