備忘録として

タイトルのまま

白鯨

2016-04-16 15:51:03 | 映画

19世紀前半、大西洋でクジラを獲りつくしたアメリカの捕鯨船はクジラを追いかけ太平洋の西の果て日本近海まで活動範囲を広げていた。当時は産業革命により、ランプの燃料や機械の潤滑油、洗浄油、マーガリンなどに鯨油が使われ高価で取引されていた。黒船で来航したペリーも、捕鯨船の補給と漂流民の保護を求めて日本に開国を迫ったのである。ペリー来航が1853年、漁に出て遭難した土佐の中浜万次郎がアメリカの捕鯨船に救助されアメリカに渡ったのが1841年のことである。Wiki「捕鯨」によると、

19世紀中頃には最盛期を迎え、イギリス船などもあわせ太平洋で操業する捕鯨船の数は500~700隻に達し、アメリカ船だけでマッコウクジラとセミクジラ各5千頭、イギリス船などを合わせるとマッコウクジラ7千~1万頭を1年に捕獲していた。(中略) 捕鯨船の母港となったナンタケットニュー・ベッドフォードは大いに繁栄した。メルヴィルの『白鯨』は、この時期の捕鯨を描いたものである。

なんと年間7000~1万頭ものマッコウクジラ(Sperm Whale)を捕獲していたのである。そして悪名高い日本の捕鯨は1964年に最盛期を迎え「2万4000頭以上を殺した。そのほとんどが巨大なナガスクジラやマッコウクジラだった。」(BBC News Japan「日本とくじら なぜ日本は捕鯨をするのか」より)。同じ記事によると商業捕鯨は戦後の食糧難を解消するためにマッカーサーの指示もあって進められたという。小学校(1960年代)の給食には鯨肉が出てきた。教科書には捕鯨用銛の弾頭を平坦にし、弾道の直線性が飛躍的に改善されたという日本の捕鯨技術の高さを誇る話がのっていた。

BBCの記事は、現在国際的な批判を浴びながら税金で調査捕鯨を続けることに賛成する日本人はほとんどおらず、「捕鯨関係者が多い選挙区から選出された数人の国会議員と、予算を失いたくない数百人の官僚たちのせいと言えるかもしれないのだ。」と結ぶ。一方的な反捕鯨運動には違和感を覚えるが、ほとんどの人が必要ないと思っている行為が止められない日本の政治の指導力の欠如が情けない。シンガポール政府の政治判断の早さにいつも驚かされるので落胆は大きい。

4月の機中映画『In the Heart of Sea』は、ハーマン・メルヴィルが小説『白鯨 (原題;Moby Dick)』を書く際に取材した実話を映画化したものである。捕鯨船エセックス号の遭難から30年後に、ハーマン・メルヴィルはエセックス号の生き残りの船員を訪問し、航海で起こった事実を聞き出す。1820年エセックス号は、マサチューセッツの港町ナンタケットを出港しクジラを追いかけ、太平洋の奥深くで巨大なマッコークジラに統率されたクジラの群れに遭遇する。全長30mもの巨大クジラを捕獲しようとして逆に船は襲われ沈没し、乗組員は小さなボートで大海原に放り出される。遭難者は長い漂流で水と食料が欠乏し命を落とす者が出て、追いつめられ終にCannibalismに手を出してしまう。3か月の漂流の後、救助された生き残りはわずかになっていた。小説『白鯨』は、エセックス号の航海を参考にするが、内容は大きく変えていたのである。 

ポスターはIMDb、挿絵はWiki英語版『Moby Dick』より。

『Moby Dick 邦題:白鯨』1956、監督:ジョン・ヒューストン、出演:グレゴリー・ペック、リチャード・ベースハート、白鯨を執拗に追う船長の戦いを描く。Youtubeで観ることができる。最後の白鯨との戦いは、模型を使っていて陳腐に見えるが、中学か高校のときに観たときにはその迫力に驚いたことを思い出す。船長のエイハブが白鯨に銛を打込み、そのまま白鯨の体に巻き取られ、手招きする場面ははっきりと覚えていて今観ても印象的だった。映画に触発されて大学時代には原作を読んだ。今はなくなったがシンガポールのブキティマ道路沿いにオーキッドというホテルがあり、そこのコーヒーショップの名前がMoby Dickで内装に錨や舵が飾られていた。ホテルのオーナーが『白鯨』のファンだったのだろうか。★★★★☆

『In the Heart of Sea』2015、監督:ロン・ハワード、出演:クリス・ヘムスワース、シリアン・マーフィー、ブレンダン・グリースン、名家出身の船長と、庶民出身の一等航海士の確執と信頼、船員たちと巨大クジラとの戦いを描く。クジラと人間の戦いを中心に据え退屈はしなかったが、主人公たちや船乗りの人間の描き方が表面的で漂流中の驚きの真実だけではドラマ性にも欠けた。同じ漂流を描いた『Life of Pi』の方が感動的だった。フィクションと比較したり実話に感動を求めるべきではないのだろうけど。★★★☆☆

『The Revenant 邦題:蘇りし者』2015、監督:アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトウ、出演:レオナルド・ディカプリオ、トム・ハーディ、ディカプリオはこの映画で待望のオスカーを獲った。白鯨と同じ19世紀始めのアメリカ開拓時代を舞台とする。こっちも1823年の実話をもとにしている。漁師で案内人のヒュー・グラスは毛皮採取中にインディアンに襲われ仲間と逃げる途中、ヒグマに襲われ重傷を負う。仲間のフィッツジェラルドは足手まといのグラスを見捨てて行こうとするが、グラスの息子に止められ、グラスの目の前で息子を殺す。一命をとりとめたグラスは冬の荒野を生き抜き、復讐のためフィッツジェラルドを追う。白鯨のために片足を失ったエイハブ船長は白鯨を殺すことに執念を燃やし、グラスは息子の仇討に執念を燃やす。白鯨はクジラと太平洋の大海原が舞台で、こっちはヒグマとインディアンと西部の荒野や原生林を舞台にしている。冬の荒野を復讐のために生き抜くデカプリオは極限状態の人間を熱演し悪くはなかったが、ストーリーそのものは面白いとは思えなかった。★★★☆☆

『スペースボール』1987、監督:メル・ブルックス、出演:ジョン・キャンディー、リック・モラニス、ビル・プルマン、ダフネ・ズニガ、『Star Wars』のパロディーのどたばた喜劇。★★☆☆☆

『下町ロケット』2015、評判は聞いていたが3月~4月の機中ビデオで観た。阿部寛演じる下町工場の技術者・佃のプライドと品質に、同じような中小企業の技術者として共感し心から応援した。大企業や銀行とのやりとりや権威をかさにした物言いのシーンでは、自身の体験を思い出して”あるある!”、”むかつく!!”を心の中で連呼したが、最後は爽快だった。『半沢直樹』よりよかった。★★★★★


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