陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。

「Flower and Fidget」 Act. 11

2006-09-06 | 感想・二次創作──魔法少女リリカルなのは

そのとき、ヴェロッサの背後でドアが開く気配がした。
懺悔室のドアは向こう側に開く。少しでも、この小さな部屋を狭くさせないために。そのわずかな隙き間から、かしこみながらこの懺悔室を訪れる敬虔なる信者たちがおしなべてそうするように、手を前にして組みながら、澄んだ青い瞳の持ち主が覗きこんでいた。

その上から頭ひとつ分は高く、しきりと瞬きをする青い瞳の少年の半身が斜めになって見えた。扉にかけた手の指先を軽く二本挙げて、挨拶代わりとしていた。
扉を開けてその少女を先に通そうとしている少年の親切心が伺えて、シャッハは思わずに、訪問者ににこやかな笑みを投げた。噂をすれば影というけれど、まさかほんとうにあの子が現れるなんて。

「あの…懺悔室はこちらでしょうか? ご案内の方に、そう伺ったもので」
「そうですよ」

来客は、か細い声の少女らしかった。少女は、鐘撞き小僧の修道士見習いに頭を下げて礼を述べていた。
茶色い髪の少年は、じゃあね、と陽気に手を振って立ち去っていった。
トーマが親しげに手を振ったのは、初対面の少女に対してというよりも、部屋の奥に控えた馴染みの修道女に対してだった。ヴェロッサが抱いたような杞憂など、微塵も感じせない明るく元気そうな様子だった。

「告解をご所望ならば、今からでもよろしいですよ。さあ、こちらへどうぞ」

シャッハがしきりに手招きで入室を促すいっぽうで、ヴェロッサに退出願いたいと目で訴えていた。
ヴェロッサは、立ち去った少年の代わりに、腕を伸ばしてドアを支えていた。少女はその親切に軽い会釈で応じながらも、その男の前をすり抜けて進むことをためらっていた。

「でも、先客の方が…。お取り込み中でしたら、外で待たせていただきます」

少女は、遠慮がちだった。
年の頃十二、三歳か。銀髪に近い長い髪を左右で結んでいる。整った面ざしをしているが、どこか少女らしい愛くるしさを欠いていた。表情がぎこちない。
ヴェロッサとシャッハが同時に驚いたのは、その双眸だった。左右の光りが異なる虹いろ光彩。それは、古代ベルカの王族の証だった。

懺悔室を訪れる人は、たいがい、身近な人間にやすやすとは打ち明けられぬ悩みを抱えている。
まず、このドアを叩いて開くまで勇気を振り絞ってしまい、室内に入るやいなや、堅く口を閉ざしてしまう者も少なくない。この部屋独特の閉塞感がそうさせてしまうのだろうか。シャッハはなるたけ、そうした懺悔者の不安を取り除いてやりたかった。
その障害となっているのが、ドアの付け目の前に立つこの男。しかし、シャッハの願いとは裏腹に、ヴェロッサはいけしゃあしゃあと居坐り続ける構えを見せた。ヴェロサッサは少女のまとう、ばんやりとした不安な影に何かを読んでいたようだった。

「いや、僕のことなら遠慮しなくていい。もう済んだからね。迷える青少年は、こころおきなく、この方に洗いざらい告白し、清めてもらうといい。そうだろう、修道女シャッハ・ヌエラ?」

もたれかかった背中で扉の閉じるのを防いでいるヴェロッサが、けれん味たっぷりなまなざしで、シャッハに語りかけた。
この少女を前にして、出ていけ、いや行かぬ、という丁々発止のやりとりを披露したりすれば、それこそ精神の安寧を求めて辿り着いたさまよえる魂に、こころ穏やかにして助言を与えることなどおぼつかない。力づくで追い出すにしても、二人の間は薔薇の鉄格子で阻まれていたのだからして。

修道女の職務に忠実なシャッハ・ヌエラは、格子伝いに睨みを利かせながら、その男の同室を認めざるをえなかった。


ジャンル:
小説
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