陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

映画「日の名残り」

2017-10-11 | 映画──社会派・青春・恋愛
メイドブーム、執事ブームがアニメのみならずトレンディドラマにも広がっている昨今。
そんな貴族趣味なお方にお勧めしたいのが、1993年の英国映画「日の名残り」。
ただし、ここに出てくる執事、メイドはそれなりにお年を召した方々です。NHKの日曜夜に「ダウントン・アビー」という英国ドラマが放映されていましたが、あの雰囲気に似ております。

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1938年、英国の名門貴族ダーリントン卿に仕える執事スティーブンスは、新しい女中頭にミス・ケントンを迎える。職務に忠実なあまり融通の利かないスティーブンスとケントンはしばしば衝突。だが、互いを理解しはじめてもいた。
主人のダーリントン卿の邸では、第二次大戦前にドイツ復興の手助けをするべく、会議が催されていた。この主人がナチスにならって反ユダヤ主義に傾いたことで、雇われていたユダヤ人女性が解雇される。主人の命に忠実なスティーブンスと、これに反対するケントンは激しく対立。
そして、スティーブンスをライバル視していた使用人のプロポーズをケントンが受けたことから、ふたりの別れは決定的なものに。

物語はその二十年後、所有者の替わった邸にまだ仕えるスティーブンスが、ケントンに連絡をとることからはじまる。もし、彼女が戻ってきてくれたら、スティーブンスはあの日、素直になれなかった愛を告げるつもりだったのか。いや、おそらく過去と変わりなく、プライドの高い執事の顔で接しつづけるしかないでしょう。
二十年越しの想いだったとはいえ、けっきょく家庭を守ること、母であり祖母である道をえらんだケントンにも好感が持てます。そして、ほんとうは自分が求めているのに、職務のためと嘘ぶいてケントンの再就職を願うスティーブンスもまたいじらしいではありませんか。
これが安っぽいハリウッド映画でしたら、平気で不倫になったりするんですけどね(苦笑)

老境に入ったふたりの紳士淑女の恋路に、軍事国家の台頭を前にしての名門貴族の没落など歴史性をももりこんだ、格調高いドラマとなっております。

主演は「ジョー・ブラックをよろしく」「アトランティスのこころ」など、知性的な老人を演じさせたら右に出るものはいないアンソニー・ホプキンス。
共演はエマ・トンプソン。
監督はジェームズ・アイヴォリー。

原作は、日本生まれで英国在住作家カズオ・イシグロ(石黒一雄)がTVドラマ用の脚本を改稿した同名小説。イシグロ氏といえば、村上春樹に負けず劣らず世界的な知名度を誇る作家。ドイツ語と日本語を駆使する多和田葉子のようなバイリンガル作家はいますが、氏の場合、幼少時からずっと英国滞在で母国語は英語。本作は氏の代表作でもありますが、日本では綾瀬はるか主演でテレビドラマにもなったSFサスペンスの『わたしを離さないで』も知られていますね。私がかねてから読みたいと思っていたのは『浮世の画家』。

日の名残り(1993) - goo 映画

【関連ニュース】
日本人が知らない「カズオ・イシグロ」の素顔 英国ではどう評価されているのか(東洋経済オンライン2017年10月6日)

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