吉岡昌俊「短歌の感想」

『現代の歌人140』(小高賢編著、新書館)などに掲載されている短歌を読んで感想を書く

それでも“今”に留まる

2016-10-14 01:13:24 | 日記
形なきもの吾を責(せ)む過去のかげ未来の影といふわかち無く
佐藤佐太郎『帰潮』

錯乱しているかのような、怖さを感じさせる歌だ。だが、このように短歌の定型に収めて端正に表現されると、どこか落ち着きのようなものも感じられる。狂気にかたむきながらも正気を保っている「吾」の意識や姿が、この歌から見えてくる。
「形なきもの」が歌になることで、形を与えられていると思う。より厳密に言えば、「形なきもの」と「吾」との関係性が言葉によって可視化されている。「形なきもの」は「過去のかげ」でも「未来の影」でもあるような、どちらとも区別できないようなものとして、それらが幾つも重なっているようなものとして、“今”にいる「吾」を苛んでいる。だが、まさにその“今”から、この歌は生まれている。“今”を生きることの痛みと、それでも「過去」や「未来」の「かげ(影)」に呑み込まれずに、ここにある“今”に留まって、向き合おうとする意思を、この歌は思わせる。
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