6
サトルが目を覚ますと、そこは自分の部屋だった。
淡いカーテンを透して、晴れ渡った空にたっぷりと溢れるまぶしい光が、部屋をうっすらと彩り、夜の間だけ真っ暗闇に失っていた色を清々しく甦らせていた。
眠い目をこすりながら、体を起こした。カーペットの上には、ランドセルが口を開けたまま投げ出され、乱暴に積み上げられた教科書と、お気に入りのキャラクターのシ-ルが貼られた筆箱が、その横に置かれていた。
パジャマに着替えた時、机の椅子の後ろで脱いだ服も、そのままカーペットの上に落ちていた。部屋のドアに顔を向けると、すぐ横の壁に口を開けていた大きな穴は、影も形もなくなっていた。そのまま後ろを振り返って見ると、ベッドの頭の方の壁に口を開けていた穴も、跡形もなく消えてしまっていた。
「変な夢だったな――」と、サトルは大きなあくびをしながら言った。
ホゥーホゥー……
フクロウの目覚まし時計が、ジリッジリッという鈍い機械音に体を震わせながら、本物そっくりの鳴き声で、サトルに朝が来たことを知らせた。いつもなら、フクロウの鳴き声で目を覚ましても、ベッドからどうしても起き上がることができず、学校に行く時間が刻々と迫っても、毛布の中にいつまでも頭を潜らせて、ぐずぐずと寝過ごしていた。業を煮やした母親が、「早く起きなさい!」と鬼のような形相で、耳が痛くなるほど「だらしがない」と小言を繰り返しながら、サトルを叩き起こしに来ることも、めずらしくなかった。
しかし、今日はなぜかスッキリと、目覚まし時計が鳴るよりも早く目を覚まして、母親の手をわずらわせることなく、一人で起きることができた。ムフフ……と、母親の鼻をあかしたような気がして、妙にうれしくなった。夢だったかもしれないが、ドリーブランドで経験した冒険のことが、なんだか人に自慢したいほど、得意に思えた。
ベッドに腰を下ろしたまま、ぼんやりと、いつまでも夢の世界に思いを馳せている暇はなかった。現実の時計の針は、気がつかないうちにどんどん進んでいった。いつものあわただしい朝と、ほとんど変わらない時刻になろうとしていた。サトルは急いでベッドから降りると、クローゼットの引き出しを開け、目についた服に手を伸ばすと、素早く着替えを済ませて、駆け足で階段を降りて行った。
朝は、いつも髪がぼさぼさのまま、不機嫌に台所に立っている母親が、
「おはよう、今日は早いのね――」
と、今朝はいつになく上機嫌で、包丁を振るう手を休め、にっこりと笑顔で振り返った。
「おはよう……」と、サトルは戸惑ったように挨拶を返すと、テーブルの自分の席に腰を下ろした。
てきぱきと動く母親は、化粧こそしてはいないものの、髪もすっかりとかした後で、すぐにでも外に出かけられほど、しっかりと身支度を調えていた。サトルは冷蔵庫に目を向けて、マグネットで扉に留められているカレンダーを見た。日付を目で追って、今日の曜日を確かめた。平日に間違いなかった。めずらしくパートの仕事に早くから出かけるのか、それとも仕事を休んでどこかに行く予定だったのか、母親からそんな話しを聞いた記憶は、ひとつもなかった。ほかになにか忘れていることはないか、思い出そうと、うんと頭をひねって考えた。
サトルが目を覚ますと、そこは自分の部屋だった。
淡いカーテンを透して、晴れ渡った空にたっぷりと溢れるまぶしい光が、部屋をうっすらと彩り、夜の間だけ真っ暗闇に失っていた色を清々しく甦らせていた。
眠い目をこすりながら、体を起こした。カーペットの上には、ランドセルが口を開けたまま投げ出され、乱暴に積み上げられた教科書と、お気に入りのキャラクターのシ-ルが貼られた筆箱が、その横に置かれていた。
パジャマに着替えた時、机の椅子の後ろで脱いだ服も、そのままカーペットの上に落ちていた。部屋のドアに顔を向けると、すぐ横の壁に口を開けていた大きな穴は、影も形もなくなっていた。そのまま後ろを振り返って見ると、ベッドの頭の方の壁に口を開けていた穴も、跡形もなく消えてしまっていた。
「変な夢だったな――」と、サトルは大きなあくびをしながら言った。
ホゥーホゥー……
フクロウの目覚まし時計が、ジリッジリッという鈍い機械音に体を震わせながら、本物そっくりの鳴き声で、サトルに朝が来たことを知らせた。いつもなら、フクロウの鳴き声で目を覚ましても、ベッドからどうしても起き上がることができず、学校に行く時間が刻々と迫っても、毛布の中にいつまでも頭を潜らせて、ぐずぐずと寝過ごしていた。業を煮やした母親が、「早く起きなさい!」と鬼のような形相で、耳が痛くなるほど「だらしがない」と小言を繰り返しながら、サトルを叩き起こしに来ることも、めずらしくなかった。
しかし、今日はなぜかスッキリと、目覚まし時計が鳴るよりも早く目を覚まして、母親の手をわずらわせることなく、一人で起きることができた。ムフフ……と、母親の鼻をあかしたような気がして、妙にうれしくなった。夢だったかもしれないが、ドリーブランドで経験した冒険のことが、なんだか人に自慢したいほど、得意に思えた。
ベッドに腰を下ろしたまま、ぼんやりと、いつまでも夢の世界に思いを馳せている暇はなかった。現実の時計の針は、気がつかないうちにどんどん進んでいった。いつものあわただしい朝と、ほとんど変わらない時刻になろうとしていた。サトルは急いでベッドから降りると、クローゼットの引き出しを開け、目についた服に手を伸ばすと、素早く着替えを済ませて、駆け足で階段を降りて行った。
朝は、いつも髪がぼさぼさのまま、不機嫌に台所に立っている母親が、
「おはよう、今日は早いのね――」
と、今朝はいつになく上機嫌で、包丁を振るう手を休め、にっこりと笑顔で振り返った。
「おはよう……」と、サトルは戸惑ったように挨拶を返すと、テーブルの自分の席に腰を下ろした。
てきぱきと動く母親は、化粧こそしてはいないものの、髪もすっかりとかした後で、すぐにでも外に出かけられほど、しっかりと身支度を調えていた。サトルは冷蔵庫に目を向けて、マグネットで扉に留められているカレンダーを見た。日付を目で追って、今日の曜日を確かめた。平日に間違いなかった。めずらしくパートの仕事に早くから出かけるのか、それとも仕事を休んでどこかに行く予定だったのか、母親からそんな話しを聞いた記憶は、ひとつもなかった。ほかになにか忘れていることはないか、思い出そうと、うんと頭をひねって考えた。