陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。

「Flower and Fidget」 Act. 1

2006-09-06 | 感想・二次創作──魔法少女リリカルなのは

ミッドチルダ極北地区ベルカ自治領。
ここには、政教分離が叫ばれる管理世界にあっても、古くからの信仰と信頼をあつめた宗教施設がひしめきあっている。
背後三方を険しい高峰に囲まれ、堅牢な門戸や鉄壁に周囲を守られた聖王教会本部は、その広さだけでも首都球場ドームが三個は入る面積を誇る。外から見れば、さながら城塞都市の趣をたたえている。

しかし、この区域に足を一歩踏み入れれば、はじめての訪問者は驚かざるをえないだろう。まず出会うのは、皆がみな、黒く質素な礼服に身をつつみ、楚々として歩く修道女たちなのだ。
彼女たちは定刻のミサを除けば、美しい花園の手入れをしたり、中庭のテーブルでお茶会を楽しんだり、ときには聖歌隊を組んで合唱コンクールへ向けての練習に余念がなかったりする。修道女とはいえども、騎士資格を有する者も多かったから、領内でのスポーツもさかんだった。運動場では、白いスポーツウェアに身をつつんだ女性たちが髪を振り乱しながらクリケットの試合をしている。はたまた室内道場では、剣術・銃術・槍術そして柔術といった武道にいそしむ乙女たちの掛け声があがっている。

さて、そんな慎ましやかな聖女たちの楽園、その本堂につづく道を、紅い薔薇を結んだ花束を肩に乗せた男がひとり、ぶらりと歩いていた。

時は六月初め。
まだ梅雨入りはしないとはいえ、さすがにそろそろ半袖が欲しい季節だというのに、男はいつものようにブルーのワイシャツの襟元を群青のネクタイできっちりと締めている。そして、靴の先から肩まで染みひとつのない、純白で固めたいでたち。男にしては日焼けしない体質で、漂白したように肌も真っ白だった。男の裸の手は、侯爵が嵌めていそうな気品ある手袋に見えてしまうほどだった。男の色白というものは時に冷血漢か、はたまた至極軟弱の印象をかぶせてしまうものであったけれど、この色白の青年はクールで会話術に長けた、頭の切れそうな好い感じを人に与えている。

白づくめの男がこの界隈を歩くと、決まって、聖女たちが寄り集まってくる。
しかし、けっして近づいたりはせず、遠くから拝むだけだ。ときおり視線があって青年が歯を光らせて微笑むと、きゃあの、きゃいの、とはしゃぎさわぐ。黄色い声はしきりと湧き上がる。おもむろに髪を掻き揚げるしぐさも加えたら、その声は倍増しになって悲鳴に近くなる。なだれを打ったように、「ロッサさまぁ」という叫び声の嵐。青年は反応があるのを知ってか、わざとそうしてみせるのだ。彼の幼馴染は、気障ったらしいと鼻で笑うのだけど、その笑いを誘うのが青年は嫌いではなかった。

幼い頃から通い慣れたこの道を通るのが、時空管理局査察官ヴェロッサ・アコースの日課のようになっていた。飽くなき賞賛の声、絶えなき羨望のまなざし。いささか自信過剰な彼には、まさにそこは花道だった。

「ふっ。あいかわらず、僕は罪なオトコだな」

伏し目がちになりながら前髪をかきわけるしぐさも、我ながらサマになっている。
しかし、今日は日曜日で、月に一回の安息日のせいか、いささか聖女たちの追っかけ隊の反響が少ないような気がした。事情は分からない。けれど、事情は知ることができるだろう。これから向かう先にいる修道女に聞けばよいのだから。

「さて、今日はどんな懺悔をしに行くかな」

よく磨かれた上等な革物の白い紳士靴の足は、その道を右へ折れ、ポーチ型の支柱が並んだ回廊を通り、大聖堂のすぐ脇にある小道へと向かった。

やがて、アーケードのようにいかめしく繁殖した蔓薔薇に覆われた門が見えた。
毒々しい茨がみっしりと巻きつき、ときには可憐な花も咲くその門を、古くから信仰心厚い一部の人びとは、試練の道と呼び畏れている。よしんばなにほどか罪悪を抱えた者がその道を抜けようとしたならば、茨がするりと伸びて、絡みつき、通行人を絞め殺すのだというのだ。しかし、男がそこを通り抜けても門は追い出すこともしない。男が胸に抱えた花束が、そのかぐわしい芳香を振りまいただけであった。言い伝えの真実はこうだった──そのむかし、けばけばしい衣装やスカーフ、きらびやかな装身具を身に纏ったご婦人がたがこの門の下をくぐり抜けた時に、大変な目に遭われたというだけだ。それは釘の頭があちこちに出た狭い通路を、無防備に毛の柔らかなセーターで通り過ぎるようなものだ。以来、この教会に暮らす淑女たちは、全身をくるむ黒い衣装に身を包み、質素倹約をひたすら旨とする生活を送りつづけているのだ。



ジャンル:
小説
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