長崎大学教育学部教育心理学教室 前原由喜夫研究室の記録

教育心理学とその周辺分野の研究や情報の覚え書きです。心理学の知見を教育実践に活用する方法を考えていきます。

夢に関する理解の変遷と心理療法(ゼミ文献紹介)

2017年06月19日 | 学部生ゼミ
小学校教育コース3年生 近藤美穂

夢とは,「睡眠中に生じる報告可能な精神活動」と定義されています(Duval & Zabra, 2010)。一晩の睡眠中はレム睡眠とノンレム睡眠が交互に繰り返され,私たちは睡眠中にずっと夢を見ているのではなく,情報処理過程を反映しているレム睡眠の時にストーリー性の高い夢を見ていることや(堀, 2008),夢を想起する人の認知や情緒の状態を示すこと(松田, 2006)が判明しています。また夢が想起者の認知や情緒に関連があるとし,メンタルヘルスの研究の対象にもなってきており,メンタルヘルスの不調を端的に示す夢の症状としては悪夢が挙げられます。


なぜ夢を見るのか,夢の中で何が行われているのかといった夢の機能については,4つの仮説があります。①精神分析学的立場からは,フロイトが『願望充足仮説』を唱えました。夢の中でのストーリーは患者が意識の上では到底認めがたい願望を示していると考え,夢を全てシンボルで解釈しようとしましたが,当時は夢と睡眠のメカニズムが解明されていなかったので神秘主義,深層心理学の方向へ偏ってしまう結果になりました。②1950年代にレム睡眠が発見されて以降,記憶や学習の立場から研究が進められ,認知科学の立場からは,夢は『重要な記憶を再処理して残している』という仮説が提唱されました(Winson, 1990)。これは日々インプットされる様々な記憶情報を,分類したり書き換えたりする過程から夢が生じているとする説です。③進化論の立場からは,夢は『今後必要になるであろう行動をシミュレーションしている』という仮説があります。これを提唱したジュベは遺伝的にプログラミングされた行動パターンを夢の中で活性化し確認していると考えました。④1980年代に情報科学の立場からは『不要な記憶を消去している』という仮説が提唱されました(Crick & Michison, 1983)。記憶情報は神経回路シナプスに蓄積されますが,情報が多くなりすぎると脳が不具合を起こすため,夢によって好ましくない不要なシナプスの接続を減らしていると考えられました。

いずれの仮説にせよ,夢を見ているときの脳では,おおよそ記憶情報の整理が行われていると考えられます。夢はお告げのように外側からやってくるものではなく,自身の体験が素材になり内部で生成されるものと言えます。
 
夢の記憶の程度には個人差が見られます。夢想起の頻度の個人差はパーソナル要因とストレス要因から説明されてきました。一般に,①内省的で自分の心の動きに敏感な人や,②不安が高く身の回りの出来事をネガティブにとらえやすい人は夢想起頻度の高い人と示唆されています(松田, 2006)。また悪夢にストレスフルイベントが先行することはよく知られており,その例として妊娠,入学,犯罪被害,転居などがあります。
 
夢,特に悪夢を解消する方法としては,その原因となっている現実の問題を直接的に解決するのが一番有効ですが,夢の素材を効果的に認知行動療法の中で利用することもできるます(Freeman & White, 2005)。そのような認知療法の一つに,現実世界での否定的な認知は夢の中にも表れるところに着目し,夢の内容をともに分析し振り返ることで,夢の中の否定的認知を別の中立的あるいは肯定的認知に変えていくという方法があります。例えば「銃を持った殺人」が夢に現れたとき「自分は何もなすすべがない」と考えれば追いかけられ逃げ惑う悪夢になりますが,「家族を守るのは自分だ」と肯定的に考えれば悪夢の想起を緩和することができるとされています。

夢とは記憶の整理と統合であることは間違いなく,その中でも情報の感情価において選択的に夢の素材が選ばれているようです。この意味において,夢はその人にとって重要な意味を持っており有用な心理療法の素材となりえます。このように夢,特に悪夢は現実世界でのストレスに対する私たちの奮闘や認知のありかたを垣間見せてくれるものと考えられています。
 
<参考文献>
松田英子 (2013). 夢を媒介とする心理療法の歴史と展開. 江戸川大学紀要, 23, 145-150.
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