陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。

歌舞伎界の巨星・市川団十郎

2013-02-05 | 芸能・スポーツ・事件
和服にめかしこんで歌舞伎鑑賞に出かける、というほどの風流な趣味を持ち合わせてはいない身の上ではありますが、歌舞伎俳優の一門といいますのは、国民的人気を誇るスポーツ選手とならび、世代間で話題を共有しやすいのではなかろうかと思います。十二代目市川団十郎さんの訃報に接したのは、いつもならばインターネットのニュースで世情を先取りしている私が驚くほど、早くに家族からもたらされた知らせでした。享年六十六歳、芸の世界では若すぎる死といわざるを得ません。謹んでご冥福をお祈りいたします。

私と同世代ならば、十二代目団十郎氏とは、「おーい、お茶」の伊藤園のCMで有名な市川新之助こと、十一代目海老蔵氏の実父として、知られる人物なのでしょう。大河ドラマでいいましたら「花の乱」。三田佳子演じる日野富子の夫君、足利義政の少年期と成人期を親子でつとめたことで話題になりましたね。

十二代目団十郎氏はその素顔を拝するに、ひじょうに穏やかな徳のある方であることが察せられ、誰もが評するように、歌舞伎界の顔役でした。十九歳で天才と謳われた先代を亡くし、自分なりの試行錯誤を重ねながら、団十郎家の十八番を復活させた、まさに歌舞伎界復興の立役者というべき人材。海外公演も積極的にこなし、日本の伝統文化を国際的に広めた貢献者。なにかの新聞記事でインタビューを見かけましたが、古典文化の継承者として恥じないだけの深い教養をもった発言がとても印象深かったものです。

しかし、ご子息の海老蔵襲名披露と前後して白血病をわずらい、闘病から舞台に返り咲くも、父親として次代の行く末に懸念がなくなることはなかったのでしょう。若くして後ろ盾を亡くしたために背負った自分の苦労を息子には負わせたくなかった、との信念をあらためてうかがい、なんとも目頭が熱くなるものです。いずれ十三代目を継がれるであろう海老蔵氏も、才あるがゆえに注目も高く、とかく例の事件以来の素行がたびたび取り沙汰されていたりしますが、名跡を担うという重圧や父ご尊父のご病気への心労などなど、はかりしれない苦渋があることとお察します。

ちなみに、昨年十二月に亡くなられた中村勘三郎さんをふくめて、歌舞伎座の建て替え工事中に、つぎつぎと歌舞伎界の重鎮が世を去る事態。まるで舞台がそこにおさまる役者の魂を連れ去ってしまったかのようですが、大正時代に関東大震災で焼け落ち建て替えた際も、似たようなことがあったのだとか。

一時代を築いた大きな人物がなくなると、まったく未知の世界に取り残されたような不安感がつきまといます。このあいだの元横綱大鵬関もそうですけれど、比較的若く、二十代,三十代で現役で活躍していても、やはり、後進にとっての精神的な支柱となるような存在はいるだけで安らぐものですし。重大な舞台に立つたびに大事な人が側にいないという苦しさを若い時代に経験していれば、この心痛がどれほどのものかおわかりなるはずですが、次世代の俳優たちを陰ながら応援したいものですね。



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