吉岡昌俊「短歌の感想」

『現代の歌人140』(小高賢編著、新書館)などに掲載されている短歌を読んで感想を書く

このかなしみとこの夜を

2017-07-08 03:04:05 | 日記
噴水は夜空をたかく持ち上げて明日あらばわがかなしみを消せ
江戸雪『Door』

夜空がたかく持ち上げられているというのはどういう情景なのか。普通に考えれば、夜空は夜空であって、もともとたかいところにある。噴水がそれを持ち上げているのだという認識は、錯覚や妄想のようなものだと思うが、この認識からは見ている人間の底から湧き上がってくるような力が感じられる。
噴水の力によって辛うじて落ちないでいる夜空は、絶望と希望のせめぎ合いの境界に存在するように見える。その下で発せられる「明日あらばわがかなしみを消せ」という叫びのような祈りのような言葉もそうだ。明日があるかどうかはわからないが、もしあるのなら・・・という仮定の上で、その明日に、自分のかなしみを消してほしいと願う。未来に自分の絶望の終りを託しているのだが、それは、たんなる他力本願とはちがう。来るかどうかわからない明日を待ちながら、その明日まで、わたしはこのかなしみとともにこの夜を生き延びてやる、とこの人は言っている。
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