陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。

神無月の巫女精察─かそけきロボット、愛に準ずべし─(十三)

2015-10-31 | 神無月の巫女感想・二次創作小説


そのあまりに女々しいともいえる千歌音に、ソウマの機体が乗っ取られたとき、なにが生じたでしょうか。他のオロチ神のどれよりも増して、禍々しく変化を遂げたあのタケノヤミカヅチのすがたは暗褐色。それは「この先たった独りで血の涙を流す闘いをはじめる千歌音の決意の色」とされています。

つまり、第八話を境にして、あのソウマロボは単なる武力の象徴、千歌音が辿りつけない障壁から脱し、「感情の共鳴器」としてのロボット、「仮面の装置」としてのロボットにみごとに飛躍してみせているのです。雄々しきヒロイズムアクションから、女性のたおやかさを表現せしめる、情動の体現としてのロボット。ロボットがこのような扱われ方をしたことがあったのかどうかはさだかではありませんが、雄叫びあげるではなく、忍び泣く涙を隠すことこそが、慎みある女の強さというのならば、冷血漢を装った千歌音はロボットを入手することで、その強さを獲得したのでしょう。いじましいほどに自分を苛んでも人を想うという強さを。

なぜならば、あの銀月の嵐の夜以降、千歌音の心情を語ってくれるものが側にいないからです。千歌音の人知れぬ恋に苦しむさまを代弁してくれた存在こそが、あの乙羽さんでした。第七話、千歌音の泣き濡れた顔を衆目にさらすまいと廊下を暗くした乙羽の気づかいを思い出してください。千歌音は自分の血塗られた決心をもろともに受けとめてくれる相手として、お側仕えの侍女を手放し、いわばこのロボットを従えたと言えるのです。八話でのロボットを仔犬をなつかせるよな愛しさで語りかける口調に、それが現れているではありませんか。

心理攻撃をしたあのシスターはソウマロボで残酷な仕留め方をしたのに、アメノムラクモに搭乗した姫子・ソウマに対してはろくすっぽ攻撃をしなかったところに、千歌音の本意がありますね。千歌音の目論見では、ロボットごともろともに破壊されたかったのかもしれない。つまり、千歌音がロボットを強奪したのは、自分の感情を葬る棺を用意したかったのかもしれないということ。自分の死に顔、泣き顔を大好きな姫子に見られたくないための器であり、仮面でもある。千歌音は、そのために、姫子に最後に素顔を見せるために、あえて剣の舞踏会前に姫宮邸に戻ってきたのでしょう。すでにオロチの脅威のとりのぞかれた安全なパーティーを、愛すべき人の誕生の祝いに、その最後のはなむけにプレゼントしたのです。

そう考えると、あの暗褐色化したソウマロボは、前世の月の巫女・千歌音がかぶっていた仮面に等しい、と考えてよいのかもしれませんね。千歌音がかぶっていたあの仮面、前世の陽の巫女である姫子が決心を鈍らせないようにわざとかぶらせた(儀式が満了するまでは外せないしかけになっているとか)のかもしれませんし、前世におけるオロチ封印の儀式のときも、合意のうえではなく、とても悔恨ののこるかたちで、ふたりは別れなければならなかったのかもしれませんね。

実はソウマロボが仮面の機能を果たしているという考えは、他ならぬ、ソウマ自身にも当てはめることができます。すこし話が逸脱しますが、私が子どものころのことです。あるトーク番組で大原麗子さんという有名女優に、司会者がこんな質問をします。覆面をして全裸で街を歩くのと、セーラームーンのコスプレをして歩くのとどっちがいい、と。一般人ならばおそらく後者ではないでしょうか。その質問があった当時はいまほど芸能界にアニメファンを自称する方がいない時代でした。アニメが実写のドラマや映画に劣る、そう考えられていた風潮を反映してか、大原さんは覆面してでも全裸のほうがいい、と豪語されたのです。カメラの前で惜しげもなく裸体を晒すことを厭わないプロにとって、脱ぐことは逆説的に自分をスターダムにのしあげるための鎧を身に着けることであるのです。しかし、自分の女優としての矜持にそぐわない衣装を身に纏うことは、自分のブランドを損なうことになりかねない。そんな信条があったのでしょう。

私がここで何を言いたいかといえば、この覆面をする、仮面を被るという効果、換言すれば肌に触れる世界を限ることによって、下界とのアクションの影響を遮ることによって、人を強靭にさせしめる強壮剤のようなものが、オロチ衆のロボットではなかったか、ということです。オロチ衆が絶大な悪の破壊力を持つことからしてそうでしたし。そもそも、ロボットとはあの巨大な頭部に自己を埋没させる行為なのです。ソウマはロボットに登場することによって、正義の仮面をかぶりつづけねばならない。それは彼を姫子を守っている唯一の騎士として自負を抱かせる。ところが、ロボットに乗ることによって、戦闘に夢中になることによって、恋愛の機微に麻痺をきたし、彼には姫子と千歌音のあいだで生じつつあった恋の萌芽から目を逸らしつづけていくことになるのです。第一話の勝利の快哉をあげるソウマロボの真下で姫子と千歌音のふたりが…という、あの衝撃的なシチュエーションがそのソウマの盲目性を物語っているといってもいいでしょう。そしてまた、そのソウマの盲目性(ソウマは千歌音の姫子に対する想いを知らなかったと思われるので)によって、姫子と千歌音も救われていたと見ることもできますよね。



神無月の巫女精察─かそけきロボット、愛に準ずべし─(目次)
アニメ「神無月の巫女」を、百合作品ではなく、あくまでロボット作品として考察してみよう、という企画。お蔵入りになった記事の在庫一掃セールです。

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