長崎大学教育学部教育心理学教室 前原由喜夫研究室の記録

教育心理学とその周辺分野の研究や情報の覚え書きです。心理学の知見を教育実践に活用する方法を考えていきます。

思春期の脳の特徴

2016年12月08日 | 教育心理学
思春期は第二次性徴による体の急激な成長に心の成長が追いついていないとよく言われますが,心の発達だけを見ても知的能力と社会的成熟が全く異なる発達経過を見せます。心の認知的側面と社会的側面の発達の違いは,児童期から成人期にかけての脳の大まかな発達の特徴を知っていると理解しやすいと思います。

下のグラフは子ども(児童期)から大人(成人期)にかけての前頭前野皮質(prefrontal cortex)と線条体(striatum)の発達の程度を模式的に表したものです(Somerville & Casey, 2010)。前頭前野皮質は脳の前半分のそのまた前方部分の表面に当たる部位で,人間の高次な認知的コントロール機能を担う,ワーキングメモリや実行機能にとっても最重要の脳部位です。線条体は脳の内部にあり,ドーパミン(dopamine)という神経伝達物質の引き起こす信号の重要な通り道(報酬系の一部)にあたります。ドーパミンは報酬を感知すると中脳から放出され,モチベーションや意思決定や身体の動作に関わります。



前頭前野皮質と線条体の発達(Somerville & Casey (2010) を参考に)

前頭前野皮質は子どものときから大人にかけてほぼ直線的に発達していきます。一方,線条体は青年期前期(思春期)に急激に発達し,青年期後期には発達が緩やかになると考えられています。思春期には線条体が先行して成熟するので,報酬への敏感性が高まります。その線条体の急速な発達に比べて,前頭前野皮質の発達は遅いということになります。線条体は報酬を獲得しようとするモチベーションを生み出す,いわばアクセルの役割を果たし,前頭前野皮質は認知と行動をコントロールする,いわばブレーキの役割を果たしていると考えればわかりやすくなります。思春期は報酬獲得に向けたアクセルが強くなるのですが,その行動を制御するためのブレーキがまだそれほど強くない状態なのです。つまり,思春期の脳は報酬や誘惑に鋭敏に反応して行動を起こしてしまうのですが,それをコントロールする能力が相応に発達していないのだと考えられます。

van Leijenhorst et al. (2010) は10~23歳の実験参加者を,10~12歳(思春期前期),14~15歳(思春期後期),18~23歳(成人期)の3グループに分けて,スロットマシーンをしている最中の脳活動をfMRIによって測定しました。スロットマシーンは参加者がボタンを押すと,回転している3つのドラムが左から順に止まって絵柄が決まっていき,3つ同じ絵柄がそろうとポイントがもらえるという仕組みです。左と真ん中の2つのドラムが同じ絵柄のときは,3つ目のドラムが同じ絵柄になるかどうか待っている間,報酬を期待してドキドキすることになります。この報酬期待時に線条体の活動が活発になると考えられます。実験の結果,思春期の2つのグループは,最初の2つの絵柄がそろったときの線条体の活動が,最初の2つが異なる絵柄になったときよりも有意に強く活動していました。一方で,成人グループは最初の2つの絵柄がそろっても,線条体にそのような強い活動は見られませんでした。


スロットマシーンの模式図。(上段)絵柄が3つそろいそうなので線条体が活動するとき。(下段)絵柄がそろわないとわかっているので線条体があまり活動しないとき。

スロットマシーン実験からもわかるように,思春期の子どもの脳は大人の脳よりも報酬に対して敏感に反応します。思春期は誘惑があったり報酬が期待できると,何も考えずにすぐに飛びついてしまう脳の構造をしていると言えます。

<参考文献>
Somerville, L. H., & Casey, B. J. (2010). Developmental neurobiology of cognitive control and motivational systems. Current Opinion in Neurobiology, 20, 236-241.
Van Leijenhorst, L., Zanolie, K., Van Meel, C. S., Westenberg, P. M., Rombouts, S. A., & Crone, E. A. (2010). What motivates the adolescent? Brain regions mediating reward sensitivity across adolescence. Cerebral Cortex, 20, 61-69.
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