陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。

「Flower and Fidget」 Act. 9

2006-09-06 | 感想・二次創作──魔法少女リリカルなのは

「それでも、あなたの力をお借りしないことには、聖王医療院で今後とも保護される不幸な児童の行く末をどうにもできません」

医療院に保護された孤児や、更生施設に隔離されていた犯罪少年たちは、聖王教会で一定の改心プログラム(俗にこれを「洗礼」という)を経た後に、ミッドチルダ以外の管理世界からあまねく募集をかけて、引き取り手を探す。だが、養子にもらわれやすいのは、もの心がつくかつかないうちの六、七歳までが多かった。養子縁組先がいない場合は、そのまま、聖王教会に残ることもあった。セイン、オットー、ディードの三人はみずから望んで、教会での修道を選んだ。いまでも陛下と慕ってやまないヴィヴィオのため、そして辺境世界で暮らすアルピーノ母子の暮らしを支える生活物資を送るためだった。

こうしたJS事件の申し子たちが仮に犯罪に巻き込まれたとしても、聖王教会や、八神はやてたちが黙ってはいないだろう。
だからこそ、ヴェロッサだって彼女たちの人格適正に太鼓判を押した。だが、ミッドチルダを離れて、生まれた故郷をも失った子らは新天地で新しい家族と幸せに暮らしているのだろうか。引き取られた後で、養子縁組を解消されたまま路頭に迷ってしまい、あげく犯罪集団に流れていく孤児たちも少なからずいたと聞く。

「僕が気にかけているのは、もっぱらスバルが連れてきたあの少年さ」

ヴェロッサの脳裏に、さきほどの不安定な鐘の響きがよみがえる。もうとっくに、静かな午後のそよ風にまぎれて消えていったはずなのに、あの奇妙にたどたどしく重ぼったい音がずしんと胸の奥に残っていた。彼は何かのやり切れなさに力任せに鐘を打つことで紛らわそうとしているではなかろうか。

「ヴァイゼン鉱山の落盤事故で家族を失ったと、伺いました。名前はたしか、トーマ・アヴェニール」
「そう。僕の見立てだけど、あの少年はふつうじゃない。肩に触れただけで、ものすごい瘴気を感じた」
「瘴気…ですか。そんなふうには思えませんが。朝晩の礼拝や、ミサへの参加も熱心ですし、奉仕活動の掃除も率先して行ってくれます。とても、気だての優しい男の子ですよ」

シャッハは、数日前のトーマを思い浮かべて、思わず微笑んだ。
トーマ少年は、中庭の古くからある菩提樹を見上げていた。その太い幹の裏にうがたれた穴を巣にした小鳥たちを見つけたのだった。その幹の腐敗が激しく倒壊の恐れがあることから、枝のしっかりしたやや若い樹へと巣箱を設置した。丸い入口のある檜の箱に餌とふかふかの藁を敷くと、三日のちには小鳥たちの元気なさえずりがそこから聞こえてきたのだった。ちいさな命を愛おしむあの少年が、人を傷つけるような恐れがあるなどとは、シャッハには信じられないのだった。

「僕には見えたんだよ。彼の抱えている、とても重たくて苦しいものがね。十年前の復讐心をひそかにたぎらせていた僕とおなじだ」
「でも、あの子はいずれ、ナカジマ家が引き取ることになっているんです。そう聞きましたよ。本人が希望すれば学校にも通わせて、聖王教会の司祭にでもなってほしいというのが、スバルやナカジマ三佐の希望だとか」

新暦0074年に第3管理世界ヴァイゼン北西部の鉱山で起きた落盤事故は、その都市を潰滅させるほどの甚大な被害をもたらした地震によって引き起こされたというのが、公式の見解である。その生き残りであるというトーマ少年は、湾岸救助隊所属の二等陸曹スバル・ナカジマによって保護されたが、現在、一時的に聖王教会に預かりの身となっている。保護責任者はゲンヤ・ナカジマ名義で、ミッドチルダでは十三歳で学校教育を受けていないのは立場上よろしくないので、修道士見習いということにしてあった。

ゲンヤはなるべくなら、少年に地方教会の司祭にでもなって、遺族たちの菩提を弔う、穏やかな余生を送らせたいと考えていた。
魔導資質がさほど高いわけではないトーマには、それが相応しかろうという判断だ。もちろん、あくまで希望であって本人に強いたりはしていない。

「そうだろうか。あの子はもう十三歳だ。だがね、彼の人生の半分は、いまだあの故郷に残されている。大事に大事にまもられている優しくてあたたかな時代の記憶があった。彼はそれに縛られているはずだ。それに縛られすぎたために、彼はいずれここを出ていくかもしれない。とんでもない行動を起こしたりしなければいいが…」


ジャンル:
小説
この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« 「Flower and Fidget」 Act. 10 | TOP | 「Flower and Fidget」 Act. 8 »
最近の画像もっと見る

Recent Entries | 感想・二次創作──魔法少女リリカルなのは