陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。

「Flower and Fidget」 Act. 2

2006-09-06 | 感想・二次創作──魔法少女リリカルなのは

「──で。本日はどんな告解をなさりにいらっしゃったのですか?」

聖王教会本部会東側に位置する大聖堂。
その端にもうけられた窮屈な小部屋のなかで、男と女は向かい合っていた。その男がドアを開けたその瞬間から、ふたりのあいだには逼迫した空気が漂っていたのだ。

薔薇の模様をあしらった格子柵の向こうで、面会人の顔を見たなり、すげない言葉を浴びせたのは、修道女シャッハ・ヌエラ。
教会騎士団を率いる騎士カリム・グラシアの秘書もつとめるこの彼女、陸戦魔導師としても、尉官に相当するAAAランクの持ち主だ。温厚そうなおもざしをしてはいるが、いざ彼女が刃を抜けば、その切れ味は鋭い。あの烈火の将シグナム一等空尉とまともにわたりあえるというからには、この教会騎士団においてもたいそうな女丈夫でもある。もちろん、相手に寄ってはその舌鋒も鋭くなろうというもので、ともにベルカ極北地区で育った腐れ縁のこの青年には、もっぱら容赦も遠慮もいらなかった。

「そんなつれない返事をするなよ。きょうは君のために、かぐわしい初夏の薫りを届けにきたのに」

いきりたつ修道女を前に、歯の浮き立つような台詞を軽やかにまじえながら、ヴェロッサはお手あげ万歳のポーズで応えた。
手にした花束は、両者を隔てる柵の、わずかに大人の手が通るだけの穴のまえに載せられた。ふんわりとほのかな薔薇の香りが漂う。だが、まだしもみずみずしい露玉を光らせた花弁を見定めて、シャッハは露骨に眉をひそめざるをえまい。

「どうせまた、騎士団本部の温室植物園からくすねたものでしょう?」
「どうしてわかる? ああ、そうか。さては、君もめでたく、僕と同じで読心能力に目覚めたのかな?」

綾に組んだ両手に顎を乗せて、薄い笑みを浮かべつつ。ヴェロッサはしげしげとシャッハを見つめていた。身を乗り出しているぶん、かなり視線が近い。この男に凝視されると、シャッハは気が気ではなかった。脳裏をかき回されなくとも、唇の動きや瞳の揺らぎなどで、心のなかを透かし見されていそうだったのだから。

シャッハは憮然として目をあわさないまま、穴からこちらへと覗いていた花束を突き返した。

「花をみればわかります。これは、あなたの姉君、騎士カリムが精魂込めて育てている希少種です。だいたい、花屋で買った花束がこんなに潤っていますか」
「や、これは。正午の水やりが早まっていたのかな?」
「まったく、あれほど温室管理係に誰も近づけてはならぬときつく命じていたのに。どうしたものやら」
「君がつくろったことにすればいいじゃないか。どうせ、今週末には、姉上のテーブルに飾るのだろう?」
「そうやって、罪逃れをする気ですか? あの温室の薔薇は、騎士カリムが大切に愛でているもの。慌ただしい政務の合間を縫って、あの場所で憩うのが彼女のたったひとつの安らぎなのです。その数輪がむざんに刈り取られていることをお知りになれば、さぞや御心をお痛めになられるでしょう。ああ、なんと嘆かわしい!」

ヴェロッサがふと真面目な目つきになって、重々しく息を落とした。

「君はあいかわらずアタマがお堅いね。もっと可愛くなってもいいのに。人生で大事なものを見落としていくよ」
「よけいなお世話です」

眉毛を隠すようにぱっちりと横に切りそろえられた前髪が、この修道女の物言いには、まったく男への優しさをみせる丸みのないことをもの語っていた。

「棘のある薔薇ほど手折りたくなる。この子のようにね」

ヴェロッサは花束の一輪を抜き出すと、その花弁を唇でむしりとった。その一枚をぺろりと食べてしまった。

「うん。さすが姉上が丹精込めて育てている花だ。美しい味がする」
「また、いたずらなことを…」

シャッハの眉が吊りあがったのを興がるように、ヴェロッサは二枚目も見せつけるように口に含み、いたぶるように口で味わった。



ジャンル:
小説
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