スウェーデンの今
スウェーデンに11年暮らし、現在は博士課程に在籍している筆者がみるスウェーデン社会・経済・政治の今。
Smått och gott från Sverige
 



バルト三国では現在、中古の高級車がたくさん売りに出されているという。バブル好況をいいことに、若者までもが高額の銀行ローンを組んで「豊かさ」を手にした。彼らより一つ前の世代にとっては想像もできなかった「豊かさ」だった。そんな贅沢品も、バブルが弾けたあとは、ローンの返済が不能になり、銀行に差し押さえられてしまったのだ。しかし、高級中古車を欲しがる人がいないため、銀行はお金に換えることができない。だから、例えばラトヴィアの首都リガ郊外の駐車場には数百台にのぼる高級車が放置され、周りに有刺鉄線が張り巡らされている。


同じことが住宅市場でも言える。バブル時に投機目的で購入された高級マンションが銀行に差し押さえられたものの、新たな買い手がいないため、入居者なしの状態で放置されている。銀行の手元にはそんな空室マンションの鍵ばかりが増えていく。それだけでなく、バブル時に着工されたものの、完成を待たず放棄されてしまった高級マンション建設プロジェクトがいくつもある。

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バルト三国の中でもバブル破裂の影響を一番大きく受けていたのはラトヴィアだった。2008年の第3四半期の経済成長は−5.2%、第4四半期が−10.3%だ(前年同四半期比)。2009年は経済が何と18%も落ち込むと見られている。経済の落ち込み方だけを見ればエストニアやリトアニアも似たようなものだが、バブル好況時の銀行の貸出額は人口比で見るとラトヴィアが最も多く、ラトヴィア人は他の二国の人々以上の債務を抱えることになった。

ちなみに2008年秋といえば、金融バブルが弾けて窮地に陥っていた国がバルト三国の他にもあった。アイスランドだ。アイスランドでは、バブル時に金融機関が国のGDPの何倍もの額のお金を貸し出し、小国に過ぎないアイスランドの経済を一時的に膨張させていたが、バブルが弾けて多額の債務を抱えることになったのだ。

その結果、アイスランドの通貨は暴落することになった。そもそも為替レートは、様々な要因によって決まるが、やはりその国の経済力が大きく反映される。だから、その時点での為替相場が経済力に見合わないものであれば通貨が下落することになる。しかし、そのことによって、その国の生産・労働コストが下落し国際競争力が増すため、輸出産業が潤い、景気回復を助けることになる。そのため、変動相場制のもとでの為替レートは、景気の調整弁の役割を果たしていると言える(実際、アイスランドでは通貨暴落後、国内の観光産業IT・プログラミング産業が潤っている)。

だから、ラトヴィアも本来ならバブル崩壊に伴って通貨が暴落したはずであった。しかし、ユーロと固定相場(ペグ制)を維持していたため、市場で自動的にレートが下落することはなかった。その代わり、政治的に為替レートを切り下げるかどうかが議論の的となり、意見は大きく分かれることとなったのである。

通貨を切り下げる、ということは、これまで維持してきたユーロとの固定相場制を放棄することを意味した。そもそも固定相場制を導入したのは、近い将来ユーロに加盟するための準備であったから、これを放棄すればユーロ加盟も諦めなければならない

他方で、為替レートを切り下げれば、すでに触れたように国際競争力が増し、外国相手の産業にとって有利になるため、景気の回復が早まることになる(そもそもバブル膨張の段階において、固定相場制のために国際競争力が大きく低下していたことを思い出して欲しい)。


では、スウェーデン系の銀行にとって、為替レートの切り下げは何を意味したのだろうか?

実は、ラトヴィアを含めたバルト三国での貸し出しの大部分がユーロ建てであった(ラトヴィアの場合89%)。そのため、もしレートが切り下げられれば、現地通貨に換算した債務額は大きく膨張することになる。同じ1ユーロを返済するにも、より多くの現地通貨が必要になるからだ。だから、返済不能に陥る人がさらに増え、スウェーデン系銀行の不良債権もさらに大きく膨らむ恐れがあった。

一方、ラトヴィアの人にとっては、債務がさらに重くのしかかることになった。しかし、経済の景気回復が早くなり、雇用が再び増えるという利点を考えた場合、為替レートを切り下げたほうが長い目で見ればよかったと思える。たとえ、自己破産に陥ったとしても、家計にとっては債務をすべて帳消しにして一からやり直したほうが、多額の債務を今後数十年にわたって背負い続けるよりも、よかったかもしれない。

(注:私にとって不明な点は、資金がユーロで調達されたとはいえ、金融機関がラトヴィアの企業や個人に貸し出すときもユーロ建てだったのか、それとも現地通貨(ラッツ)建てだったのかという点だ。もしラッツ建てであったとすれば、個人・企業の債務は通貨切り下げによって影響を受けず、損をするのは金融機関だけということになる。いずれにしろ、スウェーデン系の金融機関にとって、債権のさらなる不良化は避けられなかった。

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90年代初め、スウェーデン経済は全く同じ状況にあった。
資産バブルが弾けた
・バブルを支えていた融資の多くは、スウェーデンの金融機関が外貨建てで調達したものだった
・ユーロの前身であるECU(エキュー)に参加し、固定相場制だった

スウェーデンは最初は固定相場制を維持しようとしたものの、結局1992年に変動相場制に移行し、その直後に通貨が40%近く暴落することになった。しかし、それが同時に輸出主導の景気回復の始まりとなり、既に1994年からプラスの経済成長を経験することになったのであった。

だから、スウェーデンの成功例を考えれば、ラトヴィアも通貨を切り下げるべきであったといえる。IMF(国際通貨基金)も切り下げを主張していた。

しかし、スウェーデン政府ラトヴィア政府に対して「切り下げだけはしないで欲しい」と働きかけたのである。切り下げによってスウェーデン系金融機関の抱える不良債権がさらに拡大すると経営破綻に陥る可能性があったため、スウェーデン経済を考えた場合、それだけは避けたかったからだ。(続く・・・)


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