陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。

神無月の勇者・大神ソウマの秘め力(二)

2017-12-03 | 感想・二次創作──神無月の巫女・京四郎と永遠の空
大神ソウマという少年の人となりを語るうえで欠かせない人物がいます。ひとりは恋のライバルとなる姫宮千歌音であり。そして、もうひとりは実の兄であり、オロチ衆の惣領として敵となるツバサですね。

アニメの四話、五話あたりに描かれていますが、大神ソウマは大神家の養子でした。大神神社の神主カズキは義兄になります。虐待する父親を刺殺して服役した兄がいたことは、作中で再会を果たすまで思い出せません。幼少のみぎりのこの凄惨なできごとがおそらく彼のオロチ因子の萌芽に手を貸したことは否めません。しかし、彼は他のオロチ衆とは異なって破壊と愉楽の道へと堕ちることはありませんでした。好きな女の子を護るという使命感に燃えていたからです。そして一途に愛情に傾くことで、彼は兄のツバサが失っていたものすら得ることができました。

ツバサはオロチ衆の頭ですが、どちらかというと七人の首を統率するリーダー的気質はない人です。二の首ミヤコには慕われているようですが、彼には本質的に他者への愛がありません。では、弟にだけ固執する彼はいわゆるブラコンと言われるような溺愛者だったのでしょうか。虐待する父から護ったときの兄はそうであったのかもしれませんが、成人して再会したときの兄はもはやそうではなかったと思うのです。少年時代からの風貌の変遷を見るにつけ、前科を犯した者には冷たい社会が、彼の性格を変えてしまったとしか思えません。

少年らしくあまり洗練されたものではないですが、ソウマの「好きな女の子の笑顔を護りたい」という、その飾りっけのない言動は、刃を向けたツバサ機に勝ち、さらにはツバサをしてオロチ最終決戦への激を与えられることになります。アニキだとか、センパイだとか言われて逆らえなかった関係を、若いエネルギーが覆していく。ツバサは弟を悪の道に引きずりこもうとしましたが、地獄の苦さを知りつくしている男にとってのそれは希望でもあり、絶望でありました。ひょっとしたら、ツバサは善良な弟ソウマに自分の身の振り方を正してほしかったのかもしれません。

このツバサVSソウマのロボット戦については、KOTOKO名曲アルバム 第二楽章で触れましたとおり、他のオロチ戦はおろか、オロチ最終戦にも増して、なかなかエキセントリックな演出がなされています。最終的に地球を救った勝利者にして、本作最大最強のヒーローは、言うまでもなく大神ソウマです。しかし、彼にとってはほんとうに勝たねばならない相手とは、自分を守り愛してくれたはずなのに、成長するにしたがって離反してしまった「古い家族」であり、「血の因縁」であったのです。大神ソウマにとって、ツバサは乗り越えねばならないエディプスコンプレックスの権化のようなものでした。次の世代を築くためには、子は古い絆を捨て、ときには親の意向に叛いても進まねばならないときがあります。それは生物の本能とも言えます。ツバサとの一戦は、いわばこの兄弟の「兄離れ」「弟離れ」となる画期的なイベントでした。

この兄弟間の相克について、やや悲劇的というべきか、滑稽ともいうべきか、とにかくコケティッシュなニュアンスを帯びて描かれてしまったのが、「京四郎と永遠の空」ですね。綾小路京四郎に比べれば、大神ソウマという人物は兄に対する依存心が薄いし、またツバサは京四郎の長兄カズキほど滅亡願望が強いわけではない。京四郎は自力でカズキに勝てたわけでもないのに、最終的には本命の彼女をゲットしてしまう。なんだか理不尽ではありますが、後世、どちらの弟が好感的に迎えられるかといえば、それは明白でしょう。京四郎の場合、名家のお坊ちゃんであり、かつ四人兄弟の末っ子という生育環境も影響しているとは思いますが…。いまでも神無月の巫女の伝説とともに語られるのは、不器用なくらいまっすぐな少年・大神ソウマなのです。

神無月の勇者・大神ソウマの秘め力(目次)
神無月の巫女考察シリーズ第三弾。絶対にやってはいけない(?)大神ソウマの視点から、アニメを解釈してみよう!

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