ミュンヘンなんて、どこ吹く風

ミュンヘン工科大留学、ロンドンの設計事務所HCLA勤務を経て
群馬で建築設計に携わりつつ、京都で研究に励む日々の記録

久しぶりの新入生気分

2005-10-18 06:56:51 | ミュンヘン・TUM
"The Post" which will decide my destiny!

今日はデザインスタジオのガイダンスがある日。
つまり今日からTUMの正規の講義日程が始まるのである。指定された教室に行くとまだ前のガイダンスが終わっていない様子。廊下でしばらく待っていると、「Are you AUSMIP students?」「あ、トーマスや!」「え、トーマス?」去年のAUSMIPで日本に来ていたトーマス・ミュラーだった。僕は彼のことはよく知らないけれど、千葉大のかいくんはよく知っている様子。幸運にも、心強い味方を得た(だってガイダンスって言っても全部ドイツ語だからさ…)。彼によれば、デザインスタジオは大きく分けてデザイン・コンストラクション・アーバンプランニングの三つに分けられるらしい(明記はしていない)。僕らが狙っているトーマス・ヘルツォークとリチャード・ホールデンはどちらもコンストラクションに分類されるようだ(ということはデザインって何だろう?)。でも最大の問題は僕らは1セメスター(1学期)しかミュンヘンにいられないこと。魅力的なスタジオはどれも2セメスターの継続履修を前提としている。1セメスターのスタジオの中では、昨日かいくんがリサーチした感じではカウフマンという先生のスタジオがよさそうらしい。カウフマンのスタジオもコンストラクションらしい。せっかくヨーロッパに来たのだから、コンストラクションのスタジオを取ってみたい。
人の波にのって教室に入ろうとすると、すでに一階席は満席。トーマスの友達二人と一緒に二階席に上る。すごい角度なんですけど!高所恐怖症の僕はちょっと怖い。ざわざわとしていた教室がやがて静まり、高校の理科の先生(仮に二人いたとしたら生徒に人気のある方)といった感じの人のよさそうな人が出てきて、なにやら説明し始めた。TUMの建築学科全体の説明をまずしているらしい。たぶん教務課の人なんだろうなあと思ってみていると、隣でかいくんがぼそりと「あれ、トーマス・ヘルツォークやんな…?」「(なに!)」慌てて隣に座っていたトーマスの友達に質問する。「あれ、誰ですか?」「彼はアカウンタントだよ」「(ああ、やっぱりただのアカウンタント=会計係なんだ)」「つまり…、この人だよ」そう言って彼が指差したのは、僕が持っていたデザインスタジオの資料に書かれた「Prof.Herzog」の文字。やっぱり彼がヘルツォークなのか…!「彼はアカウント=最重要人物だよ」って言ってたらしい。「渋いエリック・クラプトンをさらに濃縮した感じの人」と聞いていたので、もっと険しい顔つきをしているのかと思った。少し安心。

拍手と共に学長ヘルツォークの話が終わり各デザインスタジオの説明に移る。

まずは元気な司書さんといった感じの凛々しい女性が壇上に上る。
再び隣の席に「彼女は誰ですか?」と聞くと、彼が指差したのはProf.Wolfrum。パワーポイントが起動し、黒バックのシャープなプレゼンテーションが始まる。でも、かっこいいプレゼンだったけれど、スタジオで何をやるのかはよくわからず。タイトルは「ミュンヘンの憂うつ」(冴えてる)だし、バックミンスター・フラーとかピーター・クックとかプレゼン中に出てくる登場人物も気になる人ばかりだし、「アーバン・ラディカリズム」という副題も興味をそそられる。研修旅行も楽しそう。でも、でも…。ミュンヘンで求めているものと何かが違う気がした。つまりこのスタジオはたぶん都市計画なのだと思う。

次に壇上に上がったのは往年のロックスターといった感じの先生。
白髪のアフロにギターが似合いそうである。しかしメガネをかけると顔つきは一変。中世の天文学者にしか見えなくなった。彼のスタジオは非常にオーソドックス。ミュンヘン近郊で現地見学会(二泊三日)もあるらしいが、あまり興味はそそられず。

三番目に壇上に上がったのは眼光の鋭い“ふくろうおじさん”。
ロペス・コテロという名前からしてスペイン人らしい。彼のスタジオもとてもオーソドックス。「水辺のゲストハウス」と「ホームレスのための家」。ミュンヘンについて深く知るためにはよいかもしれないけれど、どちらもあまり興味はそそられず。

四番目に壇上に上がったのはProf.Krau。
難民キャンプの惨状を報告する国連職員といった感じの女性(もちろん勝手なイメージですよ!)。彼女のスタジオは「シャイド広場のタウンハウス」と「ブルサ(トルコ)の広場」。トルコを舞台にしたスタジオは一週間の研修旅行には惹かれるけれど、「ミュンヘンに来てブルサなのかなあ…?」という疑問も生じた。きっとドイツ人向け(“外国に行く”という意味で)のスタジオなのだろう。心は惹かれず。

五番目に壇上に上がったのはProf.Kaufmann。
SFに出てくる科学者みたいな人。僕もかいくんも気になっていた先生なので集中して聞こうと身構えていると、「私のスタジオはStudentenwohnheimとReithalleです。以上!」見たいな感じであっという間に壇から降りてしまった。会場からは拍手と歓声。おいおい…。「短すぎる!」と隣に訴えると、肩をすくめて「短いね」。そういうキャラの先生らしい。でもこれじゃ選べないなあ。

次に壇上に上ったのはリチャード・ホールデン。
はじめに「私は英語でやります」と断って、最後まで英語でプレゼンをやり通した。彼のスタジオは「ヨーロピアン・コンセプト・ハウス」と「イベントセンター・シルバプラーナ」の二つ。どちらも他大とのコラボレーションで、前者はオランダのデルフト工科大学(Prof.mick eekhout)、後者はスイスの大学との共同スタジオらしい。それだけでも心そそられる。「イベントセンター」の方は、スイスの気候にあったサマースポーツやウィンタースポーツのための施設を計画するらしい。心惹かれるが、15人という人数制限と、わざわざプレゼンの途中で織り込まれた「2セメスターにわたって行う」という念押しがネックである。一方の「ハウス」は、とにかくプレゼンが魅力的だった(僕、ホールデンに心奪われすぎかな?)。「e-ch」という略称もかっこいいし、VWやBMWの燃費の話から始まるのも彼らしい。この車は1リットルで何キロメートル走れるか、この飛行機は3リットルで何キロメートル飛べるかといった話で始まり、最後は坂茂とフューチャーシステムズで締めくくった。さすが「ドアノブから飛行場まで」を守備範囲とするホールデンだ。このスタジオを取らなければきっと後悔するだろう、どんな人がこのスタジオを履修しどんな作品が提出されるのか、それを見届けるために自分はミュンヘンに来たのだ。そう思った。しかもそこに自分も履修者として参加できるのだ!!!

それ以降もメモしながら聞いていたけれど、正直言って心ここにあらず。
Prof.Herzogは「ローマのエネルギーミュージアム」、Prof.Fink(二枚目の敵役。でも最後は主人公に負ける)はペントハウス、Prof.Ebner(バーでウィスキーを飲むジゴロ)は計画学的な課題、Prof.Deubzer(女史って言葉が似合いそう)はよくわからないプレゼン。Prof.Finkのペントハウスは面白そうだったけど、ホールデンのようにゾクゾクはしなかった。

教室を出たところで、もう一人の日本人に出会う。
彼女は東工大の塚本研から留学してきているらしい。まだどのスタジオにするか決めかねているようだった。さらにニコラス・ドブマイヤーにも出会う。彼になんばせんせいがよろしくと言っていたことを伝えるとうれしそうだった。実は彼にはメールを送ってあったのだが、あて先不明で戻ってきてしまっていたのである(クラウディアやトーマスも同じことを言っていた。TUMではアドレスが半年でリセットされてしまうらしい。不便だ)。「正しいアドレスを教えて」とお願いすると、見覚えのあるアドレスを教えてくれた。う~む、もう一度送ってみるか。

トーマスに付き添ってもらってホールデンの研究室へ。
ドキドキしながら向かったが、ホールデンは外出中。ロンドンのフォスター事務所を思わせる静謐な空間。並んでいる模型もフォスターそのもの。スケッチも似ている(特に太陽の描き方が)。1セメスターでも履修できるかをトーマスがアシスタントに聞いてくれた。トーマスが僕らに向かってグッと親指を立てる。やった!

用紙に必要事項を記入して、専用の“ポスト”に投函。
勢い余って、記入に使っていたペンまで投函してしまった(まあいいか!)。明日は同じこの場所に履修者の名簿が張り出されるそうだ。ホールデンのスタジオは留学生が優先的に配属されるようになっているらしく、「絶対大丈夫だと思うよ。心配しないで」とトーマスは言ってくれた。

トーマスは今も日本語講座を続けてとっているらしい。
今日はそのインフォメーションがある日だと言うので僕らもついていく。日本語教室の戸島先生とはすでに僕らも面識があるのだ。戸島先生から「外国語としてのドイツ語講座」があることを教えてもらう。初級者向けもあるようなので(しかもタダ!)ぜひ履修したい旨伝えると、こちらも今日の夕方からガイダンス(履修登録)らしい。今日はなんだかツイている。

トーマスと一緒に昼食をとってから、大学の周りを紹介してもらう。
まずは地下にあるコンピュータールーム。ここでコンピューター端末もコピー機も使えるようだ。プリンタはA1サイズも印刷可能。そして24時間使える。ただし使うためにはアカウントが必要らしく、アシスタントの人がその手続きを手伝ってくれた。
次に文房具店(画材屋)。日本だと建築模型といえば基本的にはスチレンボードであるが、こっちではそうでもないようだ。大学内では木の板でつくった模型をよく観るし、ホールデンは白いプラスチックでつくった模型を好むらしい。日本では見たことのない模型材料に心が躍る。わあ、これどうやって使えるだろう!

大学に戻り、ドイツ語講座に参加。
なかなか先生が来なくて、ようやく来たと思ったら「今日は試験だけをします」。僕のようなまったくの初心者は試験は免除。かいくんは経験者なので試験を受けて「アドバンスト・ビギナー・コース」を勧められていた。僕は「トータリー・ビギナー・コース」。毎週二回夕方からなら通えそうである。隣に座ったイタリア人青年も建築学科で、やはりホールデンのスタジオを選んだらしい。ホールデンスタジオは留学生の受け皿になっているのだ。

ニコラスが誘ってくれた「留学生歓迎パーティ」は八時から。
まだ時間があるのでトーマスに連れられて“始業式”を見に行く。ヘルツォークの挨拶に続いてさまざまなステージパフォーマンスが始まる。漫談あり、ライブ演奏あり、ダンスあり。日本の感覚でいう始業式とはだいぶ違う。最後には全員にビールとプレッツェルが振る舞われた。押し合いへし合いなんとかビールをゲットして、三人で乾杯。殺到する学生によって何百本というビールがあっという間にはけてしまった。ミュンヘン工科大学には、ドイツにも二つしかないという醸造工学部があるらしい。だから始業式でビールが振る舞われるんだよ、とトーマスは言っていたけど、そこかしこでスマートな女の子たちがプレッツェル片手にビールの大瓶をラッパ飲みしている光景はカルチャーショックだった。壇上ではビールの大樽が登場し、マイジョッキ(おそらく)を持った人たちが次々とビールを注いでいた。ミュンヘンは本当にとことんビールが好きな街なのだとあらためて思った。

そのまま三人で留学生歓迎パーティへ。
ここでもソーセージをつまみにビール、ビール。終盤は自然とアジア出身学生の輪ができて、話が弾んだ。中国人もシンガポール人もベトナム人も、ここミュンヘンで出会うと“外国人”という気がしない。大きくひとくくりで“アジア人”という連帯意識が生まれているように感じた。「同じ寮だよね。君見たことあるもの。これからもよろしくね」とか「今度一緒にビアホールで飲もうよ!」とか「僕の夢はいつか東京を旅行することなんだ。そのときは案内してよ」とか。
“外国人意識”ってやつは、きっと相対的なものなのだろうな。ここ最近、英語でさえ外国語に感じられなくなってきているもの。英語表記を見るとつい安心してしまう自分がいる。


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