くりぃーむソ~ダ

気まぐれな日記だよ。

肉片(ミンチ)な彼女(34)

2016-12-07 21:23:46 | 「肉片(ミンチ)な彼...
「――気に入ったのがあれば、ひとつサービスするけど」
 ミーナが言うと、叶方が「えっ」と顔を上げた。
「そのかわり、学校のみんなにも宣伝してね」
 綺麗な目をしていた。キリマになにかをした悪人には見えなかった。自分とそれほど年齢の離れていない、どこにでもいる学生のようだった。
 ただ、強い空気の淀みを、肩から提げているバッグの中から感じていた。
「なにが入っているの」
 と、指をさしたミーナを見て、叶方が眉をひそめた。
「大事なものですよ」
「――」ミーナは、笑顔を浮かべたまま、小さくうなずいた。そして、自分が勘違いをしていたことに、改めて気づかされた。

 考えていたことは、とっくに見透かされていたのだろうか。

 ミーナは一人、星空が明るい中を隠れ家に向かっていた。いつもよりゆっくりと歩くその後ろを、誰かがついてきているのがわかった。
 後をつけているのは、叶方だった。昼間アーケードにやって来たのと同じ、スウェットの上下を着ていた。肩に提げているバッグの中には、カリンカが隠れていた。カリンカは、わずかに開いた覆いの間から、暗い目をじっと覗かせていた。
 ミーナが見ていたのは、バッグの中に隠れている魔法使いが見た景色に違いなかった。いつも見上げるばかりで、すべての物が大きく見えていた。バッグの中に入れるほどの大きさであるなら、不思議ではなかった。子供達が魔法の練習に使うほど初歩の探索魔法は、モリルの体を探すためではなく、自分達を誰かに捜させるためのワナに違いなかった。
 二人の距離は、建物の陰に身を隠せば、すぐに見失ってしまうほど離れていた。ミーナはわざと、遠回りに隠れ家に向かっていた。学生は、ゾオンの人間ではなかった。彼が持っているバッグの中にこそ、キリマの行方を知っている魔法使いが隠れているはずだった。その力がどれほどか、見極める必要があった。
 アーケードで見た時は、自分達より強い魔力があるようには感じられなかった。どうやら、ゾオンから逃げてきた仲間達と同様、この世界に来て、魔力が失われているらしかった。
 叶方には、昼間にアクセサリーをひとつ、別れ際にプレゼントしていた。細いロープを結った簡単なブレスレットだった。
 しかしそれには、ミーナを追いかけるのに必要な魔力のかけらが、たっぷりと練りこまられていた。アーケードを立ち去るまで、どこかに隠れていたのだろうか。ミーナが動き始めたとたん、叶方が動き出すのが伝わってきた。
 ミーナが仕掛けたワナだった。ブレスレットを身につけて後を追いかけてくれば、その魔力が、ミーナにも伝えられるようになっていた。だがそんなことは、追いかけてくる魔法使いも、計算ずくに違いなかった。
 相手の正体を知ろうとしたワナが、たとえ見透かされていたとしても、ミーナは仲間達のため、モリルのためにも戦わなければならなかった。覚悟を、決めていた。

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