はしだてあゆみのぼやき

シナリオや小説を書いてる橋立鮎美が、書けない時のストレスを書きなぐる場所

いち原作ファンとして映画版『この世界の片隅に』の見過ごせない改変について その1

2017年03月20日 | Weblog
1.導入

 さて、いきなり反感を買いそうなテーマを掲げましたが、どこから語ればいいでしょうか。
 原作漫画と映画版の違いをネチネチとあげつらって解釈していく予定なので、基本ネタバレ上等のスタンスで語っていくつもりです。未読・未見の方はご注意ください。

 まずは、この問題に対する私の基本的な立場を明らかにしておきましょう。
 私は古いこうの史代ファンでした。『夕凪の街・桜の国』でブレイクする以前から注目をしていて、具体的には2001年の夏コミで『こっこさん』の同人誌版を購入して以来のファンです。以来、主にコミティアでサークル“の乃野屋”の新刊チェックをするようになりました。その頃に入手した同人誌版『夕凪の街』や『ぴっぴら帳・完結編』のサイン本は今でも宝物です。即売会にはすっかり足を運ばなくなりましたが、今でもこうの史代氏の商業新刊が出ると購入するくらいには好きではあります。

 一方、片渕須直監督にも恨みはありませんでした。
 むしろ『アリーテ姫』は好きな作品です。映画版『この世界の片隅に』(以下、映画版と略します)でも評価されている考証の手間のかけ方といい、理詰めの展開といい、今でもいい映画だと思っています。『BLACK LAGOON』のようなミリタリ趣味を題材とした作品も、娯楽作品として楽しんでいました。
 ただし、映画版のクラウドファウンディングには“嫌な予感”がして、迷った末に不参加を決めました。片渕監督のミリタリ趣味に沿って原作を切り取ったら、原作の良さが毀損されるのでは……と、恐れてのことです。
 予感が的中した今となっては、当時の判断を褒めてやりたい気分です。

 私が原作の良さ、漫画『この世界の片隅に』を読む醍醐味や「他の作品では味わえないユニークな面白さ」と考えているのは、朝日遊郭のリンやテルとの交流の部分です。戦前、戦中の遊郭を内部の芸妓の視点で描いた作品や、逆に外部の客(軍人)の視点から描写した作品は珍しくないと思うのですが、当時の庶民の(中ではかなり恵まれた)女性の視点から見た作品に出会ったのは初めてでした。もし、そういう視点の作品が他にあるなら知りたいと思います。
 そこで描かれているすずとリンたちとの価値観の相違や衝突こそが、原作漫画の特有の価値であり面白さだと思い、高く評価していました。だからこそ、私にとって肝心な遊郭周りの描写をごっそりカットした映画版には辛口です。

 また、原作漫画は主人公すずの“絵描き”としての半生をも描いた作品なのですが、映画版の絵描きとしてのすずの解釈には色々と納得いかない点があり、そこにも不満を感じています。

 このようなスタンスで、私が映画版に感じている不満を書き記していきたいと思います。
 私の視点や指摘が独自性の高いものだとも思っていません。これから私が指摘していく内容の大半は、同じような意見をネット上で見かけたことがあるものです。そうした映画版への違和感、不満点を記すと、しばしば映画版の熱心な支持者に批難されているのを見るにつけ、賛同しているこうの史代ファンもここにいるのだと書いておきたくなったのです。