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実力の見えるコレクション展 その3 大阪市立美術館「明清~近代の書画」「陶芸家・富本憲吉のデザイン」

2017-03-16 22:29:19 | 展覧会
大阪市立美術館のコレクション展のうち二つを挙げる。

3/20までのコレクション展。
*明清―近代の書画
大阪を始めこの関西には中国の文物がとても多く所蔵されている。

羅謙 藻魚図 明・16世紀 和歌山・金剛三昧院蔵  荘子の「秋水篇」から材を採る。桃の下の水中にいる魚たち、中空にいる雀たち、そしてカニやカエル。
対幅に和やかに描かれている。
ところでこの「秋水」から幸徳秋水の名は来ているそうだ。
井上陽水は幸徳秋水の親族だという話だが、ここの一族は荘子ファンでしかも水を…などと連想が広がってゆく。

誠意 杏壇絃歌図 明・16-17世紀  荘子「漁父篇」から。孔子ご一行様の林の宴会、白梅がちらほら咲いている。

許俊 鐘馗嫁妹図 清・乾隆20年(1755)または嘉慶20年(1815)  獅子舞のような獅子に乗る鍾馗と輿に乗るその妹。兄に似ず細面の美人。装束は清朝のそれ。鬼人たちのパレードでもある。百人以上がこの婚礼の列に参加している。

沈天驤 蘆雁図 清・乾隆27年(1762)  このヒトは南蘋の従子(甥)に当たるそうだ。
雁が蘆に向かい垂直降下中。下にはカップルもいるし白雁もいるし、菊も咲いている。バラらしき花も見える。

楊鯤挙 錦堂春昼図 清・18世紀  惲寿平の技法を踏襲。花の絵が魅力的な惲。その後を追う優しい花の絵。牡丹にアヤメが咲いている。

張賜寧(1743—1818) 桑蚕詩意図 清・18-19世紀 大阪市立美術館蔵  さらさらと描きつつもリアルな絵。お蚕さんがうねうね。籠いっぱいにいる。桑の葉とお蚕さん。そばには赤ラディッシュが2つコロリ。

沈世傑 蓮池金魚図 清・19世紀  明るい絵。赤とんぼもいるし水中には出目金もいる。

倪田 (1855-1919) 田家秋光図 清・光緒29年(1903) 大阪市立美術館蔵  ひとの家をのぞく爺さんとその手を引く孫らしき子ども。まだ暑いらしく団扇を片手に。丁度百年前ののんびりしたある日。

張沢 (1882-1940) 竹林七賢図 中華民国23年(1934) 大阪市立美術館蔵  色んな人がいるがこのヒトは虎を絵のために飼うてたそうな。
松篁さん・淳之さん父子は描くために鳥を飼うてたし、大観も動物好きでいろんな動物と暮らしていたが、さすがに日本では絵のために虎を飼う人はいない。隣家のわんこを描いた応挙とか焼き芋屋の猫をモデルにした春草もいいが、虎はないわなあ。

伝 呉道玄 送子天王図 清・17-18世紀 大阪市立美術館蔵(阿部コレクション) 釈迦の父上の浄飯王が大自在天廟にゆくと、みんな礼拝。はっきりした絵。

無名氏 臨盧鴻草堂十志図 明-清・17-18世紀 大阪市立美術館蔵(阿部コレクション) 盧鴻の作品を臨書。色んなシーンが10.中にはウソやろーとおもうのも。
一つ挙げるとこれ。
コブラ(!)に噛ませている!明らかにコブラなのも凄い。中国にコブラがいるのかどうか知らないが、この時代だから輸入した(!!)かもしれない。天竺の芸人ごとでな。

無名氏 子母図 清・18-19世紀 大阪市立美術館蔵(阿部コレクション) 鳥のファミリー。草花のあるところに。桜、モモの実、牡丹も気持ちよく咲いている。

毛麟書 藤花金魚図 清・乾隆29年(1764)  淡彩の藤の花がきれい。

*陶芸家・富本憲吉のデザイン
安堵町にあった富本憲吉記念館の元館長の辻本さんが集められたコレクションである。
記念館は5年前に閉館し、現在はレストラン、ギャラリー、ホテルなどになっている。
辻本コレクションは京都市芸大、兵庫陶芸美術館、大阪市立美術館に寄贈され、大阪市立美術館には作品80件と資料20件がある。
辻本さんは安堵町の住人で、復員後お兄さんに連れられて、帰郷していた憲吉に出会い、それからコレクターとしての人生を歩み始めたそうだ。
京近美の河井寛次郎作品は川勝コレクション、大阪市美の富本憲吉作品は辻本コレクション。どちらも優れた芸術家であり、コレクターもまた優れた人々だった。
そんな人々が活きていた時代に生まれた作品と、それらを大事に集めた人々の心を想いながら眺める。

富本も河井も「この一点」を選ぶのでなく、集めれるだけ集めたくなる習性がある。
それぞれ独立した作品でありながらも「類は友を呼ぶ」ではないが、「一人は淋しい」というキモチになって、他の作品も揃えようという気になるのだ。

富本憲吉の特徴として「模様から模様を造らず」という姿勢をどんな時でも守ったことがある。彼のオリジナル文様は誰のものとも似てはいない。
今回展示されているのは40点ばかり。
そのうち特にわたしの好みのものを挙げる。

〔陶磁器〕
薄瑠璃地線彫 太藺模様湯呑 3口(5口の内) 大正9年(1920)銘  フトイという植物を文様に設える。線の美がはっきりしている。

薄瑠璃地線彫 薊模様八角皿 2枚(5枚の内) 大正9年(1920)銘 こちらは薊をさらっと描く。

白磁線彫 草の葉模様大皿 祖師谷 1枚 昭和3年(1928)  線が埋もれる。しかしそれもまた魅力がある。

染付 重薬模様円形襖引手  1個 昭和12年(1937)頃 これはドクダミ。ドクダミを意匠化したのは富本憲吉と竹久夢二の二人くらいではないか。名前や咲く場所が可愛くないと避けられるが、花自体は白く可憐なのである。

かれは皿や鉢や壺や瓶だけでなく、掌に収まるような小物や筥も拵えた。
わたしなどはそれらの作品の方に多く惹かれている。

白磁陽刻 四弁花模様帯留1個 昭和3年(1928)
色絵染付 四弁花模様帯留 1個 昭和12年(1937)
どちらも円形の中に小さい文様が入ったもので愛らしい。
お嬢さんの学校のために拵えたものも多いひとだった。
2006年に京都で見たときの展覧会でそれらがたくさん出ていた。
当時の感想はこちら。


色絵 蝶模様帯留 1個 昭和24年(1949) 一羽のみ。これは古染付の「荘子の蝶」を思い出した。「模様から模様を造らず」の富本憲吉だが、白磁に染付で蝶を描く、というのは先人に例があったとしても、やっぱり拵えたくなるものだと思う。
中学のときわたしは七宝焼をしていたが、不透明の釉薬を背景に青で蝶々を一羽、というのを拵えた。素人の中学生でもそうなのだ。来歴など知らずとも、この文様は好む者には永遠の文様なのである。

藍釉陽刻 四弁花模様ペンダントヘッド 1個 昭和初期 1920年代
色絵染付 四弁花模様ペンダントヘッド 1個 昭和13年(1938)

いずれもみんなキュートで、とても欲しくなる。
富本憲吉の拵える文様は実に多様。そして染付にしたり色絵にしたり線彫りにしたりと表現方法も様々。
ここにある作品の内からちょっとピックアップしてみる。

安堵村模様、草の葉模様、野葡萄模様、辻堂模様、祖師谷切通模様、筒花生に梔子模様、詩句野葡萄模様、柘榴模様、唐黍模様、沢薊模様、赤更紗模様、下り梅模様、芦の芽模様、竹林月夜模様、蓼模様、円窓梅花模様、風花雪月字模様
・・・・・・・・・
無限に文様が生まれてゆくようだった。

この画像の作品は展示はないが富本憲吉の拵えた愛らしいものがどういったものかよくわかると思う。

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〔資料類〕
葡萄図メニュー1面 大正3年(1914) 尾竹一枝との結婚の披露宴を上野の精養軒で行ったが、その時の晩餐のメニュー表である。文字自体は仲間のバーナード・リーチが書いている。フランス料理である。
最初の結婚相手の尾竹一枝は非常に面白い女性だが、ここでは措く。

船図 1面 大正7年(1918) かつて大阪にあった古書店「柳屋書店」のマークとして長く使われたそうだ。円に船が描かれている。

タイルの装飾図案(四弁花・木瓜模様) 1面 大正時代後期〔1920年前後〕 呉須などもある。様々な表現が魅力的。

机の縁装飾図案(葡萄唐草模様) 1面 大正時代後期〔1920年前後〕 イスラム風な感じ。
青で描いている。しかし鉄砂で、とも。

草花模様図 1面 昭和9年(1934)箱貼紙  歌人・今井邦子の帯。シンプルでいいな。

やっぱり鍾愛できるものが好きだと思った。いいものを見たなあ。

大阪市立美術館のコレクションは大阪市民の寄贈品が巨大な基礎となっている。
寄託品も多いし、予算が下りて購入したものもあるが、やはり市民からの寄贈品を無視することなど絶対に不可能である。
そんなことを知らない連中が政権を取ったあと、大阪から文化を駆逐しようとしたので、わたしはいまだに憤っている。

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