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DSGE(動学マクロ経済学)入門の入門 by 池田信夫

2009-03-20 09:39:09 | economics view
IS-LMとは別物の、またRBCとも違った新しいマクロ経済学の教科書的な説明をしておく。DSGEは動学モデルなので、最初から変分法とかオイラー方程式が出てきて、ほとんどの人はそこで挫折するだろう。しかしそれは本質的ではなく、ほとんどの結論は簡単な2期モデルで導ける。その点で、Goodfriendの解説論文は便利だ。結論だけ書く。まずcを消費、nを雇用、aを労働生産性とすると、

c  = a×n・・・(1) 
消費=労働生産性・雇用

したがってn=c/aとなる。
雇用 = 消費/労働生産性

ここで「wを賃金」とし、「μ=a/wを企業のマークアップ率(利潤率)」とすると、
マークアップ率(利潤率)=労働生産性/賃金

n=1/(1+μ)・・・(2)
雇用=1/(1+マークアップ率)
と書ける。

μが利潤最大化条件を満たすようなn*が自然失業率である。したがって、マークアップ(利潤率)が高いほど(すなわち労働生産性が高いほど、賃金原資が低く抑えられるほどマークアップ率がデカクなり)分母はデカくなるので雇用は減る。

また第i期の消費をci、所得をyi、労働生産性をai(i=1,2)、金利をrとする。
そして第1期の需要は第2期の所得からforward-lookingに決まるので、均衡条件は

c1=y2/(1+r)
である。→これはわかりやすい。
他方、成長率をg=(a2/a1)-1とすると、

y2=a1n+g*a1n
y2=(1+g)a1n

となる。→ [前提として y2=a1n+( a2n - a1n ) がある。]

これに前の2つの式を代入すると、

c1=(1+g)a1 * (1/(1+μ)) /(1+r)
c1(1+r)=(1+g)a1 /(1+μ)
c1(1+r) (1+μ)=(1+g)a1

(1+r) (1+μ) c1 = (1+g) a1
利子率・利潤率・消費 = 成長率・労働生産性

となる。ここで均衡を成立させるr*が自然利子率である。成長率gが上がると(他の条件を一定とすれば)r*も上がるので、インフレを防ぐために利上げが必要だ。
他方、成長率gは技術的に与えられたパラメータなので、利子率rによって変えることはできない。つまり「利子率」と「成長率」とは双方に独立に決まるのだ(IS-LMへの間接的な批判になる?)。
そして金利r を引き上げると、利潤率であるマークアップμが下がり、デフレになる。

このモデルで需要ショック⊿cが発生したとき、雇用nはどう決まるだろうか。ケインズ的モデルでは、(1)から⊿n=⊿c/aとなるから、需要が減ると雇用が減って失業が起こる。これに対してRBCモデルでは市場はつねにクリアされるので、雇用は賃金w=a/μで調整され、自然失業率(2)で決まる。ここでは雇用は、需要と無関係に、「マークアップの減少関数」として決まる。

DSGEでは、雇用は短期では需要(1)で決まるが、長期では自然失業率(2)で決まる。したがって金融政策は「短期の安定化政策には有効」だが、「自然失業率が実現すると、それ以上は効果がない」。つまり短期的な需要不足は金融政策で吸収できるが、それは長期(といっても数週間)では価格によって調整され、金融政策は実体経済に中立になるのだ。

ここで注意が必要なのは「通貨供給はモデルに入っていない」ことだ。これは、この簡単モデルだけでなく、WoodfordやGaliの動学モデルでも「通貨供給の変動は金利に反映される」ので、中央銀行の政策目標には入らない(これが世界の中央銀行の標準的な理解だ)。マクロ的な金融政策の有効性は、実質金利が自然利子率と均衡するまでの短期に限られ、日本のようにゼロ金利になると効果はない。また自然失業率が実現した後は、財政政策も意味がない。

「精神論かマクロ経済学か」という対立は誤りで、正しくは「成長率かマクロ政策」かというべきだ。現在の日本の不況は、外需によってかさ上げされていた成長率が突然下がった、RBC的な需要ショックと考えられる。こういうとき「金融緩和は調整をゆるやかにする意味はある」が、マクロ政策は短期の政策なので、「低下した成長率を上げることはできない」。現在の状況は(日本経済の悪い実態を反映した)自然率に近いので、あとは「労働生産性を引き上げて成長率を高めるしかない」。それは精神論ではなく、「正社員のクビを切れる改革」やイノベーションを高めるための資本市場改革である。


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