陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。

「FFF Project」 Act. 11

2006-09-05 | 魔法少女リリカルなのは感想・二次創作小説

「そういや、さっきの子、ずいぶんと可愛らしいデバイスやったな。ニャンコ型やし」
「鞄の中か…。捨て猫でも隠してるのかと思ったが…。はやては相変わらず鼻が利くな」

クロノが魔導師として戦いの前線に出なくなって久しい。戦士としての勘も鈍ってきたかと思うこともある。指揮官としての立場をわきまえず、好奇心旺盛で敵さん方の顔見たさに一番乗りで戦況に突っ込んでしまいかねないはやてのことだから、最新のデバイスの変化にも詳しいのだろう。

「うん、まあシグナムが面倒みてるちびっ子に聞いたら、最近の若い子はみんなああいうアクセサリーが欲しいんやて。わたしのリインは選びようがなかったけどなぁ。たまにレイジングハートやバルディッシュみたいに、無機質でポケットに入るぐらいのが持ち運びにいいかなと思うたりもするわぁ、メンテナンスを嫌がったりせんし、食費もかからんし。そやろ、ザフィーラ?」

同意を求められたザフィーラは複雑な表情を浮かべている。何せ彼は、つい一週間ほど前、リインおよびヴィータが引き起こした一件に巻き込まれてしまい、夕食でお仕置きを受けたばかりだったからだった。シンプルな外装がいいのだとこぼしつつも、嬉々としてミシンを走らせミニチュア服を仕立てては、リインに着せ替えさせて楽しんでいたりするのが、この主・八神はやてである。

「ところで、はやて。グレアム氏は最近、ご息災なのか?」
「最近はとんと、ご無沙汰やけど。なのはちゃんが海鳴市へ里帰りするついでに便乗して、英国に寄ったりするよ。相変わらず、田舎で庭仕事しながら、リーゼ姉妹といっしょにのんびり過ごしてるで。たまに自作の陶器とか送ってくれるし」
「そうか、それは良かった」

時空管理局顧問を務めていたギル・グレアムは、管理局のフィクサーと呼ばれた大物。
もとは地球の出身で、いまは使い魔の双子ともども隠遁生活の身の上。クロノにとっては、親子二代に渡っての上官でもあり、フェイトの保護観察官でもある。また、車椅子生活だった八神はやてにとっては、あしながおじさんだった。クロノにとっても、はやてにとっても、いわば父親代わりのような存在だった。時空管理局職員の退職者だから生活に不自由のない年金暮らしのできるグレアムだが、かつての恩返しとして、はやては少なくない仕送りをしているのだった。そのお金は、今は空き家にしている日本の八神家住宅の管理の委託にも回されている。

「なあ、はやて。もし、さっきの女の子が君の大事な部下や友だちを傷つけるような力があったとしたら? 君はあの子をどう扱う?」
「ん。そーやなあ…」

八神はやては、いまだに知らなかった。亡き八神の両親の知人を装って後見人になったその初老の男が、部下を喪ったことを悔やみ、闇の書の永久封印をすべく、はやてともども葬り去ろうとしたことを。その計画を知って阻止したのは、他ならぬ闇の書で父を奪われたクロノなのだということも。魔導師としての天来の素質がけっして高い方ではなかった少年を死にもの狂いの教育で一流に育て上げたグレアム氏の動機がどこにあったのかを知りながら、それでも最後にはクロノは恩師の目論見を裏切った。はやてには真相を伏せておく代償として、ギル・グレアムは局を辞し故郷に身を埋めたのだった。

「うちのご飯、おいしいから食べに来ない?って誘うかなぁ」
「おい、ちょっと待て。相手がヴィータやシグナム達を殴ったとしても、そう言えるのか?」
「うちの子たちに一太刀浴びせられるような逸材なら、なおさらやね。寝食つけて宿も提供したいくらいやわ」

クロノはこの言葉に呆れかえり、また同時におかしくもなった。
父親の仇とも思う闇の書の存在を知ったときに、はやてもろとも討ち滅ぼしたくなかったかといえば、そうは言い切れない。だが、フェイトやなのはと同じ年端もいかない少女を、自分は生かすことに決めたのだ。犠牲を最小限にすべく乗組員すべてを避難させたのちに、闇の書に浸食された艦船とともに命果てた父の願いがそうであったからと悟ったからであった。そして、その少女が病に侵されているのだから、どうせ長く持つまいという情けもあった。

地球上での「闇の書事件」が終幕しリイン二世が誕生してからも、闇の書が暴走することはない。はやては健康な体を取り戻し、いまや時空管理局にはなくてはならない人材だった。闇の書は実にいい主人を得たものだ。だが、しかし、機動六課時代の八神はやての能力限定解除の権限が自分に与えられているのは、単なる友情からではなかった。可能性は限りなく薄いが、万が一、はやてがまた悪の魔導力に乗っ取られたとしたら、指揮官の一人として非情の判断を下せねばならないことも意味している。それは、はやて自身ではなく、はやてが匿った敵が起こした騒動だとしても同じことなのである。

「世界はいつだって、こんなはずじゃないことばっかり。そやけど、自分の勝手な悲しみに、無関係な人間を巻き込んでいい権利なんて、どこの誰にもあるわけない。そやろ、クロノくん?」

クロノは驚きを顔いっぱいに広げ、してやれられたという風に額を押さえた。そうだ、そうだったのだ。先ほどのあの寂しそうな女子学生に言いたかったのは、そのひと言だったのだ。

「ん? なんかおかしいこと言うたかな?」
「いや…。まさか自分の育てた娘が、お父さんごっこしてるなんて知ったら、グレアム氏も笑うだろうと思ってな」
「まあ、どんな魔法使うたところで、お父さんだけはつくれんもんなぁ。なのはママもフェイトママも頑張ってるけど、たまには相談役の私がひと肌脱ぐしかないし。子供だましやけど、ま、こんな変装でいくしかないで。じゃ、クロノ父さんもまたあとで」

サングラスのつるに唇を滑らしたはやては、にたりと笑っている。ほな、さいなら。隙のありそうで全くない捜査官の目つきを黒いレンズの奥に隠したはやては、ザフィーラの尻尾を掴みながら、くるりと踵を返して、さっさと歩いていく。逃げないように、はやては弱点を掴むのがうまいのだ。

ふしぎなものだ。きょう、この日、クロノが高町ヴィヴィオの授業参観に出かけるのも、もとを正せば、グレアム氏が引退に従い、フェイトの保護観察官をも降りたからであった。暴走した闇の書ともども時空の海に散った亡き父クライドの魂は、闇の書の復活とともにはやてのなかに寄り添っているのではないか。クロノ・ハラオウンはそう思うのだった。


【第五部につづく】

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