陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。

「Flower and Fidget」 Act. 8

2006-09-06 | 魔法少女リリカルなのは感想・二次創作小説

「そう考えたかった。だが、僕はまだ信じられないな。神の赦しというものが、こんなにも緩やかでいいものかと思わずにはいられない」

マザー・テレサや八神はやて率いた機動六課の精鋭スバル・ナカジマの母親クイントらの命を奪った一味が、まだ生きている。
しかも公金や教会への寄付金によって、教育を施され、生きる場所を与えられている。いっぽうで聖王医療院には、捨て子同然に届けられる命だってある。ヴェロッサは寛容ではいられない。彼女たちを完全に許せない、その自分が許せないのだ。その怒りを、信じてもいない神にぶつけてしまう。神を信じてなどいないのなら、教会に足を運ばねばよいのだ。だが、彼は黙って立ち去りがたい。

「元ナンバーズの更生プログラムについては、ナカジマ三佐やギンガさんとも相談の上、きっちりこなしてきましたし。間違いが起きるわけはありません。彼女たちは破壊活動には与しましたが、人を殺めてはいませんから」

ヴェロッサの思うところを先読みしてか、シャッハが切迫した口調になった。

「聖王教会で暮らしている、君の後輩修道騎士見習いさんたちを疑ってはいないよ。現に彼女たち、去年のマリアージュ事件でも、ずいぶん活躍してくれた」
「そうですよ。セインは羽目外しが過ぎて困りますが、あれで我慢強くて働き者なんです。領内にある醸成工場での働きぶりは職人たちから評判が良いようですし。ディードとオットーの双子は、口数は少ないですけれど、よく気が利きますね。彼女たちの焼いたクッキーと紅茶は、騎士カリムのお気に入りなのですから」
「姉上もずいぶん、人が良いんだね」

その言葉に皮肉っぽさはなかった。こころなしか、ヴェロッサの顔に浮かんだ緊張が解けた。

「姉上のお気に入りは、僕の煎れたアールグレイと地ビールだったのに。すっかり十八番を奪われてしまったな」
「ロッサは、たまにしか煎れてくれないから、おいしく感じるとおっしゃられていたのですよ」
「姉上なら言いそうなことだ」

ロッサは右手にある填め殺しになった窓から、外に広がる芝生の庭に視線をしのばせた。
手入れが良くされた庭には、大きな梢をひろげた棕櫚の木が生えている。幼い頃、その木の下でカリムとシャッハと三人で駆けっこをしたり、木登り競争をしたりしたものだった。
いまそこには真南の高い陽の光りを受けて、くっきりとした木蔭が浮かび上がっていた。暗い懺悔室に長くいたせいで、外の世界がやたらとまぶしかった。以前に、この懺悔室から覗いた時には、カリムを囲んで更生した少女たちが、青空の下、ほがらかにお茶会を開いていた。裁く者と裁かれた者とが、一なる神、同じ王への信奉を胸にして和解しあう。しかし、それを見た瞬間から、ヴェロッサには姉が遠い人に思われた。ヴェロッサは多くの人間の世迷い言を聞く。しかし、姉カリムはただ一なる神の御声に耳そばだて、それに従うことに迷いがない。

「彼女たちの更生にあたっては、出所前に思考調査をさせてもらった。ナンバーズの年長組に比べると洗脳教育が浅かったのか、驚くほど恭順を示していたね。自分が人を殺め、傷つけた記憶をすっぽり抜かれているなんて…幸せな生き方だよ」
「あの子たちは改心してくれました。いまでは、ヴィヴィオのよき友人たちです」

言いながら、ヴェロッサが魔法学院行きの約束を反故にしようとした理由に、シャッハは辿り着いた。
思考調査をしたヴェロッサに、やや警戒心を抱いていているかのようなチンクたちは、あまり会話をしない。気まずい思いをするもの同士、接触を避けようとしたのではないか、と。

「しかし、あまり気分がいいものじゃないさ。聖王教会に忠誠を誓うかどうか、頭のなかに探りを入れるなんてのはね。父なる神にも、聖なる王にも敬愛を抱かない僕が、異端審問にかけるなんて…愚かしいよ」

思考調査を受けた者の心の中身は、どこまで信じられるか分かりはしない。
これまでのところ、ヴェロッサが悪意の保全なしと見なした子どもたちは、つつがないその後を送っていた。自分の裁量次第では、脳裏にかすかに残るもつれた感情を咎めて、一年そこらの刑期を無期懲役に等しくもできてしまうのではないか。ふと、そんな考えが及ぶ至っては、ヴェロッサは胸に問い続ける。自分の能力は、果たして人を幸せにしただろうかと。



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