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小日向文世・その2・ママ友に混ざってオジサン一人

小日向文世

その2

ママ友に混じってオジサン一人

 入ったのは、演出家の串田和美(くしだかずよし)さん率いる『オンシアター自由劇場』という劇団です。看板女優は吉田日出子さん、先輩俳優には笹野高史さんが居ました。とにかくこの三人がおっかなくてね。怒鳴られ、責められ徹底的に鍛えられました。

しかし、かれらが作るエネルギッシュで型破りな舞台は、刺激的で面白かった。夢中で背中を追ううちに、僕もすっかり芝居の世界にのめり込んでいきました。

 おかしなものですね.自分を主張したかった割には、もともと人目に出るのは苦手です。今でも飲み会なんかで「何か面白いことをやれよ」なんて言われても絶対無理(笑)。

劇団に入る前、一時中村雅俊さんの付き人をやっていたのですが、僕を見て、中村さんは思われていたそうです。「小日向は役者には向いていないな」って。

 でも“演ずる”ということは、自分以外の何者かになることです。

自分じゃないと思うから、こんな僕でも大胆になれるんですね。

今年やらせていただいたNHKの大河ドラマ『真田丸』の秀吉にしても、かつらをかぶり、衣装を身に着けることで、自分とは全く別の人物が出来上がってくる。だから演じていて自分でも新鮮で面白いんです。

 劇団時代から今に至るまで一度も役者をやめようとは思わなかったのは、常にそんなワクワク感があったからですね。

劇団が解散したのは、僕が四十二歳の時でした。入ったの

が二十三歳ですから、十九年間、どっぷり演劇に浸かっていたことになります。解散を機に、これからは、映像の世界に場を広げていこうと張り切りました。

四十過ぎて新しいチャレンジです。

ところがいくら待っても仕事が殆ど来ないんです。

 その三年前に結婚したばかりで、子供も二人居た。それなのに、貯金はゼロだし、収入のあてもない。いい年をした男が、とんでもないでしょう(笑)。

 事務所に前借してはポツンと仕事が入ったら何とか返して、また前借り。その繰り返しです。だけど焦りや不安はあまりなかったですね。

 毎日朝から子供の手を引き、近所の公園へ遊びに行った。ママ友に混ざって、オジサン一人。普通のお父さんなら『恥ずかしい』とか『情けない』と思うかもしれません。

でも僕の場合、「可愛い盛りにいっしょに過ごせてラッキー」なんて内心喜んでいた。それくらい、どこかノホホンとしていたんです。続く

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