長崎大学教育学部教育心理学教室 前原由喜夫研究室の記録

教育心理学とその周辺分野の研究や情報の覚え書きです。心理学の知見を教育実践に活用する方法を考えていきます。

報酬に敏感な脳と危険な行動

2016年12月30日 | 教育心理学
思春期は脳の報酬系の活動が活発になり,仲間の承認という社会的報酬を得ようとして,危険な意思決定をしてしまう傾向が強くなると考えられています。それでは,報酬系の活動と日常生活における危険な意思決定や行動との間には,実際に関連があるのでしょうか。

Galvan et al. (2007) は7~11歳の子ども,13~17歳の思春期の青年,23~29歳の大人を対象に,質問紙で尋ねた実生活で想定される危険な場面での考え方と,報酬が期待できる課題を行っているときの報酬系の脳活動に関連があるか否かを調べました。質問紙は,①リスク行動に対する認知的評価(Fromme et al., 1997),②危険な行動の関わる6つの仮想の物語(飲酒した運転者と車に乗る,タバコを吸う,店から物を盗むなど)を提示され,各物語について4つの質問(質問例「もしあなたがこの行動を取るなら,どれほど恐ろしいことが起こると思いますか?」)それぞれに7段階で回答が求められるリスク認知質問紙,③コナーズ衝動性尺度(Conners et al., 1998)の3種類が実施されました。fMRI課題では遅延反応課題(delayed response task)と呼ばれる単純な手順の記憶課題が用いられました。この課題では初めに注視点の右か左に3種類の海賊の絵のうちの1つが1秒間提示されるので,参加者はその位置を憶えました。3つの海賊の絵はそれぞれ異なる報酬(低/中/高)を示していました。2秒間の遅延(ブランク画面)の後,画面の左右に宝箱が出現するので,2秒以内に最初に海賊の絵が提示されたほうのボタンを押せば報酬獲得となりました。


質問紙で測定されたリスク行動への関与可能性と
課題遂行中の報酬に対する側坐核の反応の関係

実験の結果,報酬の関与する遅延反応課題の遂行中の側坐核(accumbens)と呼ばれる報酬系の一部の活動が強い人ほど,リスク行動に関わる可能性が高いと答え,リスク行動のポジティブな結果を予期する程度が強く,ネガティブな結果を予期する程度が弱いことがわかりました。この相関関係は年齢と性別を統制しても有意なままでした。したがって,(思春期に限定したことだとは言えませんが)脳が報酬に敏感に反応する人ほど日常生活でも危険な行動に対して親和性が高いと言えるかもしれません。しかし一方で,側坐核の活動と質問紙で測定した衝動性との間には有意な関連は見られませんでした。

年の瀬が迫ってまいりました。この記事がちょうど通算200個目となります。キリの良いところで今年のブログ納めです。それでは皆さま,穏やかな年の瀬をお迎えくださいm(_ _)m

<参考文献>
Connors, C., Sitarenios, G., Parker, J., & Epstein, J. (1998). The revised Conners’ Parent Rating Scale (CPRS-R): Factor structure, reliability, and criterion validity. Journal of Abnormal Child Psychology, 26, 257–268.
Fromme, K., Katz, E., & Rivet, K. (1997). Outcome expectancies and risk-taking behavior. Cognitive Therapy Research, 21, 421–442.
Galvan, A., Hare, T., Voss, H., Glover, G., & Casey, B. J. (2007). Risk-taking and the adolescent brain: Who is at risk? Developmental Science, 10, F8-F14.
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