陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。

「FFF Project」 Act. 5

2006-09-05 | 魔法少女リリカルなのは感想・二次創作小説

校舎が近づけば近づくほど、少女との別れも近くなろう。
クロノは名残り惜しさについつい、ひとりごちめいたことを口にしていた。

「今日はいい天気だな。実に気持ちのいい晴天だ」
「そうですね」
「世の中を憎み、恨む権利がある人間はいるものだ。ある日、突然に愛する人間を奪われた者、どうしようもない重荷を背負わされてしまった者。そして、永遠に愛されることがない者。こういう人間に、窓から差し込んで背中を温めてくれる陽の光りがあるだけで、幸せな気分になれるだろ、なんて説得してもやはり無駄だろうな」
「そうですね」

少女はぼんやりとしたまなざしをさまよわせながら、口先で用意したかのような答えで返した。

「ほんとうにそう思えるか?」
「…なにを?」
「僕は君よりも少し若いときに、世の中を恨んだことがあったよ」
「…恨んで、どうなさったのですか」
「やはり強くありたいと願ったな」
「そうでしょう」
「よく聞いてくれ。強くなりたい、と、強くありたい、は違うんだ。君はさっき、拳で強くなってみせると言っただろう。だが、拳の力で救えるものは大したものじゃない」

その言葉は、半歩先を行く少女の歩みをひときわ緩くさせた。
クロノは草履の爪先をはじめて進行方向から逆へ向けて、案内役の少女の前に立ちはだかった。少女は驚きに目を見開いた。彼女がまっとうに対峙する人間、しかもこれぐらいの若い男とくれば、それは爪先を向かい合わせたが運の尽き、ことごとく卒倒して倒されてしまうがさだめだったのだ。この男はひょっとしたらさっきの出来ごとを目撃したのではなかろうか。さもあれば、ここで大人しく帰すわけにはいかないだろう。少女はひそかに右の拳に力を籠めた。手に提げた鞄のなかがもぞもぞしている。相棒がいまかいまかと待ち構えているのだ。

「怒りは、死ぬまで年老いることがない感情なんだ。怒りに身を任せるには、君の人生はまだ短すぎる」
「怒りなどではありません。私が強くあれと願っているこの想いを募らせるものは、怒りなどでは」

憎しみ、ただそれだけに支配されてしまう人生。拳が誰かを殴るたびごと潤っていくだけの乾いた心に怒りだけを浸したような人生。そんな人生の入口に差しかかろうとするこの年代の子どもたちを、クロノはたくさん見てきた。いま、ここでのおせっかいなひと言が、予防注射になってくれればいいが。クロノはそう願わずにはいられない。

遠くからこちらを眺めているおぼろげな人影に気づいたクロノは、目を凝らした。

「あれは、君のお知り合い?」

あまりにけったいな身なりをしていたので、隣の少女の知り合いかと思ったが、「いいえ」という短い言葉のみが返ってきた。
たとえ知っている顔だとしても、極度に他人と関わりあうことを避けているような少女の冷たさだ。平気で知らんぷりして通り過ぎたのかもしれない。

だが、しかし。
だとしたら、なぜ自分の都合にあわせて道案内を買って出たのか。クロノの迷いは尽きなかった。


ジャンル:
小説
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