陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。

マルチ・キャリア考──あなたの仕事はいつまであるのか?

2017-11-14 | 仕事・雇用・会社・労働衛生

近頃、不安を煽るような記事にしていますが、ストレスのかかる方は読まないでくださいね。
リスクマネジメントは大事です、というお話です。

脱サラして起業したら成功しましたとか、ストレスフリーな生活でハッピーです、という本をよく見かけます。五年ぐらい前ですけれど、将来予測本で、2030年代には会社員がいなくっている、なんていう本も見かけましたね。会社員という身分そのものがはじまったのは、日本では明治大正時代あたりですが、雇用されて俸給をもらうという生活自体ならば古代の官僚からしてそうですよね。ちなみに、意外なことに、古代は女性官僚が多かったらしいですが、実家や配偶者の権力がモノを言っていたようです。

ところが、昨今は、会社に属しながら事業主になる人も増えています。
先日(2017年10月頃)、読売新聞の朝刊で、会社が就業規則を改正し、副業を許可する流れがあるとの新聞記事がありました。多くの企業が副業を禁止していたのは本業に支障があるため。これが解禁になった背景には、多様な職業経験を積む機会であるので推奨されている、また、労働者の賃金が上昇しづらい傾向もあります。大企業では事業が部門ごとに細分化されているので、人事異動はあるでしょうが、キャリアチェンジがしづらい状況もあります。あるIT企業では、率先して他社に派遣というかたちで社員に他業種の仕事を体験させたところ、離職率がかなり改善されたとのことです。

さて、その朝刊記事では、大手製薬会社正社員の男性が定時退社して、自宅近くでワインカフェを経営している例が紹介されていました。この男性は妻子を養う30代働き盛り、退職して自営業になるのは賢い選択ではないと判断。昼間はアルバイト店長に任せ、夕方から勤務。取引先が増えて月1ぐらいしか休めないし、仕入れや人件費を差し引けば利益はほとんど残らない状態。それでも満足しているようです。自分の牙城をもつというのが、趣味みたいなものなのでしょうね。

よく今の会社がつらいから、のんびり喫茶店でもやりたい、田舎で農業でもやりたい、という声を聞きます。女性ですとアロマテラピーとか、ネイリストを自宅で開業したい、と夢を語る。真面目に働いている人ほど、疲れているのですね。大企業や公務員でも生涯安定の職場とは言い切れませんし、他の仕事がしてみたいという気持ちも湧きます。

しかし、やみくもに独立起業するのはハードルが高すぎます。
退職勧奨に応じて、退職金をつぎ込んだけれど残念な結果に…というのはよくあるお話。せっかく会社員、それも安定した正社員になっているのならば、副業や資産投資に色目を使わずに、まずはきちんと本業で収入を増やすようにするのが賢明であります。

会社員時代にどんなに人脈があっても、それは企業のネームバリューがあったから。上述の大企業勤務の男性のように、会社員だからこその信用があるからこそ、事業をするにあたって金融機関も融資してくれます。個人事業主規模であれば、営業も会計もすべて自分が行わねばなりませんし、税務申告もあります。扱っている商品やサービスについての法律知識も当然のように必要。知らなければ、信頼できる士業の専門家を探しておくこと。

さらに、会社員の加入できる社会保険に比べたら、自営業のセーフティネットは脆弱と言わざるをえません。健康保険で家族を扶養にもできませんし、傷病手当金もなし。労災もありません(事業主が加入できる労災もあります)。育児・介護休業制度もないし、廃業しても雇用保険からの失業手当なし。教育訓練給付金もないので、キャリアアップはもちろん自腹で。自分が健康を害してしまったら、おしまいです。雇われの身からすれば、時間と精神の自由はありますが、それに代わるリスクも大きい。自営業はなんでも経費で落とせるからと言われますが、事業に無関係なものは経費にできません。会社員は高い社会保険料を給与から控除されているからこそ、社会に守られているのです。

自分でビジネスをやりたい志向の方は、詐欺のターゲットにもなりやすいです。
楽してお金を儲けたいという野心を利用されます。うさんくさいサプリメント・健康美容食品のマルチ商法や、投資などの儲け話に騙されてしまう人は多いですよね。私の知っているケースでも、地域で評判の飲食店だったのに身内が連帯保証人になったために廃業せざるをえなかったケースや、友人に合同で会社設立を持ち掛けられて代表者にまつりあげられた挙句、負債だけ背負わされてしまった人がいます。経営者もしくは名ばかりの管理職という肩書に気をよくしてしまって、付け入られたのでしょうね。ひとを雇って、仕事を任せて、偉そうにふんぞり返るのが経営者だと思っていたら、その人は経営者としての資質がありません。

自営業をするうえで、絶対にしてはならないのは、配偶者、子ども、両親など自分の家族・親族、お世話になった友人・知人にはぜったいにお金の迷惑をかけてはいけないことです。『武士の家計簿』(磯田道史著・新潮新書・2003年)によれば、江戸時代の武士はいざというときの金銭支援ももくろんで、商人や豪農とも縁戚になっていたらしいです。公務員である武士ですら、卑下していた商人を疎かにはできなかった。そして商人からすると、徳政令で借金を踏み倒す、斬捨て御免で感情の鉈をふるうお武家ほど信用できない相手はいなかったわけです。経済の力は偉大です。武士は食わねど高楊枝なんて言っても、腹が減っては戦もできぬし、仁義忠孝大事の論語では食えない。岩崎弥太郎の祖父のように、幕末期に借金のカタに売られた武士の株を買っていたケースもあるから、武士の財政事情もたいへんだったのでしょう。逆に血縁や地縁ゆえに巻き込まれて人生を棒に振った事例もあります。

会社員としてきちんと社会保険に加入していれば、自分に万が一のことがあっても家族の生活は保障されます。浪費癖があったり、仕事よりも道楽好きだったり、不適切な交際に耽ったり、お金の管理ができず他者の資産や経済力をあてにしたり、賭け事や不摂生な生活習慣があると自覚している人は、事業を私物化しますから事業主には向いていません。『金持ち父さん 貧乏父さん』みたいな本を読んで、バクチを打つ生き方を選ぶ。自営業で経営の悪いところは、たいがい、家族にも問題があってギスギスしています。話し合いができていないのです。パートナーや家族に感謝をして大事にできないと、人生うまく回りません。

人生百年時代。企業の一般的な寿命が三十年ですから、人間が一つの仕事、一つの会社で勤め続けることが当たり前ではなくなってくると言われています。定年退職年齢が65歳(たぶん、そのうち高齢者の定義は70歳、さらにはそれ以上に引き上げられるでしょうけど)に延長されたとしても、年金支給までにタイムラグがあるし、多くの勤労者が第二の人生を考えなくてはすまなくなります。会社員として副業をするのは当たり前になるでしょうし、そのいっぽう、いったん自営業になったけれどその経験知を活かして会社員として復帰する、もしくは兼業する人も多くなるでしょう。私の大学時代の友人は新卒で会社員になったのち、子育ての時間の都合が利くからとITマーケティングツールを開発して会社を経営していましたが、結局、その特許を他社に売って、そこの技術開発者として雇われています。絵がプロ並みに上手かったので画家になるか、流行りのWEBデザイナーにでもなると思っていたので、とても驚きました。

作家さんの小説でも、専業でない人、もしくは過去に特殊な職業体験があった人の話のほうが真に迫るものがあって面白いですよね。フリーターさんや学生上がりで「誰かのために」働く苦労を知らない人の、恋愛だとか、私生活エッセイとか、芸術家気取りの哲学とか、私はあまり買いません。失礼ですけれど、借りるか古本で十分です。古典(仕事上の哲学になるような先人の教え)と言われるものならば読みたいですけれど。

キャリアチェンジをするために、高等教育を受けたら終わりではなく、職業教育や資格取得の必要があります。無駄に学力のない大卒者を増やすのではなく、長年まじめに働いた高卒者で優秀な技能や人柄の良さを持つ者こそ大学進学させてもいいのでは。東大卒なのに、現場のリーダーになれない人もいますし。〇〇になるための学校ではなくて、持続的に何らかの「働く力」を養っていける教育が望ましい。

ただし、複数の仕事を掛け持ちすると、過重労働や情報流出も懸念されますね。育児や介護がある方は、キャリアアップしたくとも、思うように時間がとれない。テレワークが推進されていますが、仕事とプライベートとのけじめをバランスよくつけないといけませんね。多様なキャリアを積めるように、働き方改革が推奨され、多くの人が自分の生き方についてゆったりと考える余裕をもてるようになってほしいものです。


【参考記事】
裁判官のアパート経営NG 最高裁「廉潔求められる」 (日経新聞 2017/11/1)

職業によっては、副業が認められないケースもあるので注意が必要。
とくに公務員は原則終身雇用が約束されているので、「利益目的」の副業には厳しい場合が多い。
兼業は本業に支障がきたす恐れがあるため、就業先や家族の理解が不可欠です。
日頃から、良好な人間関係の構築を心がけましょう。
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