ウィトラのつぶやき

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安倍改造内閣と人材への投資、特にソフトウェア開発能力

2017-08-04 09:22:13 | 社会

安倍改造内閣が成立した。私は今回の顔ぶれがこれまでで一番まともな人事であると考えている。安倍総理は「人材育成と経済対策が目玉」と言っている。これは今年の「骨太の方針」副題が「人材への投資を通じた生産性向上」であり、「未来投資戦略」の副題が「Society 5.0の実現に向けた改革」となっていることから来ているだろう。これらは今年の6月に閣議決定されたものだが、今回の内閣改造は緊急事態が生じたからではなく、支持率低下に対するイメージアップが目的なので基本方針は引き継ぐ、ということだろう。今日はこのうち「人材育成」について感じることを書いてみたい。

人材育成には学校教育と社会人教育がある。学校教育は文部科学省、林芳正大臣の担当、社会人教育は厚生労働省、加藤勝信大臣の担当だが、加藤氏はこれまで働き方改革を担当しており、私から見ると表面的なことばかりいじってきた人物なので全く期待していない。しかし、林大臣には期待している。

メディアは文科省というと天下り問題や特区対応での忖度問題などが重要としているが、私はこれらの問題に対する対応は林氏はどちらかというと不得意だと思っており、安倍総理の期待もその点にはなく、日本の教育レベルが年々下がってきているのを持ち上げる点にあると思っている。政府は2020年から小学校でのプログラミング教育を必須としているが、これに対する対応、あるいは大学の世界におけるランキングの向上などをどうするかに林大臣の手腕を期待したい。以下、日本人のソフトウェア開発能力の強化について書いてみたい。

このブログに何度か書いてきたが、私は日本経済の停滞の大きな原因の一つが、付加価値がソフトウェアシフトしているのに、日本人が質の良いソフトウェアを書けない点にあると思っている。その意味で小学校の教育にプログラミングを取り入れることは、国民全員に「ソフトウェアとはどういうものか」というイメージを持たせるうえで効果があると思っている。しかし、それで日本人のソフトウェア開発能力上がるとは思っていない。

ソフトウェア開発には、どういうプログラムを作るかという要件定義、要件を曖昧性のない形にするアルゴリズム開発、アルゴリズムをコンピュータで実行可能な形にするプログラミング、の3段階がある。日本人はプログラミングやアルゴリズム開発は苦手ではなく、むしろ得意なほうだと思っている。日本人が決定的に苦手なのは要件定義である。作るべき機能が狭い分野で明確な場合は要件定義は殆ど自明だが、何を作ればよいかがあいまいな場合にはこの定義が難しい。そして日本人はあいまいなものを道筋立てて明確にしていく訓練を学校教育ではほとんど受けていない。

例えば「スマート冷蔵庫」を作ろうと考えた場合に、「何がスマートか?」には明確な定義がない。日本人の取るアプローチは「卵は容器が特殊なので在庫数を検知しやすい。卵を買った場合、同じ卵が10日以上残っていたらアラームを出すことにしよう」というのを要件定義にしてプログラム開発を行う。次に牛乳に対して似たようなプログラムを作る。更に生魚、生肉、野菜に対して似たようなプログラムを作る。消費のペースと合わせて更に同じ食品を買いすぎたらアラームを出すようにする。日本人のプログラムは一つずつ追加していくのでどんどん複雑になっていく。ある時、共通性があることに気が付いてプログラム全体を整理する。

これに対して欧米人は最初にプログラムするときに「賞味期限を知らせるには何が必要か?」ということを整理し、最初から「あらゆる食品の賞味期限に対応できるようにするにはどういう構造が良いか?」を検討し、最初の応用例として卵を使う、というアプローチをとる。最初の卵の検知では日本のほうが早く開発できるが、品数が増えるにつれて欧米のほうが開発速度が圧倒的に早くなる。これが日本のソフトウェアが弱い本質的な理由であると思っている。日本企業でこのような手法が根付かないのは、最初にあれこれと「賞味期限を知らせるには何が必要か?」を検討している段階が、幹部から仕事をしていないように見られるという側面もあると思う。

プログラミング教育に話を戻すと、要件定義をする人がプログラミングの経験が全くないとうまくいかないので、小学校でプログラミングの基礎教育を行うことには賛成である。しかし、より重要なことは中学、高校で要件定義に相当する「作業の抽象化」の訓練を行うことだと私は考えている。林芳正大臣は自らはこのようなことを考えないかもしれないが、誰かが指摘したときにそれを理解する能力は備えていると私は思っており、期待している。


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