陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。

「FFF Project」 Act. 2

2006-09-05 | 魔法少女リリカルなのは感想・二次創作小説

だが、彼にはこの日、もうひとつの任務があった。
それを、妻からの依頼と等しい重さで大事と思わないことはない。しかし、時間がとれるだろうか。また、どちらを優先すべきかを悩む。

姉さん女房のおかんむりをこうむるのは、恐い。
かといって、日ごろ、おなじ職場で顔つき合わせている、かわいい義妹の頼みごともおざなりにはできない。そもそも、この案件は母からのたっての願いだったのだ。
妻も分かってくれるだろう。なぜなら、これは十年来の家どうしの友情の問題なのだから。

紋付羽織袴に身をつつんだクロノに、さわやかな朝風が吹きつけては袖の下を通り抜けていく。
そのたびに、桐箪笥の奥に二〇年近くも眠っていたという着物に染み付いた、伽羅香のような雅な匂いがふんわりと漂った。この日のためにと意気込んで、それを出してくれたのは母のリンディだった。かねてより日本文化に並々ならぬ造詣を深めている彼女は、亡き夫にも和服を着せていたらしい。袖を通されたのは、わずかに一度しかない。

「父親参観か…子どもの私には、ちっとも縁がなかったな」

父クライド・ハラオウンの忌むべき殉職は、クロノが魔法学院を卒業する年だった。
当時は父親参観などという催しはなかった。あったにせよ、遠方赴任が多く、年中職務に忙殺されている父は、学校行事に参加できやしなかっただろう。母やその友人が管理職になるにつれ、働きながら子育てにも時間を割く配慮が生まれたのは、ここ近年のことだ。

目下の問題は、時間というより距離だった。
一時間枠のなかで、AとB、二つの地点を行き来せねばならない。A地点は彼の愛すべき子どもたちの入園式でつい先年の春訪れたから、まま分かるとして、問題はB地点だった。そこに至るまでの道のりがいかほどかを前もって知っておく必要があったのに、どうも勝手がわからない。

かといって、道ゆく児童にうっかり尋ねるわけには行かない。
もし質問の相手がプランBの対象人物のお知り合いだったら、この計画は台無しになってしまうからだ。幸いにして、一時限目がはじまっている時間帯に着いたので、初等科の児童に出くわすことはなかった。
できるなら目的をおなじくする父親を探し当て、同行させてもらうのがよろしかったが、相手がやはり対象人物と顔なじみの親族だったりすればやっかいになる。それに、自分と同じ年ごろの若い父親を捕まえるために、ここいらでうろついているというのも随分おかしな話だ。

クロノのこうした悶着は、半時間も早く到着しすぎたせいで、B地点に向かう男たちと思しき人の流れが見出せないまま続いた。

「あの、そこの方、何かご用で…?」

聞き慣れない声に、クロノは振り返った。それはクロノがかねてから期待していた声とはあきらかにかけ離れた、か細い声だった。


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小説
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