スウェーデンの今
スウェーデンに13年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員。ヨーテボリ大学経済学部でも講師として勤務




日本とは違いヨーロッパでは国々が国境を接しているので、国境を越えた行き来や取引が、日本と海外の間以上に盛んだ。以前も書いたように、ヨーロッパの中でも物価が一番高いノルウェーの人々は、スウェーデンに車で乗り入れて、食品や、特に肉類、アルコール類を買いにやって来る。スウェーデンのとある国境の町には、その町の人口とは比較にならない大きなSystembolaget(スウェーデンの国営酒類流通店)があるし、スウェーデン北部の国境の村では、スーパーICAの客は村の住民よりもノルウェー人のほうが多い、なんて所もある。物価水準(強いノルウェー通貨も含めて)だけでなく、酒税もスウェーデンのほうが若干安いためだ。

逆にスウェーデン人はというと、お酒に関してはデンマークやドイツに行って買うのだ。2000年にスウェーデンとデンマーク間の橋が開通して以来、個人で持ち込まれる酒の量が急増している。デンマークには電車でも車でも買出しに行けるし、ドイツまで足を伸ばすことも比較的簡単(ただ、一般の食品類の買出しはあまり聞かない)。じゃあ、デンマーク人はというと、彼らはさらに安いドイツへ行って酒を買い、ドイツ人は東欧に行く、といった感じ。EU内での個人の持ち込みに対する数量制限は2004年に撤廃された。

お酒やタバコでなければ、自分でその国に直接行かずとも、通信販売によって別のヨーロッパ諸国から取り寄せることもできる。私がSonyのデジタル・カメラを買ったときもインターネット上でフランスの小売店から取り寄せたところ、送料を含めても、スウェーデンで買うより安く手に入れることができた。英語の専門書などは、最近ではスウェーデンのネット書店も品揃えがよく値段もあまり変わらないが、もちろんイギリスのAmazon.co.ukから注文をすることができる。

EUの域内市場なので関税はかからない。個人による使用・消費を目的とした購入であれば、税金(消費税を含む)はその商品が購入された国で払うことになっている。EU内では消費税の税率スウェーデン・デンマークの25%に対し、例えばドイツが16%、フランスが19.6%、イギリス17.5%なのでこの差がスウェーデンとの価格差をもたらす原因の一つでもある(このほかには、競争の度合いなども価格に影響を与える)。これに対し、アメリカのAmazon.comで本やCDを買おうものなら、多くの場合、スウェーデンで受け取りの際に、スウェーデン税関に関税を払わなければならない(私もある語学教材を買ったことがあるが、CD付だったのでかなり払わされ、大損をした)。
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さて、EUの域内市場が統合されて、こうして商品のやり取りが自由にできるようになった。じゃあ、アルコール類やタバコも、自分で買出しに行かずに、通信販売で取り寄せることができるのか・・・? この場合、酒税は消費税以上に国ごとで差があるから、酒税の安い国から取り寄せれば、かなりお得じゃないのか?

と、考えるほど甘くはない。アルコール類やタバコは特別扱いで他国からの取り寄せは禁止されている。というのも、,修譴召譴旅颪砲箸辰討麓鮴任筌織丱垣任和膸な収入源であるし、健康への配慮や年齢制限の厳守のために、国によっては流通を大きく制限している国もあるためだ。例えば、アルコールに関しては、スウェーデンでは国営流通店Systembolagetによって小売が一括制限されている(平日は18時まで、土曜は14時までしか買えない上に、20歳以上であることを示す身分証明書が必要)。だから、同じEU内だからといって、それぞれの国の政策や事情を無視して、自由に取引をすることは許されていない。

とはいっても、このアルコール流通の規制に対して、これまでいろいろな挑戦をする人が登場してきた。複数の個人からお酒の注文を受け付けて、デンマークやドイツに代わりに行って、大量のお酒を買い付けてスウェーデンへ戻り、売りさばく人もいた。この場合、捕まると「密輸罪」に問われる。法律で認められている持ち込みは、あくまでその個人の消費のためでなければならず、それで商売をしてはダメなのだ。

他の挑戦としては、ネット上に酒屋を設けて、注文した人にデンマークやドイツから宅配便で直送するというもの。これもスウェーデンの現行法では違法だ(国内の流通はSystembolagetの独占)。だから、ネット注文によって取り寄せられたお酒の多くがスウェーデンの税関で引っかかり、税関の倉庫に山積みにされている。

しかし、こちらのケースでは、ネット業者やその利用者によって裁判沙汰に持ち込まれているのだ。彼らの言い分はというと「通信販売の禁止は、EUの域内市場の原則である、商品とサービスの自由な取引、に反する」というものだ。食品や電化製品など、その他の商品が他のEU諸国で自由に注文できるのに、お酒でそれができないのはおかしい、というのだ。これは同時に、国営流通店Systembolagetによる現在の独占流通体制にも挑戦状を突きつけていることにもなる。ネット業者の中には、現行法では違法であるにもかかわらず、大々的な新聞広告を出して、大損覚悟の破格の値段で注文を集めて発送し、スウェーデン税関の倉庫を次々と満たしていく、という手に出ている業者もいるのだ。そんなにネット注文が増えていけば、スウェーデン政府もついには音を上げてアルコール流通の自由化に踏み切るだろう、と読んでいるのだ。

さて裁判に関してだが、スウェーデンはEU加盟国なので、EU裁判所の決定に従わなければならない。だから、スウェーデンの最高裁がどんな判断をしようが、EU裁判所がそれと異なる判断を下した場合には、そちらに従わないといけないのだ。だから、この件ではスウェーデンの最高裁ははじめからEU裁判所のほうに「さじを投げ」てしまい、彼らの判断を待ってから、それに順ずる形でスウェーデン最高裁としての判断を下す、という手に出た。さて、EU裁判所はどのような判断を下すのか・・・?

EU統合に関しては「加盟国それぞれの決定」と「EUの原則」とが、様々な分野で衝突することが多く、民主主義に反する、といった批判まで聞かれるくらいだが、この件についても同様の対立だと考えられている。(続く・・・)

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