陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。

「Flower and Fidget」 Act. 3

2006-09-06 | 感想・二次創作──魔法少女リリカルなのは

「おかしいね。父なる神、聖なるベルカの王の前では、生きとし生けるいのちはすべて平等に配分されるはずだ。僕が時期尚早に薔薇を摘み取ったとて、何を、誰に、責められようか」
「そうはいっても、教会の規律が乱れます。修道女たちにも示しがつきません。聖王教会最高顧問カリム・グラシアの弟君だからといって、好き勝手になされては困ります」

シャッハが詰問口調で、視線に睨みをきかせる。
ヴェロッサはやれやれといたふうに、椅子の背もたれに肘を預けた。ついでに足を組んで、上にした右足の靴の裏を覗いている。いまさら泥汚れがないかチェックしているのであろう。懺悔室を訪れる者にしては、かなりくだけすぎた、いや、おふざけもいいところの態度だった。

「ま、そう邪険にしないでくれたまえよ。僕には、ここしか逃げ場がないんだから」

ヴェロッサがめんどくさそうな物言いで、髪の毛を掻きあげた。百人の聖女を虜にするしぐさも、この利かん気のない修道女には通じるはずもない。

「さぼり場所のお間違いでしょう。今日も、ここで油を売っていてよろしいのですか? カリムからの言づてがありましたのに」
「あのお坊ちゃん、お嬢ちゃんが通う魔法学校のことかい? 半分は、はやてからのお遊びのお誘いだろ。父親ごっこなんて、はなっから僕は御免こうむりたいよ。独身主義者なんでね」
「ご友人の願いに応えたいとは思わないのですか?」
「すてきな一日の演出をするための衣装提供で、協力してやっただろう。僕ができるのはそこまでさ」

ヴェロッサは、無碍もなくひらひらと手を振った。なんという、つれない素振り。シスターシャッハの眉も吊りあがり気味になろうというもの。

「でも、子どもたちが狙われる可能性だってあったのですよ」
「場所からして、大きな事件が起きる訳ないさ。姉上の占いは、天気予報以上にアテにならないからね。予定時刻は午前九時だったんだろう」

ほらね、とウインクしながら、自分の手首に填めた腕時計を指さす。
黄金のゴージャスな文字盤の数字は、短針と長針が12の数字で重なろうとしていた。ヴェロッサはこの高価な腕時計のコレクションを十を下らない数は所有しており、そのひとつは、八神はやての細い手首に嵌められているはずであった。

「たとえ、そうであっても、最高顧問の託宣に従って万一に備えるのが、この聖王教会に与する者の務め。時刻が遅れて、もしくは複数箇所でということもあります。あの四年前の悪夢のように」
「もし、そうなら。そこは地上本部擁する首都警備隊さんたちの出番じゃないか」

地上本部、というときのヴェロッサは、にわかに悔しさを滲ませた声色を発していた。
特殊な洞察能力をもつヴェロッサ・アコース査察官は、その盟友の次元航空部隊巡航船艦長クロノ・ハラオウンほど、地上本部での評判はよろしくはない。彼の地上本部に対するひとかどならぬ嫌悪感は、妹分として目をかけている八神はやてが積年冷遇されていることからも、いや増していたのだった。

「ま、複数次元世界での広域同時多発型の事件になりでもしたら動かざるを得ないけれど。どっちみち、僕には戦う力はないのさ。勇ましい君たちにお任せするよ」
「何をおっしゃるのです。あなたには、無限の猟犬(ウンエントリヒ・ヤークト)という立派な牙もあるのです。現に危険度の高い任務地にはかならず、私をはじめとした騎士資格のある護衛も伴っているでしょう」

シャッハは嘆息とともに、苦い言葉をこぼしつづけた。
いま、目の前にいるこのサボり魔は、時空管理局が決して手放さないレアスキルの持ち主だ。彼が魔力で生み出した探査犬は、陸をも海をも空をも問わず、どんな次元の領域をも超えて情報を掠め取ってくる。本気を出せば、何重ものセキュリティの壁を破って、無限書庫に眠る機密情報を晒すことだってできる。だからこそ、この男は常日頃、飄々としているのだ。それは義きょうだいの契りを結んだ姉カリムの諭した処世術でもあるのだが、修道女は幼馴染の無気力が歯がゆくてならないのである。

ああ。なんと情けない。
これが、かのJS事件で単身スカリエッティの別アジトに乗り込み、ナンバーズの司令塔となっていたウーノを捕縛した有能査察官だったろうか。今のこの男は、聖王教会で花をむしり、お茶菓子をついばみ、戯れにフルートを吹いては聖女たちにチヤホヤされているだけの道楽者になり下がってしまっていたのだ。



ジャンル:
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