陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。

「Flower and Fidget」 Act. 12

2006-09-06 | 感想・二次創作──魔法少女リリカルなのは

ヴェロッサに促されて、浮かない顔つきを見せたまま少女が入室した。
あたかもホテルのサービスのように、丁重に後ろに引かれた椅子に、少女は遠慮がちに腰を下ろした。

少女は小柄ではあるが、後ろにヴェロッサが立っているので、室内がかなり狭く感じられた。
薔薇の花束を抱えたまま、花婿のように白いスーツ姿で立っているこの男。ここの関係者なのだろうか。この場所の用向きにあまりに反するような存在に、少女はちらりちらりと背後に視線を移していて落ち着かないようだった。

「そちらの後ろの方は、教会の関係者なのです」
「さよう、わたくし、一級修道士のアコースと申します。以後、お見知りおきを」

来訪者の意を汲んで、不安がらせまいとさりげなく他己紹介するシャッハ。
ヴェロッサが胸に手をあてて、かしこまってお辞儀をした。台本がないのに、申し合わせたような見事な猿芝居がスタートする。

「派手な身なりですが、修道士アコースは私用があっていらしたのです。あまり、気になさらないでくださいね。人形の置き物だと思ってくれれば、よろしいのです」

つとめてにこやかな笑顔を見せながら、ドアの前でしぶとく残っているヴェロッサには目配せで合図する。そこに居てもよいが、口出しは無用です、ご理解を、という暗黙の呼びかけだった。
しかし、この男が上玉の美少女を目に止めて、そのまますごすごと指をくわえて見守っているはずがなかろう。

「君、かわいいね。年いくつ? 近くに住んでるの? どれくらいの時間、付き合ってくれるのかな? その制服、ザンクト・ヒルデ魔法学院の中等科のものだね。ということは、低く見積もっても十二歳てとこかな」
「え…と、あの…」

シャッハがほんらい訊ねるはずの質問を代わりに、ヴェロッサが畳み掛けるように少女に浴びせた。内気そうな少女は、身をすくませて居心地の悪そうにしている。瞬間、シャッハは凍ったヒレ肉をぺちりと頬に当てられたような顔をしていたが、そこはこの道十数年の修道女にして騎士カリム・グラシアの懐刀、それをおくびにも言葉には表さない。しかし、声は異常に低い。

「修道士アコース、お静かになさってくださいませんか。それでは、この可愛らしい子羊さんが、神に対して素直に打ち明ける心持ちになりませんもの」

こほん、という咳払い。シャッハが修道女らしく、しかつめらしい口調でたしなめた。
いかん、声がもう棘だ。ヴェロッサが肩をすくめた。シャッハがさらにねめつけると、口に立て指をして頷いて、沈黙を誓ったようだ。

「邪魔が入りましたね。まず、最初の宣誓からはじめましょう。父なる神、聖なる王に対して汝の罪をいつわりなくここに告白し、行いを悔い改めたいと誓えますか」

シャッハが聖王教書を取り出して、二本立てた指先をその表紙に添えた。
少女も黙って、格子の穴越しに差し出された、その革張りの厚い本に宣誓の手を乗せた。少女にしては、指先ががっちりしていてよく鍛えられている手だった。惜しむらくは、麗しいその面ざしとは不似合いなほど、手には痛々しいほど無数の傷跡が見られることだろうか。

「誓います。わたし、アインハルト・ストラトスは、父なる神、聖なる王に対して汝の罪をいつわりなくここに告白し、行いを悔い改めることを」
「よろしい。では、アインハルトさん。あなたの罪を告白なさってください。ゆっくりでよいのです。慈悲深い父なる神、聖なる王は、あなたのことをいつも見守ってくださっています」

職業柄とはいえ、よくもこんなにすらすらと、紙に書いて用意しておいたかのような台詞が口から出てくるものだ。
ヴェロッサは腕を組みながら呆れ返っていた。呆れかえりつつも、告解者の名をしかと脳に刻み付け、その心ぐるみいつ剥がそうか、と顎をさすりながら不敵に笑っていたのだった。ヴェロッサには、その小さな懺悔者の罪が、自分の脳を焦がすほど深刻なものには思えなかったからである。



ジャンル:
小説
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